特に一般消費財において、購入意向と強い相関が認められる指標は何か。好意度である。当社トライバルメディアハウスが実施した数多くの調査でも、好意度が高ければ購入意向も高く、購入意向が高いブランドは好意度も高いという相関が認められている。書籍『売上の地図』より、売上を構成する20要素の1つに挙げた「好意」について解説する。

第5回のテーマは「好意」(写真/Shutterstock)
第5回のテーマは「好意」(写真/Shutterstock)

 消費者に買ってもらえている商品は、最高の商品か、最安の商品か、最愛の商品かのいずれか、またはその混合だ。では、どの要素を強化することが賢明なのだろうか。

 現代のマーケティング環境では、企業の技術格差は縮小し、消費者ニーズを十分満たせるようになった。機能的ベネフィットにおいてほとんどが最高商品・最高サービスなのである。

 とはいえ、最安ポジションで戦うのは得策ではない。値引きの常態化は、常に価格が一番安い商品を購入する「最安顧客」を呼び込み、利益率の低下を招く。そして、「この商品はいつも値引きをしている商品」と認識され、ブランド価値を毀損(きそん)させてしまう。特にEC(電子商取引)の場合、最安値で販売されている店舗や商品は一目瞭然だ。最安ポジションは、常に最安値を維持しない限り買ってもらえないレッドオーシャン(血の海)への道である。

 こうしたことから筆者は、ブランドが強化すべきは「最愛ポジション」または「最“好”ポジション」に入ることで想起集合入りすることだと考えている。

 好意を語る上で、「態度」という概念の理解が必要になるので、説明しておきたい。人は相手によって、好意的な態度、否定的な態度、無関心な態度など、態度を変えることがある。同様にブランドに対しても一定の態度を形成している。これが態度の意味合いである。

 消費者行動研究の世界では、消費者のブランドへの態度は「認知」と「感情」の2次元があるとされている。*1

・認知的態度:良いか悪いか(理性的、客観的、合理的評価)
・感情的態度:好きか嫌いか(情緒的、主観的、非合理的評価)

 認知的態度は、ブランドが持つ機能性によって形成され、一方の感情的態度はブランドに対する感情(憧れや愛着感)によって形成される。そして、興味深いのは、認知的態度は否定的なニュースやクチコミを見ることによって悪化しやすいが、感情的態度はほとんど下がらないという事実である。*2

 認知的態度は、ブランドが持つ機能性について、理性的・客観的・合理的に判断されるため、新たに否定的な情報が与えられるとすぐさま悪化する傾向があるが、感情的態度は、ブランドに対する感情であり、消費者一人一人の情緒的・主観的・非合理的評価によって形成される論理的根拠のない態度であるため、たとえ信頼性の高い否定的な情報に触れたとしても、ニュースや他者のクチコミに左右されにくい特性を持っている。この事実からも、感情的態度は重要といえるだろう。

「良いけど嫌い」vs「悪いけど好き」

 認知的態度と感情的態度の2次元でマトリクス図を作ると、4つの象限ができる(下図)。

認知的態度と感情的態度のマトリクス
認知的態度と感情的態度のマトリクス

絶対王者(良い×好き)
 認知的態度も感情的態度も高い絶対王者ポジション。すべてのブランドがここを目指すが、現実的にこのポジションを獲得できるのはごく一部のブランドであるため、他の戦略オプションも考えておく必要がある。

嫌われ者の優等生(良い×嫌い)
 認知的態度は高いが、感情的態度が低いブランド。例えば、「テレビCMでよく見るな。良い商品なのだろうし、一番売れている商品であることも知っている。クチコミも良い。でも、なんか好きじゃないから買わない」というポジションである。高い認知度(知名集合)や商品理解度がある(処理集合)にもかかわらず、想起集合に入らないブランドは、否定的な感情的態度を持たれている可能性がある。この場合、いくら認知度や理解度を高めても、態度に課題があるため、通常の意識変容施策を打っても課題は解決しづらいので注意が必要だ。

隙多き人気者(悪い×好き)
 認知的態度は低いが、感情的態度が高いポジション。すでに世の中で販売されている商品のほとんどは、消費者の機能的ベネフィットを満たすことができる良い商品・サービスであるため、認知的態度は「悪い」ではなく「それほど良くない」というニュアンスが近いだろう。そのため、他の商品と比べると品質面で少し劣るかもしれないけど、なんか好きだから買うというポジションとなる。筆者は、絶対王者に入ることができない商品は、ここを目指すべきだと考えている。

敗者(悪い×嫌い)
 当然だが、ここに入っているブランドは売れない。ちなみに、感情的態度は「好き」か「嫌い」かの0対100ではない。私たちの感情は「好き」「まあ好き」「どちらとも言えない」「あまり好きではない」「好きではない」という具合にグラデーションがあり、アンケートでもこの5段階から選んでもらうのが一般的だ。「あまり好きではない」であれば敗者復活戦もあり得るが、「好きではない(≒嫌い)」に入ると拒否集合に分類されてしまうため、そこから脱出するための打ち手が難しくなる。マーケティングでは、好かれる努力をすることと同時に、嫌われない努力も惜しまない方がいいだろう。

「好かれることの力」を見くびるな

 メーカーに勤務している方は皆、真面目で実直である。過去、筆者が仕事で知り合ったメーカーの皆さんは、「素晴らしい商品をつくってお客さまを感動させたい」「技術に裏打ちされた最高品質こそわが社の誇りです」と言う。これは、小売りやサービス業の皆さんにも共通する真っすぐな思いだ。

 そのため、多くの企業が好かれることよりも良い商品をつくることを優先させる傾向がある。優先させるというより、好かれることなど眼中にない担当者も少なくない。「わが社は製造業ですから、技術に裏打ちされた最高品質の製品をつくることで、お客さまを感動させるのが仕事です。もちろん嫌われるより好かれた方がよいでしょうが、それは宣伝部などの仕事でしょうし、商品さえ良ければ、好きか嫌いかなんて関係なく、お客さまは買ってくださるはずです」といった具合だ。

 しかし、実際は好きか嫌いかで勝負のほとんどが決まっているのではないだろうか。

感情的に好きな商品が良い商品
感情的に好きな商品が良い商品

 日本のiPhoneユーザーは、なぜiPhoneを買うのか。プロダクトの美しさ? カメラの画素数? UI(ユーザーインターフェース)の使用感? iTunesやiCloudとの連携? どれも一理あるが恐らく多くのiPhoneユーザーは、「なんとなくかっこいいから」「みんなが使っているから」「好きだから」だろう。メーカーに従事する方の多くは、認知的態度→感情的態度の順で優先度を考えがちだが、すべての商品が最高レベルに達してしまった今だからこそ、消費者の「好き」を獲得する戦略が重要と思うのだ(上図)。

どうやったら好かれるのか?

 好かれることが大事なことは分かった。どうやったら好かれるの? ずばり答えを知りたいところだが、残念ながらコトはそんなに単純ではない。好かれるためには、興味や関心を持ってもらう必要があり、実はそれが難題だからである。

 SNSの投稿にしても、Yahoo!ニュースにしても、Netflixなどの動画作品にしても、私たちの目に留まるのはほんの一部だ。大多数の投稿、ニュース、作品は目に留まらないか、タップするほど興味がない。「好き」の反対は「嫌い」ではなく、「無関心」なのだ(下図)。

「好き」と「嫌い」の関係
「好き」と「嫌い」の関係

 実は、好きと嫌いには共通項がある。それが高い関与度(強い関心)だ。私たちは、相手や対象のことをよく知っていて、その上で好きだったり嫌いだったりするのである。

 ブランドカテゴライゼーションにおける「拒否集合」は、知っていて(知名集合)、ある程度製品の特徴を理解している(処理集合)上で、絶対に買いたくないと思われているブランド群のことだ。つまり、嫌われるためには強い関心が必要なのである。ブランドの場合、嫌われたら厳しい立場に立たされるが、嫌われるのも簡単なことではない。

 したがって、自社商品に興味がない大半の消費者に、機能的ベネフィットの違いを訴求しても関心を持ってもらえないのは当然だ。ではどうしたらよいか。それが、自分ゴト化である。自分ゴトとは、「自分に関係がある(と捉えられる)事柄や情報」を指す。例えば、テレビで流れているCMを見てもまったく興味や関心を持たないものは「他人ゴト」ゾーンで、「お、これいいな」「こんな新商品が出たんだ」と思われるCMは「自分ゴト」に成功したものだ。

 自分ゴト化によって好意度を高めるには、ブランドとの接触頻度を増やすことを検討してほしい。広告ではなくニュースや記事で見る、YouTubeの関連動画で知る、TwitterやFacebookで友人や知人が投稿している、Instagramの発見タブに表示される、タグ検索をすると出てくる、友人や家族との会話の中で出てくるなど、できる限りオーガニックな接触を増やし、広告はそれらをブーストさせる役割を持たせるとよい。

 人間関係も同じだが、好意や好感をお金で買うことはできない。お金で買えないからこそ、予算の大小ではなく、創意工夫や企業努力によって差がつく領域といえよう。最高ではなく最愛、最愛は難しくても、最好ポジション(No.1 Favorite Brand)を獲得すれば、高い確率で売上につながるだろう。

【引用文献】
*1 Edwards, Kari(1990),“The interplay of affect and cognition in attitude formation and change.” Journal of Personality and Social Psychology, 59, 202-216
*2 杉谷陽子(2011)「悪い口コミに負けないブランドとは? -ブランド態度における『愛着感』の重要性」第43回消費者行動研究コンファレンス

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