「売上」という目的変数に影響を与えている説明変数は、商品・サービスそのものから、想起、好意、クチコミ、ブランド力など多数ある。その中でも、特にどの説明変数が売上に影響を与えているかといえば、それは売り場だ。新刊『売上の地図』からお届けする。

「売上の地図」
「売上の地図」
今回のテーマは「売り場」

売上は売り場の数に比例する

 飲料、アルコール、食品、お菓子、日用雑貨などの一般消費財は、消費者の購買頻度が高く、店内における非計画購買(事前に予定していない購入)が多く発生する商品特性を持つため、全国津々浦々の小売店に商品を置いてもらう開放的(拡大的)チャネル政策が取られる。配荷される場所が多いほど、店内における商品露出が拡大して売上が上がるからだ。つまり配荷で競合他社に負ければ、ほぼ確実に売上で負けてしまう。

 配荷を正しく理解するために重要なキーワードが2つある。それがストアカバレッジ(配荷率)と棚割である(下図)。

ストアカバレッジと棚割
ストアカバレッジと棚割

ストアカバレッジと棚割

 例えば、缶ビールを販売する店舗が全国に1万店舗あったとしよう。自社のビールが9000店舗に置いてもらえていれば、ストアカバレッジは90%となる。競合Aが92%、競合Bが86%の場合、競合Aには負けているが、競合Bには勝っているという分析になる。次に、店内のビール売り場における棚割だ。図のように、上段の自社ビールが、定番商品2フェース、プレミアム、糖質オフ、糖質ゼロが各1フェースを確保していて、競合商品がそれぞれ1フェースしか取れていない場合、自社は棚のシェアで数的有利となる。

 商品ライフサイクル(PLC:Product Life Cycle)が短命化する昨今、企業は新ブランドの立ち上げと定着に多額のマーケティング投資をせざるを得ない状況になっている。商品開発の世界には、1000個の商品アイデアのうち市場に出るのは3つしかないことを意味する「センミツ」という言葉がある。たとえ無事商品の発売にこぎ着けたとしても、新ブランドが1年以上生き残る確率は極めて低いのが現実だ。

 そのため各社は、成功したブランドを同一カテゴリー内で横展開するラインエクステンションに力を入れている。江崎グリコは、定番の「ポッキーチョコレート」をベースに、「ポッキー〈極細〉」「つぶつぶいちごポッキー」「アーモンドクラッシュポッキー」「冬のくちどけポッキー」などを発売しているし、キリンビールの缶チューハイ「氷結」はシチリア産レモンの他、グレープフルーツ、もも、シャルドネスパークリング、ウメ、そしてシーズンごとに積極的な期間限定フレーバーの展開に力を入れている。

 ラインエクステンションには、確立されたブランドの傘の下で展開することによる成功確率の向上、消費者の多様な欲求への対応、ブランディングおよびチャネル営業の効率化などのメリットがあるが、大きいのは商品アイテムを増やすことによってシェルフシェア(棚の占有率)が向上することにある。前述のビールの例で言えば、棚に定番ビール、プレミアム、糖質オフ、糖質ゼロの4アイテムを置くことに成功している自社が、最も売上を伸ばすことができるのだ。

 広告効果測定やROI(投資利益率)検証モデルを構築するため、あらゆる説明変数を数値化して重回帰分析をすると、多くの商品やサービスで、配荷が最も大きな影響を持つが、このとき、ストアカバレッジだけでなく、SKU(Stock Keeping Unit、商品の最小管理単位)で数値を見ることに注意が必要だ。キリン氷結シチリア産レモンという「1つの商品アイテム」だったとしても、350mlと500mlが配荷されていれば2SKUという計算になり、SKUが多い方が有利となる。

インストアマーチャンダイジングの重要性

 インストアマーチャンダイジング(ISM:In-Store Merchandising)とは、「小売りの店頭で、市場の要求に合致した商品および商品構成を、最も効果的で効率的な方法によって、消費者に提示することにより、資本と労働の生産性を最大化しようとする活動」である(田島義博『インストア・マーチャンダイジング』)。ISMが広く注目されるようになってからすでに20年以上が経過している。何ら新しい概念ではないが、EC化率が限定的な現状において、メーカーが売上を上げるためには、いかに自社にとって望ましい店頭をつくることができるかにかかっていることに変わりはない。

 ISMは、商品露出力を決めるスペースマネジメントと、商品刺激力を高めるインストアプロモーションに大別される(下図)。

インストアマーチャンダイジングの構造
インストアマーチャンダイジングの構造
出所:流通経済研究所

 スペースマネジメントは、フロアマネジメントと、棚に配置する商品のカテゴリー分けや前述の棚割などを管理する「シェルフスペースマネジメント」に分かれる。フロアマネジメントには、店舗全体のレイアウト計画や、異なる種類の商品を隣に置いたりグループ化したりして訴求する「クロスマーチャンダイジング(MD)」がある(例えば夏に棚のエンドでそうめん、めんつゆ、ざる、器やお箸などを一緒に陳列して季節感を訴求するといった具合だ)。

 一方のインストアプロモーションは、定番値引きやエンド特売などによる「価格主導型」と、ノベルティーやデモンストレーション販売などの「非価格主導型」に分かれる。

 ISMは、小売りの経営環境の変化と売り場生産性向上の必要性から、主にチェーンストア経営の近代化とともに発展してきた概念だが、市場の成熟化によるチャネルリーダーの小売りシフトにより、メーカーはチェーンストアが進めるISMに販売奨励金などのリベートを通して積極的に参画・協力しなければ期待する売上を上げることができなくなっている。

 メーカーの商品売上は、取扱店舗数と1店舗当たりの売上によって規定され、1店舗当たりの売上は、カテゴリー売上と、店舗における売上や販売数量のうち、自社商品が占める割合である「インストアシェア」によって規定される。ここから、インストアシェアが、メーカーの商品売上に大きな影響を与えることが分かるだろう(下図)。

メーカーの売上を左右する規定要因
メーカーの売上を左右する規定要因
出所:流通経済研究所

 インストアシェアは、商品力と販売力に分かれ、販売力は、広告やプロモーションなどの店舗外販売力と、広義のISMを示す店舗内販売力に分かれる。最後に、店舗内販売力は、商品の露出力を高めるスペースマネジメントと、商品の刺激を向上させるインストアプロモーション(ISP)に分かれるという形だ。

 メーカーの商品売上がこの構造によってつくられているからこそ、メーカーの営業部はインストアシェアを高めるため、小売り本部のバイヤーや個別店舗に対して、52週MD計画に沿ったクロスMDや定番位置の棚割、値引きやエンド特売などのインストアプロモーションのプランを、日々一生懸命提案営業しているのである。

棚を取るためのテレビCM

 メーカーのマーケティング担当者から「テレビCMが効かなくなってきたことは分かっているが、流通の棚を取るためにはテレビCMを打たなければ……」という言葉を聞くことが多い。

 小売店の売り場面積は有限である。そのため、小売店側はどのメーカーの商品をどこにどのくらい陳列するかはどうでもよく、1つでも多く売れる商品を、1つでも多く陳列したい力学が働く。どのメーカーの商品でもいいから1つでも多くの商品を売りたい小売店側と、自社の商品を1つでも多く売りたいメーカーの利害は必ずしも一致しない。そのため、小売店のバイヤーは、その商品を仕入れて陳列したらちゃんと売れるのか、有力な店舗外販売力であるテレビCMの出稿有無を気にするのである。

 ネットが本格的に普及する20年前であれば、確かに大量のテレビCMを出稿すれば、商品は売れただろう。スマホやSNSが普及した現代でさえ、一部のカテゴリーや商品であれば、確かにテレビCMの出稿有無や出稿量によって明らかに棚の動き(売上)が変わることも否定しない。しかし、52週間のうち、わずか2週間や3週間だけ、流通の棚を取るためだけに出稿するテレビCMにどれほどの店舗外販売力の向上効果があるかについては大いに疑問が残る。

 テレビCMの効果は、季節性や時節性、商品カテゴリー、新商品か定番のロングセラー商品か、競合商品との差別的競争優位性、市場1位の商品か3位の商品かなどによっても違うため、一概に断ずることはできないが、小売り側もそろそろテレビCMの出稿有無によって商品の仕入れ可否を判断する「過去の成功体験」は捨て去るべきだ。

 化粧品大手の資生堂は、2023年までに広告宣伝費の90%以上をデジタルシフトさせることを発表している。私は、なんでもかんでもデジタルシフトすればいいと考えているデジタルマーケティング礼賛派ではないが、スマホやタブレット、PCにおけるメディア接触や大量の可処分時間消費は若年層にとどまらず、もはや全年代に及んでいる。流通側は、「テレビCMを打つなら仕入れる」という思考停止から脱却し、現在のマーケティング環境の変化を冷静かつ客観的に把握・分析した上で店頭をつくるべきであり、この変化に対応できない小売店はECを含めたデジタル化の波にのまれてしまうだろう。


書名:『売上の地図 3万人を指導したマーケティングの人気講師が教える「売上」を左右する20のヒント 』(日経BP)
著者:池田 紀行
定価:2200円(税込)
発売日:2022年6月20日
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