AI(人工知能)やビッグデータの活用による行動分析がビジネスの当たり前になってきた中で、企業はデジタルサービスと接する生活者の心の中をどこまで把握し、ビジネスに生かせているでしょうか。実は「インサイト」「顧客理解」など、マーケティング実務におけるインサイト把握の方法をきちんと理解し、実践できているマーケターは決して多くありません。今回からは「『未顧客理解』入門 特別編」と題し、不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」を運営するLIFULL(ライフル)とコレクシア(東京・中野)で取り組んだ「住み替えインサイト」の発見と事業ブランドへの活用事例を3回にわたって紹介します。

インサイト把握の方法をきちんと理解できているマーケターは決して多くはない※画像はイメージ(画像提供:iQoncept/Shutterstock.com)
インサイト把握の方法をきちんと理解できているマーケターは決して多くはない※画像はイメージ(画像提供:iQoncept/Shutterstock.com)

サービスの独自化で、なぜ「インサイト」に着目するのか

 そもそもインサイトとは、「消費者の行動や思惑、それらの背景にある無意識の構造を見抜いたことによって得られる『購買意欲の核心やツボ』」とされています。そのインサイトの把握は、ビジネスやマーケティングにどのような恩恵を与えるでしょうか。本稿ではインサイト自体の詳しい説明は省きますが、インサイトはブランドの選好性を高めるコミュニケーションやサービスの開発、新規事業アイデアの創出など、ビジネスの非常に多くの側面で必要となる概念です。

 住まいを“借りる・買う・建てる”ときに利用される不動産・住宅情報サービスのLIFULL HOME’Sでは、ブランドが顧客に受け入れられる独自性(顧客提供価値を差別化するもの)を磨くことを目指すにあたり、顧客理解を深めるためインサイトに注目しています。その背景には次のような理由があります。

 「ITサービス事業者はアクセスや行動のデータを大量に保有しているが、住み替えサービスは他社のサービスとの併用率が高く、ユーザー行動が複雑でニーズも多様。そのため、生活者がサービスを利用している間に心の中でどんなことを抱えているのか、住み替えを通して潜在的に何をかなえたいのかまで見えてこない。また、自分たちのサービスを今後使ってほしいと考える、いまだお客さんでない人のことについて、能動的に知ろうとする必要がある」

 「LIFULLは『あらゆるLIFEを、FULLに。』をコーポレートメッセージに掲げる社会課題解決型企業・ソーシャルエンタープライズであり、選ばれるサービスになるために、企業としてユーザー一人ひとりの課題を深く理解して解決していきたいと考えている」

 つまり、生活者にとってより意義性の高いサービスとして価値ある独自のポジション(BRAND PROPOSITION)を確立するためには、「未顧客」を含む生活者のインサイトを理解し、応えていく必要があると考えたわけです。

 「自社の強み・独自性を明確にしたい」「差別化ポイントをつくりたい」という課題は、日本の多くのマーケターが強く意識しているテーマですが、生活者を知ることなく「価値ある独自性」をつくることはできません。競合にない自社だけの機能を備えたとしても、それが生活者にとって価値があるものでなければ意味がないからです。生活者にとって価値ある独自性は、生活者インサイトを深く理解し、競合企業よりも高い解像度で未顧客を含む生活者を理解すれば実現できます。

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