※日経クロステックの記事を再構成

「買わない人=未顧客」を理解する初めての教科書『“未”顧客理解 なぜ、「買ってくれる人=顧客」しか見ないのか?』(2022年6月)。経験豊富なマーケティングサイエンティストであるコレクシアの芹澤連氏がさまざまなエビデンスに基づいた未顧客理解の原理原則と、日々のマーケティング実務で実践できるフレームワークを、マンガと図表で詳しく解説した書籍です。「未顧客理解」のエッセンスをお届けしている本連載。しばらく間が空きましたが連載を再開します。
今回はこれまでのおさらいを兼ねて、8つのQ&Aでなぜ「未顧客理解」が必要なのか、過去の経験的マーケティングにどんな問題があるかを解説します。

 未顧客理解をテーマにした本連載を通して、読者の皆さまと「なぜ未顧客理解が必要なのか、そこにはどんな難しさや課題があるのか」といった問題意識の共有ができたかと思います。連載はこの後、「だからどうするのか、具体的にどう未顧客を理解し、獲得していくのか」という問題解決パートに入っていきます。

 今回の記事は、これまでの連載記事のポイントを一問一答のQ&A形式にまとめています。解決パートに入る前に本記事でおさらいをしておきましょう。

Q1 なぜ、買わない人(=未顧客)を理解する必要があるの?

どんな企業のどんな商品でも、市場の大部分は「商品を知らない、知っていても興味がないノンユーザー層」や「買ってくれても年1、2回程度のライトユーザー層」が占めています。近年の研究では、既存顧客を大事にしてファンを育てるだけの事業成長には限界があり、成長するには未顧客を取り込むことが必須であることが分かってきました。

 しかし、未顧客を理解するためのナレッジはほとんど蓄積されていません。日々の業務ではどうしても「顔が見える顧客」に意識が向いてしまい、「顔が見えない未顧客」は意識の外に追いやられてしまいがちです。また、未顧客のデータは自然には集まりません。データとは何かしらの購買行動の結果として発生するものですから、ブランドに対して興味関心のない未顧客の情報は集まりにくいわけです。未顧客については、理解に取り組む前に、そうした落とし穴について問題意識をそろえておくことも大切です。

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Q2 既存顧客こそが大事ではないのか?

もちろん既存顧客は大事です。しかし、既存顧客を大事にする“だけ"では、事業成長は見込めないというのが未顧客理解の視点です。事業の成長には新規顧客の獲得が必要であるというエビデンス(研究や論文)は後述のダブルジョパディの法則のように数多くありますが、既存顧客を大事にする(ロイヤル化、ファン育成)だけで事業が成長できるというエビデンスは見たことがありません。

 新規獲得か離反防止かという議論では、よく「上位20%の優良顧客(ファンやヘビーユーザー)による売り上げが、全体の80%を占める」というパレートの法則(2:8の法則)や、「たった5%の顧客離反を防止するだけで、利益が大きく増える」という5:25の法則を引き合いに出して、既存顧客の重要性が強調されることがあります。

 これらは有名な格言ですが、実証されたエビデンスではありません。実際にこれらの格言を検証した研究によると、ただの計算間違いや数値の誇張であることが分かります。有名な話だからといって、エビデンスがあるとは限らないのです。

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Q3 顧客理解と未顧客理解は違う? ペルソナやカスタマージャーニーをつくれば理解できるのでは?

 顧客理解と未顧客理解は全く異なります。既にブランドに興味があり、購買行動を起こしているヘビーユーザーやファンであれば、「ウチの顧客は基本的にこういう人たちだよね」「こういう特徴や傾向があるよね」という理解で構いません。なぜなら顧客の場合は、価値観や行動とブランドが既に何かしらのかたちでひも付いており、ブランドに対する評価軸(イメージや好き嫌い、利用方法や利用場面など)が存在するため、その中のどれを強めればよいかという捉え方でマーケティングがつくれるからです。

 一方の未顧客理解とは、例えば、どうすれば健康志向の人にレギュラーコーラが売れるか、コスパ重視の人にプレミアムビールが売れるかを理解するということです。つまり未顧客の場合は、「基本的なプロファイルから外れるとき」の理解が重要になってきます。ペルソナやカスタマージャーニーで、いつもの価値観や行動をいくら丁寧に記述しても、「いつもとは異なる思考や行動」を見つけることはできません。

 健康志向の人がレギュラーコーラを飲みたくなるのはどういうときか。どういう条件がそろえばコスパ重視の人でもプレミアムビールを買うのか。そうした、いつもと異なる思考や行動をつかさどっている「顧客の合理」を理解することが、未顧客理解の本質です。

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