次世代経営指標「LTV」 第7回

有機野菜やミールキットの定期宅配サービス事業のオイシックス・ラ・大地も、独自のLTV(顧客生涯価値)経営を実践している企業の1つ。LTVの最大化に向け、重視しているのは使い始めて間もない利用者への働きかけだ。データに基づくコミュニケーションや商品開発を通し、従来感じたことがなかった驚きや感動を伴う「体験」の提供を追求している。小松菜の生食を勧めることが、なぜLTV最大化の体験につながるのか。食品事業ならではの理由がある。

ビーガン向けのミールキットなどさまざまな要望に応えた商品を追加している
食品宅配サービス「Oisix(オイシックス)」では、菜食主義者向けのミールキットなど、さまざまな要望に応える商品を追加している
[画像のクリックで拡大表示]

 オイシックス・ラ・大地の主力サービスは食品宅配「Oisix(オイシックス)」。野菜や果物などの生鮮食品に加え、カット野菜や調味料をまとめたミールキット「Kit Oisix(キットオイシックス)」が人気となっている。使い切りの調味料も入っており、手早く本格的な料理ができるとあって、新型コロナウイルス感染症拡大の巣ごもり需要が広がる中で利用者を増やした。主力となる「Kit Oisixコース」の利用者は約22万6000人(22年3月時)と2年前の1.9倍に成長している。

 共働き世帯が増え、買い物や料理にかけられる時間が少なくなっている。そうした中で、オイシックスは、家族と食事を楽しむ時間を大切にしながら、豊かな食卓を生み出すことを目指してきた。そのミッションを突き詰める上で、サブスクリプション(以下、サブスク)形態の会員制サービスという事業形態に行き着いた。単発的に個別の商品を買ってもらうのではなく、定期的に商品を提案して、幅広く体験してもらうというわけだ。

 サブスクで最も重要な指標は「解約率」と「継続率」。サービスの満足度を高め、解約されないサービスにすることで、継続率が延びる。結果的に、LTVとなって返ってくる。「LTVは全社員が意識しており、我々のDNAになっている」と専門役員CMT(チーフ・マーケティング・テクノロジスト)の西井敏恭氏は話す。

主菜と副菜の2品を料理できるミールキットが人気。人数分の野菜や肉、調味料などがセットになっている
主菜と副菜の2品を料理できるミールキットが人気。人数分の野菜や肉、調味料などがセットになっている

人数×頻度×単価でLTVを計算

 メインのKPI(重要業績評価指標)であるLTVは、「売り上げLTV」に限界利益率を掛け合わせる。この売り上げLTVは、人数×頻度×単価で計算する。この数値に商品原価、CPA(顧客獲得単価)、販売促進費などの変動費を考慮した限界利益率を掛け合わせる。そして、LTVを構成する4つの指標をさまざまなサブKPIに分解して、マーケティング施策で高めていく。

 例えば、顧客数を表す「人数」の増加につながるサブKPIには、広告などのCVR(コンバージョン率)、初回の「お試しセット」から定期会員への転換率などがある。「頻度」については、週1回の商品提案後の受注率、高頻度商品の購入数などを設定。購入金額を表す「単価」では全体の単価や特定カテゴリーの売り上げなどを追っている。サブKPIで各種の施策を検証し、LTVの向上につなげていく。

人数×頻度×単価で計算する「売り上げLTV」に限界利益率をかけたものをメインのKPIとしている。オイシックス・ラ・大地の決算資料より
人数×頻度×単価で計算する「売り上げLTV」に限界利益率を掛けたものをメインのKPIとしている。オイシックス・ラ・大地の決算資料より
[画像のクリックで拡大表示]

 オイシックスは通常のサブスクとは異なり、毎月の金額が固定されていない。例えば、「KitOisix2人前コース」であれば、ミールキット2~3種類と旬の食材を組み合わせた5400~7400円(税込み)の提案を毎週Webサイトやアプリで通知している。利用者はオイシックスが示した内容をスマートフォンやパソコンで確認し、食材を追加したり、不要なものは削除したりする。旅行に出かける際などは配送をキャンセルできる。

 毎週の注文に自由度を持たせているからこそ、いかに魅力的なお薦め商品を提示し、買ってもらえるかが鍵になる。特に同社が注力しているのは、入会から間もない利用者に、オイシックスで得られる新しい食事体験を実感してもらうこと。「最初の1カ月、2カ月が勝負になる。入会後間もない時期に優れた体験をすると、その後のLTVが高くなる」(西井氏)。そのため、家庭内での成功体験をつくる。すなわちカスタマーサクセス的な発想で、継続策に取り組んでいる。

レシピに「つまみ食い」記載

 家庭内での成功体験とは何を指すのか。オイシックスが顧客に直接インタビューなどを実施して、導き出したのは子供が喜んだ、家族に料理を褒められた、難しそうな料理も簡単にできた、といった体験だ。こうした体験を生み出すことを念頭に置いて施策を考える。例えば、有機栽培で新鮮な小松菜を生で食べるというレシピ。「小松菜を生で食べるという経験はあまりないはず。子供に『今日は生で食べてみてね』と呼びかけるなど、食事での会話につながっていく。おいしいだけで終わらず、食卓の会話が弾むことで体験価値が高まる」(西井氏)

このコンテンツ・機能は有料会員限定です。