事前の発売情報なし、広告もなし。一部のセブン-イレブンやスーパー、Amazonのみで突然発売されたフルーツティーが、サントリー食品インターナショナルの「GOROCHA(ゴロチャ)」だ。専用ページはあるものの、情報がほとんど出回っていないため、商品を購入するには偶然出合うしかない。あえてプロモーションをしない理由は何か。同社の戦略に迫った。

サントリー食品インターナショナルが開発した「GOROCHA(ゴロチャ)」。左がパイン、右が白桃
サントリーが開発した「GOROCHA(ゴロチャ)」。左がパイン、右が白桃

 東京都港区のセブン-イレブンで、見慣れない商品棚に透明なパウチに入ったフルーツティーが並んでいた。パッケージには「GOROCHA(ゴロチャ)」と書かれており、パインと白桃の2種類がいずれも税込み297円。どうやらサントリー食品インターナショナルが開発しているようだ。

 スマートフォンで「ゴロチャ」と検索すると、サントリーのサイト内の特設ページに飛ぶものの、発売情報の記載はない。この謎の商品はいったい何なのか、サントリー食品インターナショナルに確認した。

 ゴロチャは、ゴロっとした果肉が入ったフルーツティーのこと。パウチの中身を氷を入れたグラスに注ぐだけで、カフェで飲むようなドリンクが作れるのが売りだ。新領域へのチャレンジを目的に、2018年9月に発足したイノベーション開発部が企画した3例目のプロダクト。先の2例はサービスだったため、商品としては今回が初の挑戦という。

 ターゲットは、休日に非日常感を求める20~30代女性。こうした層には、新型コロナウイルス禍でアレンジメニューの調理を自宅で楽しんだり、それをSNSに投稿したりすることになじんでいる人が多い。「ひと手間を加える体験を付加価値として提供できれば、InstagramなどのSNSで発信してもらいやすい」とゴロチャのブランディングを担当した同部の白石文香氏は考えた。

氷を入れたグラスにゴロチャを注げば、ゴロっと果肉が入ったフルーツティーが完成する
氷を入れたグラスにゴロチャを注げば、ゴロっと果肉が入ったフルーツティーが完成する

サントリーがあえてプロモーションしないワケ

 この商品がユニークなのは、プロモーション活動をほとんど行わないことだ。発売日である22年7月12日まで告知をせず、東京都港区にある一部のセブン-イレブン、東京、神奈川、埼玉の一部のスーパー、そしてAmazonにて数量限定の販売を開始した。認知度が低く、タッチポイントが限られるため、実店舗やネットで偶然見つけて買うしかないレアな商品といえる。

 サントリーといえば、大量の商品を生産・販売し、比較的な大きな予算をかけてプロモーション活動をするマスマーケティングに強みを持つ。例えば、「金麦」のテレビCMには柳楽優弥、「伊右衛門 特茶」には本木雅弘など、著名人を起用するCMのインパクトは絶大だ。デジタルプロモーションにも積極的で、サントリーのYouTube公式チャンネルの登録者数は28万人超、Twitter公式アカウントのフォロワーは167万人いる(いずれも22年7月15日現在)。こうした発信力を使えば好スタートを切りやすいが、ゴロチャではあえてそうしなかった。

 告知をしないのは、商品に関する“リアルな数字”が欲しいためだ。「どこで買われ、SNSでどう拡散され、最後にAmazonで購入されるか、といった観点で一から検証するのが目的」と白石氏は明かす。例えば、情報が何もない状態でゴロチャを発売すれば、消費者は店舗で衝動的に購入することになる。購入者はSNSで情報を発信し、その投稿を見た人がゴロチャをネットで検索。サントリーの特設ページを経由してAmazonの販売ページから購入するという仮説を立て、各フェーズでの定量データを収集する。

Amazonの「ゴロチャ」の販売ページ
Amazonのゴロチャの販売ページ

 思い切った決断の裏には、サントリーの危機感がある。近年、新型コロナウイルス禍で消費行動が変わり、若者のテレビ離れも加速している。これまでと同じプロモーションが将来的には通用しなくなるのではないか――。そんな問題意識から、一度ゼロベースで商品の売れ方を分析し、今後の商品開発・マーケティングに生かそうと考えたのだ。「少数生産・少量販売で、消費者のリアルな声を傾聴しながら商品をブラッシュアップしていくのは珍しく、チャレンジングな取り組みになる」(白石氏)

 「ゼロベースで」という思考は、全く新しいブランドを立ち上げて商品を展開したことにも表れている。テストマーケティングなら、「クラフトボス」などの既存ブランドから出す方法もあるが、こうしたブランドは消費者に既に知られている。ゼロからの検証のために、在庫リスクを抱えてでもリアルな数字にこだわった。

 実店舗にコンビニやスーパーを選んだのも、効果を検証しやすいためだ。「どちらも生活の動線上にあって直観的に選んでもらいやすいため、より現実的な数字になる」(白石氏)。効果を正確に測るため、「開発チームや関連部署全体に、店頭で見かけてもECでも『買わないで!』と一斉メールした」というほどだから、その本気度がうかがえる。

SNS拡散を促すのは「透明感」

 その一方で、商品には、SNS拡散を促す工夫を施した。その一つがパウチ飲料にしたことだ。エンタメやファッション、コスメなど、韓国カルチャーはいまや日本の多くの若者が参考にするトレンドの一つ。「韓国ではパウチ飲料がスタンダード。自分で作ってアレンジするスタイルが浸透し、コンビニでは氷とセットで販売する店もある」と、開発責任者の片山透氏は話す。

 コロナ禍では家に持ち帰って食べる“家ナカ需要”が拡大し、持ち歩きに向くペットボトルを使用する必要性も薄れた。そうしたトレンドを考慮し、パウチ飲料に白羽の矢を立てた。

 商品全体に透明感を出したのもポイントだ。「パウチが透明なのは、ゴロっとした果肉を見せてプチぜいたく感を演出するため。(飲料の)液色が透明に近いのは、果肉に色が移り、おいしそうに見えなくなるのを防ぐためだ」(片山氏)。いずれもSNS映えを意識した。

 販売データだけではなく、購入者の定性的なデータも取得し、次の商品開発に生かす。そのために、商品に2次元コード(QRコード)がついたシールを貼り、スマホで読み取るとLINEのアンケートページに飛ぶ仕組みを用意した。「どこで飲んだか」「氷は使ったか」「グラスに注いだか」「価格はどうか」といったアンケートに回答すると、LINEポイントが200ポイントもらえ、回答者にもうま味がある。

 また、22年7月15日から8月15日まで、国内で「売らない店」市場をけん引する「b8ta Tokyo Shibuya」でも展示し、試飲などができるスペースを設ける。そこでも若者の反応を確認する予定だ。

LINEのアンケート機能を利用し、購入者の意見を収集して次の開発に生かす
LINEのアンケート機能を利用し、購入者の意見を収集して次の開発に生かす

 大企業のスケールメリットをあえて手放し、消費者の声を基に、ゼロベースで新たな商流を考える取り組みは珍しい。告知をしないことで大失敗をするリスクもあるが、既存のプロモーションを続ける方がリスクだと考えたのだろう。ゴロチャで得たデータを生かせれば、新しい販売チャネルが浮かび上がるはずだ。

注)販売する場所は2022年7月20日現在の情報で、今後変更される場合がある。
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