連載第1回では、サステナビリティー競争は「Reduction(削減)」「Circulation(循環)」「Deconstruction(分解と再構築)」という3つのステージで進んでいくことを解説した。今回は最初のステージであるReduction(削減)に焦点を当て、世界で進む企業の具体的な取り組みを紹介していこう。英国発のアパレルブランドの「PANGAIA(パンゲア)」は脱炭素素材で作られたインクや、廃棄ブドウから作られた合成皮革などを採用した、環境負荷の低い商品を次々と開発。ユニクロなども環境負荷の低下を商品メッセージとして発信し始めている。
「Reduction(削減)」のステージではサプライチェーンの見直しが進む。削減の対象となるのは、気候変動や環境汚染を引き起こしている代表的要因である温暖化ガスやプラスチック、さらに水使用量や化学物質など、これまで当然のように製品工程において使用されてきた資源の見直しである。
これらが引き起こす問題は、地球温暖化や絶滅危惧種の増加といった環境問題に対してだけではない。顧客の購買意思決定に影響を与えるばかりでなく、温暖化防止のための環境税の1つ「炭素税」や、廃棄物の回収処理に関する生産者責任の拡大などの規制変化により、企業収益にも直接的な影響を与えるようになっていく。
実際、米カリフォルニア州で2022年6月30日に議決された「プラスチック規制新法(プラスチック汚染防止および包装の生産者責任に関する法案)」では、32年までにカリフォルニア州で販売または流通するすべてのプラスチック製品の65%をリサイクル可能にしなければならないと定められている。32年までの間には段階的な目標が設定されており、それに準ずることができなかった企業には、最大1日当たり5万ドル(約665万円)の罰金が科せられる。つまり他社よりもサステナブルなサプライチェーンを築くことは、顧客からの支持向上や、コスト競争力強化といった経営に直結する課題になるということだ。
街に「削減」にまつわる言葉が増加傾向
サプライチェーンの見直しによるReduction(削減)は、既に大小さまざまな企業で進められている。例えば近年、米ニューヨークでは、街の至るところで「Zero Waste(廃棄物ゼロ)」「Less CO2 (温暖化ガス削減)」「Less Water(水使用量削減)」といった「削減」にまつわる言葉を目にするようになった。
ニューヨークのタイムズスクエアに22年4月にオープンした米大手スーパーマーケットのターゲットの店舗では、廃棄物削減のためにデザインされた製品に「Target Zero」というロゴを付け、最も目立つところに棚を配置している。同じくニューヨークのハドソン・ヤードにある「ユニクロ」の店内では、リサイクルペットボトルで作られた商品と共に、「この商品では二酸化炭素(CO2) の排出量が3分の2に削減されている」という販促物を設置し、来店者に訴求している。
また、ジーンズブランド「リーバイス」の店舗では、化学薬品使用量を削減するため植物で染色された商品が販売されている。商品の包装や梱包(こんぽう)を削減した日用品店である「パッケージ・フリー・ショップ」の広告もあちこちで目にすることができる。
どの企業も、自社がいかに商品の生産や流通工程においてサステナブルな取り組みを進めているかを積極的にアピールし、環境価値によって顧客に選ばれようという競争を繰り広げている訳だ。
さて、改めてサプライチェーンとは何かを説明すると、商品の原料生産や部品調達から、消費者の手元に商品が届くまでの「物の供給連鎖」のことを指す。したがって一企業の範囲ではなく、その連鎖に連なる関連会社(サプライヤー)なども含まれる。
先述した多くの企業は、これらの連鎖を包括的に管理し、環境負荷となる要因を削減している。当然ながら単に「ちゃんと管理して作っています」というだけでは顧客に対する競争力にはならない。そのため、サプライチェーンのどこに特化して特徴を打ち出すかがコミュニケーション戦略では必要になる。既存の製品や流通方法を環境負荷が低いものに「代替」するだけでなく、供給連鎖における強みを研ぎ澄まし、ブランドの強みへと昇華させていくのだ。
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