世界では「サステナビリティー(持続可能性)」を巡る法整備が進む。こうした動向に企業が対応するうえで、単にコスト増で利益を減らすのではなく、新しい競争力へと転換する視座が求められている。各業界でサステナビリティーを新たな顧客価値に変え、競争力を生み出す源泉へと転化した事例が相次いで登場している。3つの段階でサステナビリティーの潮流を正しく捉えることがその第一歩になる。

独インファームや米パタゴニアなど、さまざまな企業がサステナビリティーを企業の競争力にしつつある
独インファームや米パタゴニアなど、さまざまな企業がサステナビリティーを企業の競争力にしつつある

 「サステナビリティー」は企業の戦略要因として、まだ正しく認識されていない。企業側の捉え方もさまざまで、特に日本ではいまだにCSR(企業の社会的責任)というレイヤーや、再生素材の利用といった製造分野の話として捉えている場合が多い。

 そのため「サステナビリティーはもうからない」という声をよく聞く。社会善であることも分かるし、社会的投資を行う株主からの圧力や、顧客の環境意識の高まりも分かる。だからといって環境保全に寄付をしたり、比較的高価な再生素材の取り入れることは企業の収益を削る行為であり、なかなか踏み切れない、という訳だ。これは「サステナビリティーを競争要因として捉えられていない」ことに起因する。サステナビリティーが次の競争優位を決めるという視座が持てていない。それが多くの日本企業の現状だろう。

 一方で海外に目を向けると、とうにそのような議論は終わっているように思える。競争の背景となる環境が着実に変わりつつあるからだ。

 例えば、石油産業に次ぐ環境負荷を与えるといわれている繊維産業では、既に業界を対象とした法的な規制がかけられ始めている。米ニューヨークでは、2021年にファッション業界を対象とした通称「ファッション法」と呼ばれる法案「the Fashion Sustainability and Social Accountability Act」が議案として州議会に提出された。

 この法案はニューヨークで事業を展開するアパレル・フットウエア企業で年間1億ドル以上の売り上げを計上している企業は、「サプライチェーンの詳細や環境・社会への負荷を公表し、それを削減するための目標を掲げること」とするものだ。これに従わない企業は売上高の2%を罰金として課すという。

 またフランスでは、売れ残った新品の衣料品を廃棄することを禁止する「循環型経済のための廃棄物対策法」が22年1月に施行されている。こういった法的な後押しもあってサステナビリティーによる競争環境の変化は、確実なものとなっている。

 企業側では単に利益を減らして対応するというだけでなく、これを契機に戦略転換を行い競争力を高める、あるいは新規事業を開発しようとする事例が、各業界で台頭している。まだ業界の主流になっているとまでは言えないが、業界の代表企業が率先して取り組みを発表しており、業界構造を変えると思われるような事例も既に登場している。

 本連載ではそれらを「サステナビリティー競争の胎動」として捉え、読み解いていきたいと思う。

サステナビリティー競争を読み解く3段階

 筆者らはサステナビリティー競争は、「Reduction(削減)」「Circulation(循環)」「Deconstruction(分解と再構築)」という、大きく3段階で進んでいくとみている。

サステナビリティーの競争は、「Reduction(削減)」「Circulation(循環)」「Deconstruction(分解と再構築)」という、大きく3段階で進んでいく。
サステナビリティーの競争は、「Reduction(削減)」「Circulation(循環)」「Deconstruction(分解と再構築)」という、大きく3段階で進んでいく。

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