ここ数年、シニア市場に対する注目度が高まる中で、「エイジテック」領域への注目度も高まっている。エイジテックとは、高齢者が生活の中で直面する課題を解決するテクノロジーを指す言葉である。このエイジテックへの注目は日本国内だけではなく、世界中で高まっている。どんな領域に可能性があるのかを解説した。

自宅のリビングルームでオンラインゲームを楽しむシニア(出所/Shutterstock)
自宅のリビングルームでオンラインゲームを楽しむシニア(出所/Shutterstock)

次の成長領域「エイジテック領域」とは?

 エイジテックへの注目度が高まる理由は大きく2つある。1つは世界中で進行する高齢化の進行、もう1つはシニアのデジタル慣れの加速だろう。

 内閣府が出す令和元(2019)年版「高齢社会白書」によると、世界の総人口は増加傾向にあり、その総人口に占める高齢者の割合も同様に増加しているとされている。具体的には、2015年時点で世界の総人口は73億8301万人・高齢化率は8.3%だった。これが60年には、総人口102億2260万人・高齢化率17.8%にも達するとされている。

 また、これに加えて高齢化率(総人口に対して65歳以上の高齢者人口が占める割合)も世界中で上昇している。15年時点では日本の高齢化率が26.6%と世界1位だったが、それに次ぐ形でスウェーデンやドイツなどの欧米地域や韓国、シンガポールなどのアジア地域の高齢化率も年々上昇傾向にある。

 これまでの連載記事でも解説している通り、シニアのデジタルツール慣れも加速する傾向にある。総務省の調査データでは、60~69歳でインターネットを利用している割合は82.7%と8割を超えている。国民全体の利用率が83.4%なので、全体平均と大差ない。デジタルツールの普及率の増加に合わせて、利用に慣れているシニアも増加していることが推測できるだろう。

 このように、世界中で進む高齢化とデジタルツールに慣れたシニアの増加という2つの傾向が組み合わさることにより、エイジテックへの注目度が高まっている。

 そしてこのエイジテック領域の成長は今後も加速していくだろう。AR(拡張現実)やVR(仮想現実)、ロボットなどのテクノロジーが進化していることに加えて、例えば米アマゾン・ドット・コムのような巨大テック企業が「Alexa(アレクサ)」を活用した高齢者支援に乗り出すなど、シニア領域に積極参入するスタンスを示している。テクノロジーの進化や資本力のあるプレイヤーの参入など、さまざまな要因から、エイジテック市場の成⻑スピードは上がっていくことが推測できるのだ。

国内外のエイジテック事例

 では、どのような企業がエイジテック領域に参入しているのか。エイジテック市場のカテゴリー分類をしたうえで各カテゴリーに参入している企業を紹介したい。

 大前提としてエイジテック領域は、一般的なビジネスモデル観点で4つのカテゴリーに分類できる。B2Cのモデルでは、(1)高齢者自身が購入する商品やサービス領域、(2)将来高齢者になるプレシニア層が購入する商品やサービス領域の2カテゴリーが存在する。B2B2Cのモデルでは、(3)高齢者を支援するために、社会や企業やその家族が購入する商品やサービス領域が存在する。そしてC2Cの領域では(4)高齢者と若年層をつなぐために利用される商品やサービス領域が存在する。これらの4つの領域において、どのようなサービス・市場が存在するのかを、国内外の事例として合わせて解説していく。

エイジテックの概要と4つの領域(カテゴリー)
エイジテックの概要と4つの領域(カテゴリー)

(1)高齢者自身が購入する商品やサービス領域 

■銀髪経済@中国
 この銀髪経済という言葉をご存じだろうか。「銀髪族」とは中国でシニア層を指す言葉であり、シニア市場のボリュームが増加していることによって生まれた言葉である。どの程度ボリュームが増加しているかというと、21年時点の調査によると、21年1~9月に56歳以上のシニア層が中国でネット経由で購入した商品の売上高は、前年同時期の4.8倍にも増加しているとされる。エイジテックというとこれまで挙げていた事例のように、高度なテクノロジーやアルゴリズムを活用したサービスを想起してしまうかもしれない。しかし、日ごろの購買行動や日常行動をデジタルツールの活用により効率化・便利化することでも、市場に参入する側にとって十分なインパクトをもたらすことができる。それがこの事例からも分かるのではないだろうか。

(2)将来高齢者になるプレシニア層が購入する商品やサービス領域 

■ETHOS@米国
 ETHOSは、不動産の整理・売却を伴うビジネスなど終末期のシニアに向けた事業である。これまでシニアが不動産の整理・売却の意思を表明する際、生前に完了せずに相続がうまく進まないといった課題が生じていた。そのためETHOSでは、スマートフォンを活用して早期のプレシニア期から、自分で生前に不動産を整理・売却できるようなサービスを提供している。これによって、通常準備に手間のかかる遺言計画も、スマホを活用してスムーズに作成できるようになり、不動産の整理・売却に関する課題も生前に減少することが見込まれる。

▼関連リンク ETHOS

(3)高齢者を支援するために、社会や企業やその家族が購入する商品やサービス領域 

■D free@日本
 トリプル・ダブリュー・ジャパン(東京・港)が提供する「D free」は、超音波センサーで排せつのタイミングを計測してくれるウエアラブルデバイスである。このプロダクト(デバイス)は、排尿前と排尿後のお知らせを通知してくれるので、尿意を感じにくくなった高齢者の方も、余裕を持ってトイレに行くタイミングをサポートしてもらうことが可能になる。

▼関連リンク D free

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