
ゲキダンイイノ(大阪市)の「iino(イイノ)」は、「時速5キロメートル」で自動走行する電動モビリティ。城や産業遺跡をiinoで巡り、食事を楽しむイベント「MOMENT」は、30万~40万円という価格ながら富裕層に人気だ。ほかでは得られない体験の質を最大限高めるため、イベント全体の流れを丁寧にデザインしている。
京都の「哲学の道」が示すように、人間は歩きながら思索にふける生き物だ。そんな「人の歩くスピード」に着目して開発したのが、関西電力の子会社、ゲキダンイイノが開発した電動モビリティiinoだ。「ゴミ収集車にピョンと飛び乗る兄ちゃん」がモチーフで、各種センサーを搭載し、時速5キロの自動走行を前提としている。床が低くて気軽に乗り降りできる「type-S」と、ゆったりと座って移動できる「type-R」の2タイプがある。同社では、iinoを使用したさまざまな実証実験を行いながら、時速5キロの生み出す“新しい価値”を模索する。
iinoを使用したサービスの中でも特にユニークなのが、今までにない移動体験を提供する「MOMENT」だ。これまで宇都宮市で2回、福島県会津若松市で1回、計3回の開催実績がある(2022年6月時点)。これが、富裕層に受けている。
宇都宮では、「月面休息」をテーマに、移動と食に焦点を当てたイベントを開催。大谷資料館が有する約2万平方メートルの地下採掘場跡を1組2人で貸し切りにし、type-Rでの移動と食事を提供した。地下採掘場跡はまるで月面のような神秘的な雰囲気で、映画やドラマのロケ地としても頻繁に使用されるという。価格は1組2人で約30万円。各期間6組限定で募集した。21月11月と22年3月の計2回開催している。
会津若松では、21年11~12月に「会津晩餐(ばんさん)会」というテーマで、1泊2日の旅行として企画した。旅の目玉は鶴ヶ城を舞台にしたtype-Rでのディナー体験だが、そこに至るまでの道筋から帰りの出口まで、旅全体の体験を丁寧にデザインした。郡山駅から城までの移動にはハイヤーを使用した。価格は1組2人で40万円から、1日1組(2人)限定で、期間中5組を募集した。
どちらも積極的な宣伝活動はしなかったが、会員制のバーなどを中心に口コミが広がり、予約はすぐに埋まった。
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