国内で「売らない店」市場をけん引する米国発の「b8ta(ベータ)」。同サービスを提供するベータ・ジャパン(東京・千代田)の北川卓司氏が識者と対談し、「売らない店」に代表される次世代小売りの今後を探る連載。1回目は、一橋ビジネススクールの鈴木智子氏を迎える。

ベータ・ジャパン北川卓司氏による連載1回目。ゲストには、一橋ビジネススクールでマーケティングとデザイン思考についての教鞭(きょうべん)を執る鈴木智子氏(右)を迎えた
ベータ・ジャパン北川卓司氏による連載1回目。ゲストには、一橋ビジネススクールでマーケティングとデザイン思考についての教鞭(きょうべん)を執る鈴木智子氏(右)を迎えた

 2020年8月にb8taが日本に上陸してから、1年9カ月。「売ることを主目的としない」という新しいビジネスモデルに小売業各社が活路を見いだそうと、百貨店を含め、「売らない店」の開店が相次いでいる。こうした状況下で、各社は生き残りをかけてどのような進化を遂げたらいいのか。本連載では国内における「売らない店」の代表格でもあるベータ・ジャパンの北川卓司氏が識者らに話を聞きながら、「次世代小売りの未来」を探っていく。

 連載1回目となる今回は、一橋ビジネススクールでマーケティングとデザイン思考についての教鞭(きょうべん)を執る鈴木智子氏を迎える。鈴木氏は、マーケティングと消費者行動論を専門とする。データの利用方法、消費者への訴求など、激化する売らない店市場における競争を勝ち抜くために、両者が語り尽くす。

米国から独立したb8ta Japan、次の展開は

北川卓司氏(以下、北川) 連載の第1回です、よろしくお願いします。

鈴木智子氏(以下、鈴木) よろしくお願いします。b8taのような「売らない店」に限らず、今小売りの形がどんどん変わってきていますよね。共通するのはお客さまがワクワクできる場所をつくり五感に訴えかけるような、“オンラインではできない体験を得る場所”ということです。

鈴木智子氏。日本ロレアル(株)、ボストン・コンサルティング・グループに勤務した後、一橋大学大学院国際企業戦略研究科修士(MBA)、同博士後期課程(DBA)修了し、博士(経営学)を取得。京都大学大学院経営管理研究部特定講師、特定准教授を経て、現職
鈴木智子氏。日本ロレアル、ボストン・コンサルティング・グループに勤務した後、一橋大学大学院国際企業戦略研究科修士(MBA)、同博士後期課程(DBA)修了し、博士(経営学)を取得。京都大学大学院経営管理研究部特定講師、特定准教授を経て、現職

 店舗というと、これまではお客さまに来ていただくのが当たり前でしたが、お客さまの元へ自ら出向く移動式店舗や、リアル店舗を持たない宅配専門の「ゴーストレストラン」「ダークストア」も増えています。良い商品を安く売っている場へお客さまに来ていただくという形は、過去のものとなりつつあるなと感じているところです。ところでどうして今回、1回目の対談相手としてご指名いただいたのでしょうか?

北川 私は日本経済新聞の記事で鈴木先生のことを知りました。その中で「競争が激化する小売業界で今後企業に求められるのは、徹底したカスタマーセントリック(顧客中心主義)な視点と、差別化の源泉となる個性の確立」というお話をされていて、b8taのような売らない店にも応用できそうだなと感じて印象に残っていたんです。

 というのも、例えばb8taの場合、同様のサービスを横展開する形で店舗を増やし続けても、来店するお客さまを満足させることができなくなるのではと危惧しています。それで次の一手としてリテールテインメント(編集部注:リテールとエンターテインメントをかけ合わせた造語)を試すのか、それとも別の路線を考えるのか、今検討しています。

鈴木 今がブランドの根幹を決める大事な時ですね。

北川 そうなんです。21年12月末、米国本社から日本国内向け事業における商標権およびソフトウエアのライセンスを独占的に取得し、独立しました。これから日本だけではなく、アジアにもマーケットを広げていきたいと考えています。

ミッションに基づいて、商品の間口を広げる

北川 b8taでは、商品展示とb8taテスター(店舗スタッフ)による接客に加え、接客で取得した定性データや、AI(人工知能)カメラで解析した来店客の属性や行動データなどの定量データを出品者に提供しています。これらを提供する代わりに、月額固定費を頂戴するというビジネスモデルです。比較的まねしやすいモデルということもあり、大手百貨店をはじめ、b8taのような売らない店の展開を始める企業が増えています。

 しかし、お客さまの声を集めて深掘り、出品していただいている企業に定性的なフィードバックを戻すのは、(思ったように話を引き出せないなど)やってみるとなかなか難しい。そういう意味では、現在までb8taはちゃんと「売らない店」を持続的に運営できることを証明できたと自負しています。しかし売らない店の参入が増え続けているため、各社に差異化ポイントが求められるようになってきました。私はそのポイントは「顧客体験」にあると思うのですが、それぞれがどこを目指すべきか鈴木先生の考えを聞かせていただけないでしょうか。

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