
プレスリリースをはじめとした広報活動の重要性は重々に理解しながらも、広報のみに特化した部署をつくるリソースがない──。そんな状況にある企業も多いだろう。しかし考えてみれば、広報以外の部署でもプレスリリースを書くことはできるのではないか。最近では、マーケティング担当が広報を兼務する事例も聞く。そんな中、こうした業務の融合に全社を挙げて取り組んでいる企業がある。ケンミン食品(神戸市)だ。同社の現在進行形の改革からは、広報とマーケティングを兼務する、メリット・デメリットが見えてきた。
プレスリリースはもはや広報だけがつくるものではない。商品企画やマーケティング担当などと連携し、早い段階から広報活動まで見据えて企画を進めていくことが、近年の傾向として見られる。しかしそうした連携の主体となる広報担当を、人的リソースやコストの面で専任として据えていない企業も少なくないだろう。そんな中、ビーフンを主力とするケンミン食品(神戸市)は、マーケティング部と広報の業務を融合させることで、広報活動の強化に乗り出した。
ケンミン食品では、基本的にマーケティング部がプレスリリースを書く。マーケティング部の中には商品開発部門なども含まれており、コンセプトづくり、味の調整、プロモーションの考案などを行いながら、広報業務としてプレスリリースも作成する。もともと同社には広報を担う部署がなかったが、トップの意向により全社を挙げて広報活動を強化することになったのが3年ほど前。その改革の中心を担うことになったのが、マーケティング部だった。現在ではマーケティング部のトップが広報室長も兼任し、15人いるマーケティング部の社員のうち、5人ほどが広報活動にも携わっているという。
広報とマーケティング融合のメリット・デメリットとは
最近ケンミン食品のプレスリリースで注目を集めたのは、2022年3月に発表した「健民ダイニングピリ辛汁ビーフン」の発売に関するものだ。ウェブへの露出に狙いを定めて、「Yahoo!ニュース」などに転載されやすそうな媒体に積極的にアプローチしたところ、40件ほどの掲載があったという。
このプレスリリースが成功したのは、商品企画の段階からニュースバリューを意識して盛り込めたからだ。マーケティング部開発課課長代理の吉田聖士氏が主にプレスリリース作成を担当した。ピリ辛汁ビーフンは、ケンミン食品が神戸市にある本社ビルの1階で運営する中国料理店「健民ダイニング」の人気メニュー。同店は食べログ百名店に選ばれているため、当初は「食べログ百名店の人気メニューを袋麺化」を前面に押し出してプレスリリースを執筆していた。
しかし、広報視点で俯瞰(ふかん)して見ると、プレスリリースを出すうえでのニュースバリューがいまひとつ弱いことに気づく。試行錯誤の末、最終的には「神戸でしか食べられない有名店の味を全国のご家庭で」という地域限定色を濃く打ち出すものに路線変更した。吉田氏はプレスリリースを作成するにあたり、どこにニュースバリューをつけるかを、商品企画段階からあらかじめ何案か考えておくという。今回の路線変更に際しても、例えば福岡発祥のラーメン店、一蘭(福岡市)のカップ麺が売れている例などをキャッチし、「地域の名店の味」「地域で売れている」といったネタを別案として下調べしていた。そのため、すぐに切り替えが可能だったのだ。
結果として見事に生活者にもメディアにも響き、プレスリリースから盛り上がりをつくることができた。ここからは、兼務広報にすることの3つのメリットが見える。一つ目は、あらかじめニュースバリューを考えながら、企画をつくり込んでいけることだ。顧客やメディアにどのようにアプローチしたい商品なのか、早い段階から考えておくことで、企画をより深いものにできる可能性がある。
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