この数年で、総人口に占めるシニアの割合が高まっていることもあり、シニア向けWebサービスを提供する事業者が増加している。そこで連載第6回では、国内最大級のシニア向けコミュニティーを運営するオースタンス(東京・渋谷)が、国内のシニア向けWebサービスの紹介を通して、シニア向け事業で成功するために必要な要素を解説する。

なぜ今シニア向け事業者が増えているのか

 本連載ではこれまで5回にわたって“令和シニア”の実態を振り返ってきた。それらを踏まえつつ、再度、現状のシニアマーケットに関してまず解説をしておきたい。

 この数年でシニア市場へ参入するプレーヤーが増加している。その背景には、人口に占めるシニアの割合が増加していることが挙げられる。2021年の総務省の調査によると、65歳以上の高齢者の人口は3640万人に上る。これは人口の約3分の1に該当するボリュームであり、25年には団塊の世代が後期高齢者となることを踏まえると、今後の高齢化の進行の波は強まりこそすれ弱まることはないだろう。

 では、高齢者が人口に対して占める割合が高くなることがどのような変化をもたらしているのか。それは消費の総量に対する高齢者の出費比率の高まりにつながっている。実収入だけではなく、貯金を含めた資産をベースにして、シニアの消費総量が増加していくのだ。このような中長期的な変化を捉え、シニア市場に参入するプレーヤーが増加しているのである。

シニア市場で成功を収めるWebサービスの共通項とは

 参加するプレーヤーが増加しているとはいっても、すべてのプレーヤーが成功を収めているわけではない。ではシニア市場において成功を収めているプレーヤーには何が共通しているのか。ここからは、国内最大級のシニア向けコミュニティーを運営するオースタンスが、独自の視点から共通項を3つ解説したい。

(1)シニアの発信欲を引き出す仕掛けがある

 シニア世代の大きな特徴として、子育てや仕事から卒業することでアウトプットの機会が徐々に減少していくことが挙げられる。言い換えると、これまで日常生活の中で満たせていた貢献欲求や発信欲求を満たしきれていないことに課題意識を持っているシニアが多いということだ。

 この発信欲求や貢献欲求を満たすことができる機会をサービスモデルに組み込めているかどうかは、シニア向けWebサービスの成功を左右する1つの大きな要因になっているだろう。このようなシニア世代について押さえるべきインサイトは他にもあり、詳しくは連載第1回で解説している。

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(2)シニア世代に寄り添ったUI/UXになっている

 よくあるシニア向けWebサービスのUI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)でつまずくポイントとして、デザイントレンドを優先してしまうことが挙げられる。UI/UXの世界では、短期間でさまざまなデザインのはやり廃りが起きているが、このトレンドはデジタルツールに慣れていることを前提にしているものであることを忘れてはいけない。シニアは必ずしもデジタルツールに慣れているわけではなく、若者世代と比較すると、1つの画面から得られる情報量にも違いが生じてしまう。このことを念頭においたうえで、シニア世代向けのUI/UX開発では、より一層人間中心のデザインを心がけていくべきだろう。他にもUIデザインにおいて「学習コストを下げることを最優先にする」「チュートリアルであえて負荷をかける」などさまざまなポイントがあるが、詳しくは連載第4回をご覧いただきたい。

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(3)サービスへの定着を促進するCRMの仕組みがある

 シニア世代をWebサービスから新規で獲得するコストは高いため、シニア世代については、顧客を取り続けるマーケティングではなく、顧客を定着させてLTV(顧客生涯価値)を高めることを意識したマーケティング施策が重要になる。

 顧客を定着させるための仕掛けとしては、メールマガジンやコミュニティー形成などさまざまな施策があるが、そのような仕組みを活用して顧客にサービスを使い続けてもらうことに成功しているのも、共通項の1つであろう。特にコミュニティー形成においては、匿名で新しいつながりをつくり続けることが継続の要因であったり、金銭インセンティブよりも貢献インセンティブがコミュニティーにハマるポイントであったりなど、シニアの実態に向き合ったうえで、CRM(顧客関係管理)の仕組みづくりをしていくことが求められるだろう。CRMのポイントに関しては、連載第2回で細かく解説している。

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