「顧客体験価値ランキング2022」リポート 第1回

顧客が「自分の気持ちや求めることをよく理解している」と思うブランドの1位は「丸亀製麺」――。インターブランドジャパン(東京・渋谷)が運営するC Spaceが2022年6月29日、「顧客体験価値(CX)ランキング2022」を発表した。同社の並木将仁社長がランキングの内容とその背景を解説する。

 顧客体験は日々重要性を増している。広告宣伝にいくらつぎ込んで認知を獲得しても、結局は体験が購買を左右する。米調査会社ガートナーは、顧客体験こそがロイヤルティー獲得の67%を担っていると試算している。また米調査会社フォレスター・リサーチによれば、CMO(最高マーケティング責任者)が顧客体験に包括的な責任を持っているときには、顧客体験への投資が30%増えると試算している。つまり、認知獲得に全力を傾ける時代は終わり、購買ファネル全体における効率を追求する時代になっている。

 だからこそ、顧客体験を客観的かつ定量的に評価し、他社と比較できる物差しが必要になっているが、それが存在していない。関連領域では、JCSI(日本版顧客満足度指数)が有名で、CS(顧客満足度)やNPS(他者推奨度)を独自に算出している企業も多い。しかしながら、多くの場合は企業が主語であり(JCSIの質問は「当社の/に/は」と設計されている)、もしくはプロセスや機能の個別要素にフォーカスしたものが多く(「商品説明は分かりやすかったですか」「サービスには満足ですか」など)、顧客主語で体験結果を評価している指標が存在しないため、残念ながら日本企業が陥りがちなプロダクトアウトの発想を強化している。

 この問題を解決するため、インターブランドジャパンが運営するC Spaceが、顧客による体験の評価によって顧客体験を定量化したのが「顧客体験価値ランキング」だ。

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1位の「丸亀製麺」は機能価値が高評価

 まずは今回の結果をご覧いただきたい。

22年、21年ともに35人以上から想起されたブランドの中でのランキング。21年順位の(-)は50位圏外。CX(顧客体験価値)スコアのカッコ内は21年からの増減
22年、21年ともに35人以上から想起されたブランドの中でのランキング。21年順位の(-)は50位圏外。CX(顧客体験価値)スコアのカッコ内は21年からの増減
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 本調査は顧客のことをよく理解しているブランドと理解していないブランドを、それぞれ1ブランドずつ(計2ブランド)を純粋想起してもらい、おのおののブランドを21項目で評価。その結果を加重平均し、顧客体験価値を算出。今回発表の調査は2021年10月と22年4月に、合計1万人強の日本在住者を対象にしてアンケートをとった結果を元に分析している。

 今回1位となったのは「丸亀製麺」。自由回答でネガティブコメントがないことは、1つの特徴だ。同時に機能価値についてのコメントが多く寄せられていることは、今後のさらなる成⻑機会と捉えられるだろう。

  • 注文から受け取りまでが非常にスムーズなところ(丸亀製麺)
  • 安価な価格、おいしい、キャッシュレス対応(丸亀製麺)

 丸亀製麺に続き、2位は前回1位の「星野リゾート」、3位に前回7位の「ANA(全日空)」と続き、上位にランクインしたブランドが安定的に強みを発揮している姿が見える。パーパス銘柄・顧客中心銘柄として際立ったポジションをとっている「味の素」(5位)や「花王」(9位)、そして「サントリー」(17位)も、21年に続いてトップ20にランクインしている。自由回答でも各ブランドの特徴が体験評価の大きな要因となっていることが見て取れる。

  • 家族の健康や豊かな心を育てるために必要な、食事のためにおいしく、栄養のあるものをつくっている企業だと思うので(味の素)
  • 時代に合わせた商品開発や改良などを行っている(花王)
  • 社会貢献に尽力していると思うから(サントリー)
22年、21年ともに35人以上から想起されたブランドの中でのランキング。21年順位の(-)は50位圏外。CXスコアのカッコ内は21年からの増減
22年、21年ともに35人以上から想起されたブランドの中でのランキング。21年順位の(-)は50位圏外。CXスコアのカッコ内は21年からの増減
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 圏外からトップ50にランクインしたのは、スシロー(4位)、楽天(42位)、SK-II(44位)、Netflix(46位)、コカ・コーラ(50位)の5ブランド。圏外からランキング上位に入るのが難しいことが読み取れ、体験価値は機能価値のように浮き沈みが激しいものではなく、情緒価値のように積み上げられていくと捉えることができるだろう。

 このランキングをより深く読み解く手法として、「顧客関係性の4段階」と「体験価値の5要素」の分析を紹介したい。

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