本連載で解説してきた通り、中高年・シニアのデジタルツールの利用率は徐々に増加傾向にある。では、中高年・シニア世代に受け入れられるUI(ユーザーインターフェース)とはどのようなものか。連載第4回では、中高年・シニア世代にとって利用しやすいUIの要点を解説していく。
シニアはデジタルツールに慣れていると思い込んではいけない
大前提として、シニア向けの施策を検討するにあたって考慮しておくべきことがある。それはデジタル利用率の向上はしていても、利用しているシニア全員がデジタル慣れしているわけではないということだ。
確かにスマートフォンやパソコン(PC)などのツールを積極的に利用しているシニアは増加傾向にある。だが実際の利用状況を深掘りしてみると、利用はしているが使いこなせていなかったり、若者であれば難なく理解できるようなUIでもなかなか理解できなかったりする事例が散見される。
オースタンス(東京・新宿)が運営する「趣味人倶楽部(しゅみーとくらぶ)」を利用しているユーザーの行動を観察してみると、LINEのような最低限必要なコミュニケーションツールは実際に活用しているものの、その他のアプリを能動的にインストールして利用することは実は少なく、家族や知人からのお勧めや広告などを見てから、アプリをインストールするという受動的な行動をしていることも多い。
そのため、中高年・シニア向けのUI(ユーザーインターフェース)をデザインする際に、中高年・シニア世代が必ずしもデジタルツール慣れしているわけではない、ということは大前提として念頭においておくべきことである。
シニア向けUIデザインにおいてトレンドよりも優先すべきことは?
では、シニア向けのUIデザインにおいて重要なことは何か。オースタンスがこれまで培ってきたナレッジを踏まえると、最も重要なことは「トレンドを重要視しすぎない」ことである。
UIデザインにおいては、デザインから動作設計まで、さまざまな“はやりすたり”が生まれている。重要なのは、このはやりすたりのトレンドは、デジタルツールに慣れていることを前提としていることだ。言い換えると、ある程度のデジタルツールへの慣れや素養があることを前提にして、はやりすたりが生じているのである。
これを踏まえると、シニア向けのUIデザインを進めるうえでトレンドを重要視することは、必ずしも有効な打ち手とはいえないのである。
それは前述の通り、シニアは必ずしもデジタルツールに慣れているわけではないからだ。デジタルツールに慣れているミレニアル世代やZ世代とシニア世代を比較したときに、1つの画面から同じ時間で受け取れる情報量は異なるうえに、使いやすいと感じるデザインも異なる。シニア向けUIにおいては、トレンドを優先しすぎず、他の世代向けのUIデザインと比較したときに、より人間中心のUIデザインを心がけていくべきだと考えている。
中高年・シニア向けのUIデザインにおいて重要なポイントは何か。そのデザインの要点を2つに絞って解説する。
要点1:極力シンプル、かつなじみのあるUIで学習コストを下げる
実はシニアと他の世代を比較しても、ユーザーのサービス利用導線に大きな違いはない。ただ、同じ動作をしていても、そのUIからとれる情報量に違いが生まれてしまうのが、シニア世代におけるよくある課題である。これはデジタル経験値に起因するものである。
他世代であれば、ある程度さまざまなUIになじみがあるため、過去の経験と照らし合わせながら、必要な情報を取ることができる。しかし、過去の経験が少ないシニア世代は、照らし合わせるべき過去の経験や知識が少なく、同じ動線に沿って行動していても、取れる情報量が少なくなってしまう。その結果として、他世代に対しては十分に情報を伝えられるUIであっても、シニア世代にとっては情報が取りにくいUIが生まれてしまうのである。
具体的な事例として、Webのトンマナの観点から喜ばれるデザインを紹介する。
① 好まれやすいレイアウト
シニア向けデザインでは、グリッド感や安定感を感じるオーソドックスなレイアウトが好まれる。適度な余白感があり、情報が詰まりすぎていないことが重要だ。先述の通り、シニアは若者と同じ動線をたどっていても取れる情報量が少なくなってしまうことがあるため、なるべくシンプルに、必要最低限の情報に絞ってデザインすることが重要である。
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