
10年――。食品や日用品でロングセラーといえば数十年を超える“猛者”が多数いるが、スマホゲームでは至難の業だ。そんな驚異のロングセラーを続けるのが、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの「パズル&ドラゴンズ」、通称パズドラだ。なぜ長く愛されているのか、その秘密を同社の森下一喜社長に聞くと、“戻りたくなる仕組み”が見えてきた。
2012年に誕生すると、瞬く間に話題を集め、一世を風靡したといってもいいほどの人気作となったガンホー・オンライン・エンターテイメントのスマホゲーム「パズル&ドラゴンズ」、通称パズドラ。誕生から10年が過ぎ、続々とその他の人気ゲームが誕生する中、旬を過ぎたといった声も聞かれる。だが、実は今なお多くのファンがプレーする人気コンテンツとして気を吐いている。
22年4月には、国内累計ダウンロード数が5900万を突破するなどいまだに新規ユーザーも流入。MAU(月に1回以上利用したユーザー数)は、14年をピークに現在ではその半分以下に減ってはいる。だが、18年以降、下落傾向にあるMAUがイベントなどの後にぐんと大幅に盛り返すことが繰り返されており、一定のレベルで下げ止まっている。また、イベント時には、群雄割拠のスマホゲーム市場において、国内売り上げランキングで首位に立つこともいまだに起きるというから驚きだ。そこで今回は、パズドラの生みの親である森下一喜社長に、長く愛される戦略を聞いた。
改めてパズドラを説明しておくと、所持するモンスターでチームを編成し、様々なダンジョン(冒険する場)で敵と戦って勝ち進むRPGの要素と、敵を攻撃する際にパズルのドロップ(玉)を消していくパズルゲームの要素を組み合わせたのが特徴だ。斬新なスタイルに加え、片手でも手軽にプレーできることから、移動時間や空き時間に遊びやすい。
初心者でも簡単に遊べる一方で、ゲーム好きでも楽しめる“やり込み要素”が多いのも人気の理由だ。画面上のドロップは指でタッチしながら自由に動かすことができ、同じ種類のドロップを3つ以上、縦か横にそろえて消滅させることが基本。また、一度により多くのドロップを連続で消すと攻撃力が増す仕掛けもある。さらに、手持ちのモンスターを強化したり、編成を変えたりして遊ぶこともできる。習熟すると、ドロップを効率的に消せるようになったり、モンスターの最強の編成を考えられるようになったりと、上達して上級者になる喜びを味わえるのが醍醐味だ。
そもそもなぜヒットしたのか、森下氏は後付けにはなると前置きをしつつ要因をこう話す。「最も大きな要素が、幸運にも、スマホの普及が拡大したタイミングとゲームの投入時期が重なったこと。当時、画面に指でタッチしてドロップを自在に動かして消していくスマホならではの遊び方は革新的であり、多くのゲーム好きが興味を持ってくれた」。だが、「正直、ヒットしたのは運の要素が強い」と、森下氏は続ける。
しかし、毎年多くのタイトルが生まれ、その多くが消えていく生存競争が激しいスマホゲーム業界の中で、長く使い続けてもらうことは運だけでは済まされない。これだけ長い間愛され続けるには、ゲームの面白さに加えて、それ以外にも何か秘訣があるはず。話を聞いていくと、飽きさせない工夫に加えて、「いつでも戻りやすい」仕掛けが鍵になっていることが分かった。
改めてロングセラーになった理由を森下氏に問うと、3つの要素が浮かび上がった。まず理由の1つ目は、「ゲームの中で様々な“資産”がつくられる仕掛けが豊富にある」(森下氏)というものだ。どういうことか。
やればやるほど“資産”がたまり、やめにくく、そして戻りやすくなる
森下氏がいうパズドラの資産とは何か。代表的なものを挙げるなら、まずはゲームを進める中で獲得できるモンスターがそれに当たる。モンスターは5000種類以上あり、無料でも手に入るし、課金によるガチャでも入手可能だ。ゲームをやればやるほど、所持するモンスターは増えていく。「プレーヤーにとってそれらは時間をかけて手に入れた努力の結晶であり、せっかく頑張って集めたのだから手放すのはもったいないと思うようになる」(森下氏)。
また、パズドラには「フレンド」という機能がある。他のプレーヤーに申請をしてフレンドになると、ダンジョンで敵と戦う際、そのプレーヤーが持っているモンスターを“助っ人”として借りてチームの編成に加えられるシステムだ。「ゲームを長く続けていると、このフレンドも多くなり、それも同様に資産となる」(森下氏)。
さらに最後であり、最も重要ともいえる意外な資産がある。
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