
原材料費や人件費の高騰、ウクライナ情勢、円安などのピンチに100円ショップ業界はどう立ち向かうのか。商品配送の工夫や生産地の移転、高価格帯ブランドの展開など大創産業の施策を分析。また、実際に店頭で販売されている100円商品が原材料高騰などの影響を受けているのかを調査。日用品をピックアップし、8年前(2014年)の同類商品と容量などを比較した。
ダイソー銀座店を皮切りに世界に向けて展開するグローバル旗艦店や、オンライン販売の拡大など勢いに乗る大創産業だが、100円ショップ業界には原材料費や人件費の高騰、ウクライナ情勢、円安など暗雲が垂れ込めている。100円ショップの商品を製造するメーカーからは、「材料はもちろん、商品を入れる梱包材の価格も上がってきているが品質はこれ以上下げられない。卸価格を上げるか、中身を減らすかをそろそろ本気で考えなければいけない」といった悲鳴に近い声も聞こえてくる。帝国データバンク情報統括部の飯島大介氏は「“100均”という構造そのものが難しくなり、非常に苦しい状態になってきている」と説明する。
「24年ぶりの円安」など100円ショップ市場を取り巻く情勢は刻々と変化しているが、予断を許さない状況にどう対応していくのか。大創産業商品本部長の平本良弘氏がコスト対策の1つとしてまず挙げるのが、商品配送時における積載効率の向上だ。「例えば、商品のサイズや内容を変えずにパッケージや梱包のサイズを少しずつ小さくし、コンテナあたりの積載量を増やす。こうした小さな工夫をいくつも積み重ねることでコスト増を吸収していきたい」(平本氏)
海外で製造、輸入している商品の製造場所を国内に移すことも視野に入れている。平本氏によれば、「現在の状況を考えると、商品によっては輸送コストや為替に左右されない国内で作ったほうが安くなるものもある」という。
ただ、国内生産にも課題は残る。「これまで生産を委託していた東南アジアの工場などと同等のコストで商品を作れる国内メーカーが実際にどれだけあるのか。将来的には国内生産が増えていくかもしれないが、サプライチェーンの再構築など課題は多く、すぐに実行できるようなものではない。国内生産主体となっていくのは、まだ先の話になるだろう」と飯島氏は指摘する。大創産業が扱う国内商品の割合は全体の3割程度。残りの約7割をどこまで国内生産にシフトできるか未知数だ。
“ミドル・ハイプライス”のブランドを拡充
大創産業が力を入れているのが、高価格帯ブランドを拡充させ、高収益を狙う作戦だ。ダイソーブランドでは、100円ショップの立ち位置でありながら中価格帯の商品も取り扱う“ハイ・ロー・ミックス”の戦略を取るが、100円ショップのなかで高価格帯商品の割合を増やしすぎてしまうと顧客からの反発が強くなる。「ならばブランドをきっちりと切り分け、“ミドル・ハイプライス商品”を取りそろえた300円ショップ事業としてを伸ばしていこうという狙い」(飯島氏)
2022年度の300円ショップの出店計画は、スタンダードプロダクツが国内50店舗、海外10店舗、スリーピーが国内100店舗、海外10店舗。一方で、22年度のダイソーの出店計画は、国内200店舗、海外150店舗。これまではダイソーの出店が主力だったが、他ブランドにも振り向ける方針だ。スタンダードプロダクツは“シンプルでサステナブル”、スリーピーは“大人かわいいデザイン”など、新たな付加価値を武器に高価格帯商品を訴求していく。
ただ、こうした高価格帯の日用品や雑貨は、無印良品(良品計画)やニトリが新たなライバルになってくる。勝算はあるのか。
飯島氏は、「例えば、無印良品はデザイン性、ニトリは機能性など、ブランドが押し出す“性格”にファンがついている。そこで『国産の良質なものを1000円で』というような独自の価値観を提供できれば勝ち目は十分にある」と語る。実際にスタンダードプロダクツでは、渋谷にオープンした1号店で話題になった新潟県燕市のカトラリーや岐阜県関市の包丁など、地域ブランドと組んだ商品を強くアピール。22年6月30日にオープンした広島八丁堀店では、熊野筆の先行販売も行っている。「我々が持つ仕入れや物流のノウハウを最大限に生かし、ダイソーの武器である“100円の驚き”を高価格帯でもチャレンジしていきたい」と大創産業300円SHOP商品部部長の井内武史氏は語る。
スリーピーは22年4月の銀座店オープンをきっかけにリブランディングも行った。スタンダードプロダクツやスリーピーの世界観を生活者にいかに伝えるか。300円ショップとしてのブランディングが今後の鍵になる。
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