ニッポンの今どき富裕層研究 第3回

東京・銀座の商業施設「GINZA SIX(ギンザシックス)」は2021年12月、開業以来最高の月間売上高を達成した。22年春の売り上げも好調だ。以前は活発だったインバウンド需要は、新型コロナウイルス感染症拡大によって落ち込んだが、テナントの入れ替えなどによって20~30代の若い富裕層に支持された。

GINZA SIXは2021年12月に過去最高の売り上げを達成するなど回復への足掛かりをつかんだ
GINZA SIXは2021年12月に過去最高の売り上げを達成するなど回復への足掛かりをつかんだ

 「2017年の開業当初は好調だったが、その後は新型コロナウイルスの影響でインバウンド(訪日外国人)需要が落ち込み、当社も苦しい状況が続いた。しかし21年12月の単月で見ると売上高は過去最高になった」。こう話すのはGINZA SIXを運営するGINZA SIXリテールマネジメント(東京・中央)プロモーション・サービス部長の佐伯喜美氏だ。

 具体的な数字は公開していないが、年間の売上高が数百億円なので、単月では数十億円だろう。22年に入って3月と4月、5月は再び回復基調に乗って、新型コロナ禍以前の19年同時期並みに戻った。もともと12月はクリスマス商戦でにぎわう時期だが、コロナ禍が一段落した21年10月ぐらいから次第に人の流れが戻ってきたという。その動きをGINZA SIXはうまくつかんだ。佐伯氏は「インバウンド需要に頼らなくても戦える」と自信を示す。

新しいラグジュアリーへ

 なぜ、そうなったのか。大きな理由が、以前から計画していた初の大規模なリニューアル計画が奏功したことだ。全体で約240テナントがある中、21年は約40テナント、22年は3月までに約20テナントの合計約60テナントを入れ替えた。240テナントのうちの60テナントだが、来店顧客にとってはGINZA SIXが変わったというイメージを与えることができた。

 GINZA SIXは「新たな価値を作り出す」という信念の下、さまざまな方向性を常に探っている。リニューアルに当たり、新しい方向性として打ち出したキーワードが「新しいラグジュアリー」「サステナビリティー(持続可能性)」「新しいライフスタイル」など。そうしたキーワードを代表するテナントをそろえた結果、インバウンドに代わってGINZA SIXを頻繁に利用しようとする新たなユーザー層が出てきた。それが20~30代の富裕層だった。

 新しいラグジュアリーとは型にはまった高額品のスタイルではなく、例えば、精緻なディテールや最高級の素材を使いながらもシンプルでミニマルなデザインを気軽に楽しむスタイルになるという。長く使えることに価値を見いだし、心が豊かになるような生活を目指すユーザー層だ。従来の高齢な富裕層とは全く異なるラグジュアリーを求める。具体的な職業など実像は分からないが、IT関連の会社経営者や役員が多いようだ。

「新しいラグジュアリー」を象徴するテナントの例がイタリアのブランド「OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH TM」などだ(写真/阿野太一)
「新しいラグジュアリー」を象徴するテナントの例がイタリアのブランド「OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH TM」などだ(写真/阿野太一)
GINZA SIX内にあるOFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH TMの店舗。ストリートウエアとハイファッションが融合するブランドだ(写真/阿野太一)
GINZA SIX内にあるOFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH TMの店舗。ストリートウエアとハイファッションが融合するブランドだ(写真/阿野太一)
同じく新しいラグジュアリーを象徴する、米国のブランド「THE ROW」のGINZA SIX内にある店舗(写真提供/THE ROW)
同じく新しいラグジュアリーを象徴する、米国のブランド「THE ROW」のGINZA SIX内にある店舗(写真提供/THE ROW)
THE ROWも最高級素材を使用しながら無駄をそぎ落としたシンプルなデザインが特徴
THE ROWも最高級素材を使用しながら無駄をそぎ落としたシンプルなデザインが特徴

デジタルとアートを切り口に

 20~30代の富裕層に向けて、GINZA SIXは新たなプロモーションに乗り出している。切り口は、こうした年代に相性が良いと思われる「デジタル」と「アート」だ。例えば21年のクリスマスシーズンにはアーティストの清川あさみ氏による、光を放つ糸を使った映像のデジタルアートがエントランスを華やかに演出した。中央の吹き抜け部分にある彫刻家の名和晃平氏のインスタレーション「Metamorphosis Garden(変容の庭)」は、好評につき展示期間を当初の22年4月下旬から10月まで延長する。これはAR(拡張現実)を採用した体験するアートだ。

アーティストの清川あさみ氏が「いのちと光の柱」をテーマに制作し、エントランスにディスプレーされた新作アート『OUR NEW WORLD』。映像のデジタルアートが21年12月のクリスマスシーズンにおけるGINZA SIXのエントランスを彩った
アーティストの清川あさみ氏が「いのちと光の柱」をテーマに制作し、エントランスにディスプレーされた新作アート『OUR NEW WORLD』。映像のデジタルアートが21年12月のクリスマスシーズンにおけるGINZA SIXのエントランスを彩った
22年の5周年記念では館内外にミレニアル世代のアーティストで写真家である小林健太氏の作品『reflex』を展示
22年の5周年記念では館内外にミレニアル世代のアーティストで写真家である小林健太氏の作品『reflex』を展示
名和晃平氏の「Metamorphosis Garden(変容の庭)」。生命と物質、あるいはその境界にある曖昧なものが共存する世界をテーマにしたインスタレーション。振付家ダミアン・ジャレ氏との共作によるAR(拡張現実)のパフォーマンスを展開し、絶えず変容する世界がリアルな物体とARのイメージとして重なり合う。今までの鑑賞するアートから体験するアートとして注目された。Metamorphosis Garden2021 mixed media dimensions variable Installation view, “Kohei Nawa - Metamorphosis Garden”, Tokyo, Japan
名和晃平氏の「Metamorphosis Garden(変容の庭)」。生命と物質、あるいはその境界にある曖昧なものが共存する世界をテーマにしたインスタレーション。振付家ダミアン・ジャレ氏との共作によるAR(拡張現実)のパフォーマンスを展開し、絶えず変容する世界がリアルな物体とARのイメージとして重なり合う。今までの鑑賞するアートから体験するアートとして注目された。Metamorphosis Garden2021 mixed media dimensions variable Installation view, “Kohei Nawa - Metamorphosis Garden”, Tokyo, Japan

 22年4月にはZ世代を中心に支持を集める音楽ユニット「三月のパンタシア」によるGINZA SIXオリジナルムービーを公開開始。ボーカルのみあ氏による歌詞の世界観を、人気イラストレーターのダイスケリチャード氏が銀座を舞台にしたイラストとコラボレーションで表現。GINZA SIX公式サイトやYouTubeで配信している。さらにGINZA SIXオリジナルなポッドキャスト番組も同時期にスタート。銀座6丁目を舞台にアートやデザイン、文化など、さまざまな分野で活躍するゲストとその友人が繰り広げるトークを配信中。さまざまな仕掛けで20~30代の若い富裕層を取り込もうとしている。

「三月のパンタシア」によるGINZA SIX オリジナルムービーのワンシーン
「三月のパンタシア」によるGINZA SIX オリジナルムービーのワンシーン
ポッドキャスト「銀座は夜の6時 presented by GSIX」のイメージ画像
ポッドキャスト「銀座は夜の6時 presented by GSIX」のイメージ画像

(画像提供/GINZA SIXリテールマネジメント)

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