ここ数年、中高年・シニアへの注目度が高まっているが、それに伴い、「趣味人倶楽部(しゅみーとくらぶ)」を運営するオースタンス(東京・渋谷)にも、シニア向けのサービス開発支援の依頼が増えている。連載第5回では、中高年・シニア向けのサービス開発の基本的な考え方と要点を解説する。

オースタンスでは、クリステンセン氏の提唱するジョブ理論を活用し、ニーズよりも幅広い機会を探索できる顧客の状況を捉えるJTBDに注目していく(出所/オースタンス)
オースタンスでは、クリステンセン氏の提唱するジョブ理論を活用し、ニーズよりも幅広い機会を探索できる顧客の状況を捉えるJTBDに注目していく(出所/オースタンス)

シニア向けサービス開発でも顧客視点が重要な理由

 サービス開発と向き合う際の前提として、中高年・シニア向けに限らず、サービス開発は失敗する可能性が高いことを念頭に置くべきだろう。リーンスタートアップのように、必要最低限の製品をつくって市場に出し、仮説の検証を繰り返す手法は既に一般化してきているが、そのような手法がサービス開発において重要とされるのも、前提としてつくったものが必ず売れる・利用されるとは限らないからである。またこれに加えて、既存事業がある中で新規事業に取り組もうとする企業のサービス開発においては、既存事業とのシナジーや事業ポートフォリオ、競合調査などを前提として、新規事業のサービス開発に取り組むケースも少なくなく、これもサービス開発の不確実性の高さに拍車がかかる要因となっている。

 ただでさえ不確実性の高いサービス開発だが、事業ドメインを中高年・シニア向けと設定すると、その不確実性が上がってしまうことも少なくない。その一番の要因は、シニア世代の実態の把握不足である。ほとんどのサービス開発担当者は年齢も若く、ターゲットとなるシニア世代とは、家族以外でなかなか接点を持てていないことが多い。その結果、ターゲット層となるシニア世代をあまり理解することができず、事業のサービスモデルをシャープに研ぎ澄ますことができず、結果として顧客に刺さらない、失敗する事業が生まれてしまうのである。

 このように不確実性の高い中高年・シニア向けサービス開発において重要なことは何か。それは、徹底的に顧客起点のサービス開発を行うことである。これまでの経験からでは理解しづらかったり、日ごろ接点がなかったりする顧客層だからこそ、顧客起点のサービス開発を心がけていくことで、求められている顧客のインサイトやジョブの正確な理解につながっていく。

 では、具体的にどのような方法で顧客起点のサービス開発を進めていくべきなのか。ここからはオースタンスが自社事業やクライアントの支援で活用しているサービス開発支援手法を紹介する。

ジョブ理論を独自昇華したオースタンス流サービス開発

 オースタンスでは、「ジョブ理論」という考え方を独自に解釈したうえで、サービス開発手法に昇華させている。ご存じのかたも多いかと思うが、ジョブ理論とは、『イノベーションのジレンマ』などを著したイノベーション研究の第一人者であるクレイトン・クリステンセン氏が、顧客理解のヒントとして提唱した概念だ。顧客が商品を購買するには、「顧客が片付けたい用事=ジョブ」があり、それ解決するために商品を「雇用する=ハイヤーする」という思考を根底にしたメソッドである。

 クリステンセン氏は、顧客がどういった状況にあるかを示す社会的側面、顧客が成し遂げたい機能とは何かを示す機能的側面、顧客が感じたい感情とは何かを示す感情的側面の3つがジョブにはあるとしている。言い換えれば、この3つの観点からジョブは構成されているわけだ。

 オースタンスでは、このジョブ理論に着目することで、全体としてニーズが飽和傾向にある現代で、ニーズよりも幅広い機会を探索できるような形でサービス開発を進めている。

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