次世代経営指標「LTV」 第6回

ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)の業績が好調だ。2021年12月期は、売上高が前年同期比17.5%増となる395億9400万円、営業利益は103.4%増の17億円となり、売り上げ、利益ともに過去最高を達成した。その成長の源泉にあるのが、GDO流「循環モデル」だ。物販(EC)、クラブ買い取り、ゴルフ練習場でのトレーニングサポート、ゴルフ場予約など、ゴルフの継続と上達につながるさまざまなサービスを展開し、利用を循環させることでLTV(顧客生涯価値)の最大化につながっている。

GDOのWEBサイトトップページ。ECサイト、ゴルフ場予約、ニュースなどあらゆる関連サービスへの入り口となっている
GDOのWEBサイトトップページ。ECサイト、ゴルフ場予約、ニュースなどあらゆる関連サービスへの入り口となっている

 「ECサイトだけでLTVを高めるのは難しい。LTVを最大化するには複数のサービスを展開し、顧客との接触回数と時間を増やしていくこと。これが1人あたりのLTVを高める上で非常に重要なファクターとなる」

 こう語るのは、GDOの執行役員CMO(最高マーケティング責任者)兼CIO(最高情報責任者)の志賀智之氏だ。

 その言葉通り、GDOではその時々のニーズに合わせて顧客がサービスを選択して利用できるように、ゴルフに関連したサービスを複数展開。ゴルフ用品の購入、練習、コース利用の予約、アプリを活用したスコア管理、ゴルフ関連情報による学習といった、ゴルフの継続と上達につながる「循環モデル」を構築した。オンライン、オフライン問わず、あらゆる場で顧客との接点をつくることを目指している。

GDOはECサイト、クラブ買い取り、ゴルフ練習場でのトレーニングサポート、ゴルフ場予約、スコア管理アプリ、ゴルフ関連情報といったさまざまなサービスを展開することで「循環モデル」を構築し、顧客のLTVの最大化につなげている
GDOはECサイト、クラブ買い取り、ゴルフ練習場でのトレーニングサポート、ゴルフ場予約、スコア管理アプリ、ゴルフ関連情報といったさまざまなサービスを展開することで「循環モデル」を構築し、顧客のLTVの最大化につなげている

GDOが展開する「循環モデル」とは?

 この循環モデルについて説明していこう。GDOのサービス利用の「入り口」になりやすいのがECサイトだ。ボールやクラブからゴルフウエアまで、あらゆる商品をそろえている。サイト上には、初心者にお薦めの商品が一目で分かる専用ページを設けたり、必要なゴルフ用品が一式そろう「セット商品」をつくったりするなど、商品選びを手助けするコンテンツや商品を充実させる。ゴルフの腕が上達し、利用しているクラブのグレードを上げたい場合は、買い取りサービスがあるためそこで下取りに出して、上位モデルを購入できる。

初心者向けにどんなグッズを揃えたらよいか紹介しているページ
初心者向けにどんなグッズを揃えたらよいか紹介しているページ

 ゴルフ用品がそろったら、次に練習をする。この練習のサポートは、GDOがここ最近でとくに注力する分野だ。一般的にゴルファーは練習場で技術を磨いてから、ゴルフ場に行くもの。GDOでは顧客の練習をサポートするため、「トップトレーサー・レンジ」というサービスを海外から輸入し、22年5月末時点で、67施設に導入している。

 トップトレーサー・レンジは各打席に設置された据置型の大型画⾯を通じて、ショットのリプレイ映像やデータのフィードバックを提供。スイングの変化がショットにどのように影響するかを瞬時に確認できるサービスだ。専用スマートフォンアプリをインストールすることで利用データの蓄積も可能。利用者が増えて顧客の練習データがたまれば、顧客ごとに抱えている課題を把握しやすくなり、パーソナライズしたコミュニケーションの構築にも役立つ。

トップトレーサー・レンジの利用イメージ

 練習をこなしたら、いよいよコースに出る。ここでは、全国各地のゴルフ場の予約が可能なゴルフ場予約サービスが利用できる。新型コロナウイルス禍の中、人との接触が少ないスポーツとしてゴルフ人口が増加している。経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によると、21年はゴルフ場の利用者が1000万人を超えた。コロナ禍前の19年と比較して10%増加している。ゴルフ人口の増加に伴いGDOの予約サービスの利用も伸びており、21年12月期のゴルフ場への送客売上高(GDOが取得する仲介手数料)は前期比18%増となっている。

 ゴルフのプレー後は、自身のスコアを確認して、次の練習に生かしたいと考えるだろう。そこで役立つのがスマホアプリ「GDOスコア」だ。GDOが提供するアプリの中で最も利用者が多く、22年6月時点で、250万件以上インストールされている。このアプリで取得したデータは、顧客とのコミュニケーションに役立てられる。

 プレーの成績が悪かった場合、改善点を知りたくなるのがユーザー心理というもの。そこで、ゴルフの練習に役立つ情報コンテンツを充実させている。ゴルフ用品の見直しも候補の一つとして挙がるだろう。アプリで管理されるスコアデータを参考に、お薦め商品情報を提供したり、練習方法が紹介されている記事コンテンツを送ったりするなど、一人ひとりに適した情報を提供する。

 GDOは、このようなゴルフを継続するための循環モデルを構築しているが、上記の利用方法は循環モデルの一例だ。顧客によっては、ゴルフ場予約が入り口となるケースもある。いずれにしてもゴルファーの活動を360度網羅することで、「ゴルフといえばGDO」というイメージを顧客に持ってもらうことができ、その延長で、ゴルフ用品を購入したくなったらGDOというふうに想起されやすくなる。

 「急がば回れではないが、あらゆる接点で接触回数と接触時間を増やし、それぞれにおいて良い顧客体験を提供すること。そうすれば“GDOは気が利く”という好印象につながり、エンゲージメントは必ず高くなる。エンゲージメントの向上や良い顧客体験は、LTVに相関する」と志賀氏は循環モデルがLTVに与える影響を説明する。

 このようにGDOでは1つのサービスを起点に、GDO経済圏の中で複数サービスの相互利用を促すビジネスモデルを確立した。実際、相互利用をしている顧客は、非相互利用顧客と比べて「年間LTVが20~30%上回っている」(志賀氏)という。

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