※日経クロステックの記事を再構成

「買わない人=未顧客」を理解する初めての教科書『“未”顧客理解 なぜ、「買ってくれる人=顧客」しか見ないのか?』(2022年6月、日経BP発行)。経験豊富なマーケティングサイエンティストであるコレクシアの芹澤連氏が、様々なエビデンスに基づいた未顧客理解の原理原則と、日々のマーケティング実務で実践できるフレームワークを、マンガと図表で詳しく解説した書籍です。「未顧客理解」のエッセンスをお届けする本連載。今回は未顧客が「なぜあなたの商品に興味がないか」を考える意味のなさについて解説します。

 何か問題が起こったとき、人は理由を求めます。問題の原因を見つけて解決したいからです。特にビジネスでは「課題解決」という“型”で物事を捉えることが推奨されています。多くのコンサルタントが「顧客の課題を解決しなさい」と言いますし、ビジネス書には「WHY(なぜか)を考えることが大切である」と書かれています。その結果、多くのビジネスパーソンが「問題には必ず原因や理由があるはず」「それを突き止めて解決すればよい」と考えています。

 それ故に、非購買や無関心に対しても「何か理由があるはずだ」という見方をされる方が多いのですが、「未顧客(ノンユーザーやライトユーザー)」を理解するためには、そのパラダイムを変える必要があります。なぜなら「未顧客」の理解は、ノンユーザーやライトユーザーの満たされていないニーズを探し出して充足するといった「課題解決」の話ではないからです。

 そもそも、無関心や非興味に理由や原因は存在しません。関心がない、興味がないというのは意識の外にあるということです。そこに原因も理由もありません。ですから、あなたのブランドに無関心の人がいても、それは「ブランドがその人の課題を解決できないから興味を持ってもらえない」ということではありません。同様に、その人の未解決の課題を見つけ出して解決すればブランドに興味を持ってもらえるわけでもありません。未顧客理解においては、「なぜ興味がないのか」を考えても意味がないのです。

「理由→行動」ではなく「行動→理由」

 未顧客理解の前提として気を付けたいのが、理由と行動の因果の向きです。例えば我々は、顧客の購買行動を考察する際、「理由があって行動があるのだろう」という視点で考えます。ブランドAが購買されたというデータを見たら、「きっとこの人は、何かブランドAを好きな理由があって買ったのだろう」と思うわけです。

マーケターの合理:

ブランドAが好き(理由)

ブランドAを買う(行動)

 ファンやヘビーユーザーといった顧客の理解であれば、この向きを前提に考えても問題ありません。しかし、未顧客の場合は、向きが逆になります。すなわち、ブランドAが好きだから買うのではなく、「自分が買ったブランドだから、好き」なのです。未顧客はブランドに無関心な人たちです。「理由があって行動する」ことはほとんどありません。

未顧客の合理:

自分が買ったブランドA(行動)

だからブランドAが好き(理由)

 このように、自分の行動と辻つまが合うように認識を調整する性質のことを「認知的斉合(せいごう)性」といいます。例えば、新車を買った後に、最後まで比較検討して結局見送った方の車種と公道で出合いたくはないものです。「やっぱりあっちにしておけばよかったかも」という思いがよぎり、精神衛生上よろしくありません。万が一見てしまったら「いやもう若くないし、環境に優しい車にして正解だよ」とか「ブラックは傷が目立つから、ホワイトの方が長い目で見れば後悔が少ないはず」などと、自分の選択を正当化する理由を探すでしょう。

原因と結果の取り違えを防ぐための視点

 多くのマーケターが、「理由→行動」という“型”で非購買や消費者の無関心といった問題を捉えようとします。その結果、インサイトを見誤ります。ブランドイメージを例に考えてみましょう。通常我々は、ブランドイメージを向上させると購買されやすい、つまりブランドイメージが「原因」で、購買が「結果」という因果関係で考えることが多いと思います。

マーケターの合理:

ブランドイメージ

購買(売り上げ、シェア)

 プロダクト評価や競合調査、広告効果測定などは、この因果の向きを前提に組まれています。「信頼できる」や「リラックス感がある」のような項目でブランドイメージを測定し、広告の売り上げに対する効果や競合ブランドとの比較を行います。そうしたデータから購買に寄与するイメージを特定し、そのイメージを高めるための広告コミュニケーションやクリエーティブを開発するわけですが、未顧客に対してはこの因果の向きを疑ってみる必要があります。

 ブランドイメージと購買行動の関係については、「ブランドイメージの向上が購買行動につながる」のではなく、「購買した(使用した)ことがイメージを良くしている」と考える研究が多くあります。例えば、ブランドに対する肯定的な連想を持つ人の割合は、現在の購買層の中で最も高くなり、非購買層では最も低くなるという傾向が様々な商材で確認されています[1] [2]。また、売り上げやシェアが大きなブランドになるほど、どんなイメージを測定しても高いスコアが返ってきやすくなります[3]

未顧客の合理:

購買(売り上げ、シェア)

ブランドイメージ

 こうした説によると、市場シェアや浸透率が高まればブランドイメージは自然に向上しますが、ブランドイメージを向上させたからといって、それまで興味のなかった未顧客が買うようになるわけではなく、またシェアや売り上げが増えるわけでもありません。よりマーケティング実務に即した表現をするなら、「ファンやヘビーユーザーがブランドに感じている魅力をそのまま伝えても、ノンユーザーやライトユーザーが動くわけではない」ということです。

 筆者の経験上でも、こうした傾向は消費財から耐久財まで幅広く見られます。例えば、ブランドイメージをファンやヘビーユーザーで集計すると、そのブランドの特徴を色濃く表すイメージ項目だけではなく、ほぼすべてのイメージ項目のスコアが高くなり、購買意向との間に正の相関を示します。しかし、分析対象を未顧客に絞る、もしくは直近の購買や利用経験を条件付きにすると、ヘビーユーザー層では有意だった相関が非有意、もしくは極めて小さくなります。

 手持ちのデータがあればぜひ検証してみてください。未顧客に絞っても、直近の購買や利用経験を与件にしても、相関が消失しない要因を見つけることができれば、それは本当に有力なKBF(購買決定要因)候補になります。

「手法」ではなく「顧客」を見よう

 一般的に、大学や書籍などでしっかりマーケティングを学ばれてきた方ほど、「X(理由)をすればY(購買行動)が起こる」という“型”で考える傾向が強いと思います。なぜならそうした本や授業に登場する話は、大なり小なり「理由→行動」というロジックが前提になっているからです。

<理由→行動型のロジック例>

  • ブランドを好きになってもらい、購買してもらう
  • 競合との違いを理解してもらって、購買してもらう
  • 顧客とのリレーションを深め、購買してもらう
  • ブランドロイヤルティーを高めて、購買してもらう
  • 企業のビジョンへの共感を高めて、購買してもらう
  • SDGsを推進している企業であることを伝えて、購買してもらう
  • ブランドイメージや信頼感を向上させて、購買してもらう

 毎年のように生まれてくる新しいマーケティング手法やビジネスソリューションも、その多くが「X(施策)をすればY(売上)が増える」というロジックになっています。「Xが原因、Yが結果」と言われると何だか“科学的な感じ”がしますが、有名な理論だから正しい、みんなが使っている手法だから効果が立証されている、というわけではありません。そもそも、効果を同定する(本当に効果があると証明する)には、ランダムに分けた集団間で効果を比較する「RCT(ランダム化比較試験)」を実施することが基本になります。

 RCTは、2019年のノーベル経済学賞に選ばれた貧困問題に取り組むプロジェクトで注目が集まったので、聞いたことのある方もいるでしょう。マーケティングでは完全なRCTを実施することが難しいので、統計モデルを使って因果関係を探索したり(i.e. 統計的因果推論)、RCTに近いデータになるようにデータを補正したりする(i.e. 傾向スコア)必要があります。要は、時間もお金もかかるということです。そうした背景もあって、「XがYにつながってほしい」というマーケターの期待や、ベンダーの営業ピッチ以上のエビデンスがないソリューションも少なからず存在します。

 ここまで見てきたように、ノンユーザーやライトユーザーの理解は、我々が当たり前に想定する因果関係が成り立たないことも多い世界です。他の会社もやっているから、はやっている手法だからといって、自分のブランドでやってみたら「XをしてもYは変わらなかった」ということは往々にして起こります。手法ではなく、未顧客を理解する方法をきちんと身につけ、そのうえで適切な手段を講じることが大切です。

参考文献
[1]Bird, M., Channon, C., & Ehrenberg, A. S. C.(1970). Brand image and brand usage. Journal of Marketing Research, 7(3), 307-314.
[2]Romaniuk, J., Bogomolova, S., & Riley, F.D.(2012). Brand image and brand usage: Is a forty-year-old empirical generalization still useful?. Journal of Advertising Research, 52(2), 243–250.
[3]Sharp, B.(2010). How brands grow: What marketers don't know . Oxford University Press.

次回の「未顧客理解」を理解する

芹澤 連(せりざわ・れん)
マーケティングサイエンティスト/コレクシア マーケティングプランニング局長
数学、統計学、計量経済学、データサイエンスなどの理系アプローチと、心理学、文化人類学、社会学などの文系アプローチに広く精通。未顧客理解の第一人者として、事業会社やメーカーのマーケティングや事業拡大を支援すると共に、社内研修などの講師を務める。「芹澤顧客研究ラボ」主催。シニアマーケターの知見を若年層マーケターに継承、育成する「マーケティングU-40」をけん引。著書に『顧客体験マーケティング』(インプレス)。
「買わない人=未顧客」を理解する初めての教科書
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 「買わない人」から目を背けるのは、もう止めませんか?ビジネスでは買う人=顧客が大事にされますが、事業を成長させるには買わない人=未顧客にも目を向ける必要があります。

 どの企業のどんな商品でも、「知らない・買わない・興味のない未顧客」が市場の大半を占めています。売り上げを増やして事業を成長させるには、そうした「買ってくれない未顧客」を理解して、新しく1回買ってもらわなければいけません。

『“未”顧客理解 なぜ、「買ってくれる人=顧客」しか見ないのか?』
『“未”顧客理解 なぜ、「買ってくれる人=顧客」しか見ないのか?』
著者●芹澤連/定価●2420円(10%税込み)/発行●日経BP/判型●A5判264ページ/発行日●2022年6月20日/ISBN 978-4-296-11269-2

 本書は、「未顧客を理解して市場を拡大するための教科書」です。

 日本ではあまり知られていませんが、未顧客へのマーケティングは、ファンやロイヤル顧客へのマーケティングとは大きく異なります。本書は、海外の豊富な先行研究に基づくエビデンスを示しながら、未顧客を理解して事業成長するためのマーケティング原則を、マンガや図表を用いて丁寧に解説します。

 また、本書は実践を重視した内容になっています。実務で大切なのは「だから、どうすればよいのか?」という手の動かし方です。本書を読み終わったとき、「買ってくれない人とどう向き合えばよいのか」に答えが見つかることでしょう。マーケティング担当者はもちろん、販売、企画、開発などに携わるビジネスパーソン必携の1冊です。

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