次世代経営指標「LTV」 第1回

新規顧客偏重から、既存顧客との関係性強化へ。多くの企業にとってCRM(顧客関係管理)の重要性が増している。その成果を測る、最も重要な指標が「LTV(顧客生涯価値)」だ。LTVは顧客1人当たりが自社に与えてくれる収益の総量を表す指標。自社の商品・サービスが顧客に価値を提供し続けられているかを端的に示している。しかし、LTVについて誤解をしたまま向上策に取り組んだ場合、「もうからないLTV」を追い続けることになりかねない。

LTVを正しく把握し、管理することが企業成長につながる(写真/Shutterstock)
LTVを正しく把握し、管理することが企業成長につながる(写真/Shutterstock)

 「LTVは平たく言えば当社にとってのKGI(重要目標達成指標)だ。最終利益と同じぐらい重要な指標になっている」

 こう断言するのは、化粧品の製造販売を手掛けるオルビスの小林琢磨社長だ。小林氏は2018年にオルビスの社長に就任すると、「LTV経営」を掲げ、経営指標にLTVを据えた全社的な構造改革を実行した。もっとも、小林氏が社長に就任する前も、オルビスがLTVを軽視していたわけではない。ただ、小林氏が考えるLTVとは定義が異なったのだ。オルビスも陥った「LTVの定義の誤り」、これが多くの企業が抱きがちなLTVに対する最大の誤解である。

 LTV=ライフ・タイム・バリューは「顧客生涯価値」と日本語に訳されるのが一般的だ。読んで字のごとく、顧客が生涯にわたって自社に与えてくれる価値を表している。LTVはサブスクリプション事業では当たり前のように成果指標として取り入れられている。「解約率」を下げ、「継続率」を延ばし、LTVを増やすことが事業成長につながるからだ。

 ただ、もはやLTVはサブスクのためだけの指標ではない。LTVは自社の商品・サービスやブランドが、顧客に絶やすことなく価値を提供し、愛され続けていることを証明する端的な指標だ。このことに気付いた先進的な企業は、経営指標としてLTVを取り入れ始めている。例えば、丸井グループはその代表格。「LTV経営」を掲げ、収益構造を大きく変えるなど経営改革してきた。メーカー、小売りに問わず、重要な指標になっている。

 ところがLTVは新たな指標故に、定義が曖昧なまま理解されていることが多い。特に「価値」という言葉が落とし穴になりかねない。売り上げ、粗利、営業利益……。企業の収益性を示す指標は複数あるが、どれを価値として設定するかによって、LTVの持つ意味は大きく変わるからだ。

マーケターや経営者がLTVに抱く誤解

 「経営者やマーケターが犯しがちな誤りは、LTVの価値に『売り上げ』を設定してしまうこと」。こう指摘するのは、デジタルマーケティング支援のRepro(東京・渋谷)の中澤伸也CMO(最高マーケティング責任者)だ。なぜ、売り上げをLTVの価値として設定するのが誤りなのか。その理由を説明するのに分かりやすい一例が、購入金額などに応じてポイントを付与する「ポイントバック制度」だ。

 販促策として、ポイント10倍キャンペーンなどが展開されているのを目にする機会は多いだろう。このポイントは販促費として計上される。ポイント付与率を高めれば、よりお得に買い物できるため、通常時よりも売り上げが増えるのは当たり前だ。しかし、変動費がかさむため利益率は低下する。

 1000円分のポイント還元キャンペーンで1500円の商品を実質500円で販売した場合と、定価で販売した場合は利益に大きな差があるのは明白だ。だが、売り上げを基にしたLTVを追い求めると、変動費を鑑みない販促策を打ち続けることになりかねない。その結果、「『見かけ上のLTV』は増えるが、『もうからないLTV』になってしまう」(オルビスの小林氏)。これでは本末転倒だ。

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