書籍『売上の地図 3万人を指導したマーケティングの人気講師が教える「売上」を左右する20のヒント』から、第2回は本丸の「商品・サービス」を取り上げる。売上にはさまざまな要素が絡み合うとはいえ、まず商品の良しあしが大きな影響を持つ。その一方、多くのジャンルで品質が高止まりし、単に良い商品だけでは売れにくくなっている。そんな時代にどう商品力を高めていけばよいか?

 売上に影響を与える20の要素を構造化した「売上の地図」。連載第2回から各論に入っていくが、当然ながら売上を左右する最も影響の大きい説明変数は、商品そのものだ。

「売上の地図」
「売上の地図」
“一丁目一番地”は「商品」
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 マーケティングに対して、「粗悪品を高値で売りつけるテクニック」という印象を持つ人もいるかもしれない。だが、すっかり賢くなった現代の消費者に、派手で華やかな広告や小手先のテクニックだけで商品を買ってもらうことなど、もはやできない時代だ。

 セブンイレブンの「セブンカフェ」は2013年の導入初年度、年間4.5億杯からスタートし、今や年間11億杯を売る化け物商品に成長した。キリンビール「一番搾り糖質ゼロ」(20年10月発売)や、アサヒビール「スーパードライ生ジョッキ缶」(21年4月発売)は、成熟したビール市場でも好調な売れ行きを記録している。

 モバイルバッテリーなどの充電関連商品を主軸とする中国メーカー、Anker(アンカー:11年設立)は、13年にアンカー・ジャパン開業時の売上は約9億円だったものの、20年には売上210億円を超え、デジタル機器の国内トップブランドとして指名買いされる存在になった。

 作業服専門店のワークマンは、もともと高品質なウエアを製造・販売することで高い支持を得ていたが、アウトドアのアパレルブランドに生まれ変わることによって、売上を17年度の約520億円から21年度には約1060 億円と、わずか4年で2倍に増やしている。

 これらの輝かしい成果は、もちろんチャネル戦略や価格戦略などさまざまな施策の成果はあるものの、ひとえに商品そのものの良さが成長のキードライバーと言っていいだろう。「どう売るか」が重要な時代であることは間違いないが、群を抜くクオリティーや新規性のある商品・サービスを開発、提供することが、売上を最も大きく左右することは、今も昔も変わらない。

 とはいえ、市場はいまだかつてないほど高度に成熟化している。グローバルメーカーでは、世界市場を先進国、中所得国(新興国)、低所得国(発展途上国)の3つに分け、マスター戦略を組み立てることがある。発展途上国の中でも、1人当たりGDPが約2000ドルの後発発展途上国であるバングラデシュのショッピングモール、スーパーマーケット店頭の写真を見てほしい。国民1人当たりの所得が年間約22万円のバングラデシュでも、スーパーには商品が所狭しと陳列されていることが分かる。

バングラデシュのスーパーマーケット、商業施設
バングラデシュのスーパーマーケット、商業施設
(写真/Shutterstock)
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コモディティー化と価格競争

 現代のマーケティング環境は、全世界、全商品カテゴリーで、コモディティー化による価格競争が発生している状態だ。
(※コモディティー化:市場に流通している商品がメーカーごとの個性を失い、消費者にとってはどこのメーカーの品を購入しても大差ない状態になること)

 消費者ニーズは、時間の経過とともに少しずつ上昇してきた。以前は、企業が持つ技術力で、消費者が持つすべての未充足ニーズを満たすことができなかったため、各社技術力を磨き、できる限り消費者ニーズを満たす商品を開発しようと努力した。技術力こそが商品開発力であり、技術で勝った企業が勝利する技術競争の時代である。洗濯用洗剤の液体化や、液晶テレビの大画面化・薄型化などが代表例だろう。

 しかし、現在は、特許技術などを除き、各社が持つ技術力はほぼ横並びになった。そして、大きな市場における消費者の未充足ニーズは、ほぼ満たされる状態になった。業界各社が持つ技術力が、消費者ニーズを追い越してしまったのである。

 これが、「どの商品もあまり変わらない、だったら安い方を買おう」という具合に、コモディティー化が価格競争を引き起こしている背景だ。

 しかし、各社は流通の棚を確保することや、消費者の購入や買い替えを刺激するため、継続的に新商品を発売していかなければならない。すると、消費者からすれば、「以前と何が変わったの?」「こんな機能、必要だろうか?」というような新商品が市場にあふれることになる。

「良い商品」とは?

 良い商品の定義は時代とともに移り変わる。市場が今ほど超高度に成熟していなかった時代、消費者が求めるものは、商品を購入することによって得られる機能的なベネフィットだった。耐久性が良い、小さくて場所をとらない、軽くて持ち運びがしやすいなどである。しかし、各社の技術競争が一段落し、どの商品も、消費者が望む機能的ベネフィットを満たすことができるようになってしまった。どの商品も、ほぼ同じ価格で、同じように使いやすく、小さく、軽く、便利で、ニーズを満たすことができるようになった。

 1996年に放映が開始されたHONDAステップワゴンのテレビCM「こどもといっしょにどこいこう。」は、そんな時代の転換期を見事に表現してみせた。CMの中では、耐久性や居住性、走行性能や燃費、そして自動車にとって重要な外観のデザインさえもほとんどうたわず、楽しいCMソングとともに、子どもと一緒に遊びへ出かけ、素敵な思い出をたくさんつくる「良い父親像を売った」のである。まさに、モノ(Product)からコト(Experience)への転換であった。

 「最近子どもと一緒に遊んであげられてないな」「父親らしいことをしてあげられていないな……」と罪悪感を抱く父親に対し、ステップワゴンを購入することで、楽しく豊かな気分になれるという「情緒的ベネフィット」や、理想の父親になれるという「自己実現ベネフィット」を伝えたのだ。

 スターバックスコーヒーが愛される理由、アップル製品が全世界でこれほどまでに熱狂顧客を持つ理由、人によって好きなコスメブランド、アパレルやスポーツウエアブランドがある理由。他の商品よりも少々値段が高くても、お気に入りのブランドを買ってしまう理由……。

 現代消費者は、いまだかつてないほど満たされている。そんな超高度に成熟した現代のマーケティング環境において、消費者が大切なお金を支払い、あなたの商品・サービスを購入したいと思う「価値の本質」は何か。よく考えてみてほしい。

目的は競争の勝利ではなく利益を上げること

 どんなに良い商品であっても、競合他社との差別的競争優位性がなくなり、消費者に「どの商品を買っても同じ」と思われてしまえば、少しでも価格が安い方が買われてしまう。超高度に成熟した現代のマーケティング環境において、競合がいない市場など存在しない。売れるか売れないかは競合との競争力次第であり、希望の価格で買ってもらえるかどうかも競合他社との関係によるのである。

 ということは、現代における戦略とは競争戦略を指すのであり、競合に勝って初めて買ってもらえると捉える方が正しい認識となる。

 ただし、ここで注意が必要だ。競争の「目的」は、競合に勝利することでも、売上を上げることでもない。持続可能な利益を上げることである。競合に勝つために、多額のプロモーション予算を投じ、短期的な増収を確保したとしても、その結果が増収減益では競争に勝利したとは言えないのだ。

 大企業の場合、売上は「売れた商品の個数」であり、固定資産である工場の稼働率に直結するため、重要視されることが多い。しかし、度重なる値下げや量販店への販売奨励金の支払いは常態的な利益率の低下を招き、不採算事業としていずれ撤退を余儀なくさせられてしまう。

正解のコモディティー化を乗り越える

 ではどうしたらよいか? 「どう戦うべきか」についてまとめておこう。持続可能な利益を上げること以外に、もう1つ大切な競争戦略のゴールがある。それは、競争をなくすことだ。

 競合も作戦を練っている。あなたが持っているものとほぼ同様の情報とデータを持ち、同等のスキルを持ったマーケティング担当者が、有名なフレームワークで環境分析と戦略を設計すると、どの企業の戦略もほぼ同じものになる。これが正解のコモディティー化だ。今の時代、正しい戦略さえもコモディティー化してしまうのである。

 あなたが考えることは、競合も考えている。あなたが奪えば、相手が奪われる。相手が奪えば、あなたが奪われる。このようなゼロサムゲームを続けていては、業界プレーヤー全員が敗者になりかねない。競合と真正面から殴り合うのではなく、自社が設定するターゲット顧客に対して、独自の価値を提供することを目指すのが望ましい。

USPとは「真の強み」

真の強み=USP
真の強み=USP
自社の強みと顧客ニーズの重なりを見つける
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 よく、プロモーションのオリエンテーションなどで「本製品のUSP(Unique Selling Proposition)は……」というフレーズを聞くが、そこで語られるUSPは往々にして、競合にも解決できてしまう顧客ニーズだったり、顧客自体がそれを「価値のある違い」と認識していないものだったりする。

 USPの「Unique」は、唯一の、独特の、個性的な、という意味だ。顧客の未充足ニーズに対応する、自社にしか提供・解決することのできない、独自の価値でなければUSPとはいえない。売上ではなく収益性を向上させるために、ライバルと真正面から戦うのではなく、顧客に独自の価値を提供しよう。そのために、自社にしか提供できない“ こだわり”を見つけ出し、磨きをかけてほしい。


書名:『売上の地図 3万人を指導したマーケティングの人気講師が教える「売上」を左右する20のヒント 』(日経BP)
著者:池田 紀行
定価:2200円(税込)
発売日:2022年6月20日
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