専門店の登場や「ヌン活」(アフタヌーンティーを楽しむ活動)の後押しを受け、「カヌレ」が第2次ブームの兆しを見せる。すでに競争の激しい市場で、味とコスパを武器に後発の商品をヒットさせたのがローソンストア100だ。既存のヒットの法則を捨て、Instagramを利用する若い女性の獲得に成功した。

ローソンストア100でヒット中の「カヌレ(カスタードクリーム入り)」
ローソンストア100でヒット中の「カヌレ(カスタードクリーム入り)」

 カヌレとは、フランス・ボルドー地方の伝統的な焼き菓子のこと。小さな王冠のような形で、外はカリッと固く、中はしっとりとした甘さが特徴だ。日本には1990年代後半に上陸し、第1次ブームが到来。それから20年の時を経て、第2次ブームの兆しを見せている。

 新型コロナウイルス禍で“プチぜいたく需要”が高まり、2020年ごろから全国でカヌレ専門店のオープンが相次いだ。20年8月には福岡の有名店「LA SOEUR(ラ・スール)」が、東京の小田急百貨店 新宿店に出店。カヌレの上にクリームを乗せた「進化系カヌレ」として話題になった。こうしたブームの理由を、ラ・スールを運営する篠崎弘貴氏は「自分へのご褒美として購入したカヌレをInstagramに投稿する女性が増加したため」と見る。

 22年5月時点で、Instagramにはハッシュタグ「#カヌレ専門店」を付けた投稿が3万2000件。自作カヌレの投稿も増え、「#手作りカヌレ」は5000件を超えている。また、アフタヌーンティーを楽しむ「ヌン活」のメニューにも取り入れられ、映えるスイーツとして定着しつつある。

 人気を受けて大手メーカーも参入した。UHA味覚糖(大阪市)は22年4月11日に一口サイズの「カヌレット」(実勢価格149円、税込み、以下同)を発売。商品アンバサダーに21年11月3日にデビューした7人組ボーイズグループ「BE:FIRST」を起用するなど、その本気度がうかがえる。公式Twitterで商品を告知すると、1万を超える「いいね!」を集めた。広報担当の荒木英明氏は「発売当初から人気で、供給が追い付いていない状況が続いている」と明かす。

UHA味覚糖の「カヌレット」
UHA味覚糖の「カヌレット」

 09年~22年の「カヌレ」の検索者数を、検索トレンドを教えてくれるサイト「Googleトレンド」を使用して調べてみた。Googleトレンドは、検索ボリュームの推移を、ピーク時100としてグラフ化する。特定のワードに対する検索数が多いほど、人々の関心が高いと見ていいだろう。以下がそのグラフだ。

Googleトレンドで調べた、2009年~2022年におけるカヌレの検索者数の推移
「Googleトレンド」で調べた、2009年~2022年におけるカヌレの検索者数の推移。10年代後半から少しずつ伸び始め、20年に急上昇した。第1次ブームとされる1990年代後半部分はデータが取れなかった

 10年代後半から少しずつ検索が伸び始め、20年に急上昇。夏場には少し下がるため季節性がありそうだが、21年も好調を維持していることが分かる。まさに第2次ブームの真っただ中と言っていい。

あえてブームに乗り、味と価格で差別化を図る

 コンビニ業界でヒットしたのが、ローソンストア100が22年4月6日に発売した「カヌレ(カスタードクリーム入り)」だ。内側にカスタードクリームを入れて高級感を演出しながら、カヌレとしては比較的安価にし、コストパフォーマンスを高めた。

パッケージは半透明にし、一目でカヌレと分かるようにした。熱量は143キロカロリー
パッケージは半透明の部分を大きくし、一目でカヌレと分かるようにした。熱量は143キロカロリー

 専門店の相場が1個200~400円であることを考えると、129円という価格は手を出しやすい。コンビニでは15年に発売したナチュラルローソンのカヌレ(160円)が有名だが、それより30円安い値ごろ感に消費者は敏感に反応した。

 販売数は、発売2カ月弱で16.7万個。日経トレンディが2022年のコンビニ上半期ヒット大賞に選んだローソンの「生カスタードシュークリーム」(150円、22年3月発売)は、発売27日で700万個を販売している。これに比べると小さな数にも感じるが、この差は取扱店舗数や店の規模によるところが大きい。ローソンの約1万4400店舗に対し、ローソンストア100は関東や近畿、中部を中心に約670店舗。そのため、今回のカヌレを企画したローソンストア100商品本部の宮永理恵氏は、「想定以上の大ヒット」と話す。

「カヌレ(カスタードクリーム入り)」を企画したローソンストア100商品本部の宮永理恵氏
「カヌレ(カスタードクリーム入り)」を企画したローソンストア100商品本部の宮永理恵氏

 ブームの中、競合製品も多いカヌレにあえて挑むのは、20~30代女性を獲得する狙いがある。実は、ローソンストア100は「コンビニの利便性」と「スーパーの品ぞろえ」のいいとこ取りをコンセプトにした業態。トレンドの商品よりも生鮮食品や日配品に力を入れてきたため、利用者は男女ともに40~50代が多く、そのうち男性が6割以上を占める。「若い女性にどうにかしてアプローチしたい、という課題があった」(宮永氏)

 これまでのスイーツは既存顧客の“衝動買い”を呼び込むため、「ボリューム感」と「税抜き100円という安さ」の両立を前提として開発してきた。その代表格が、スイーツ部門で長らくトップクラスの販売数を維持する「カスタード&ホイップのツインシュー」(108円、20年4月発売)だ。男性が満足できるボリューム感に加え、買い合わせを意識した低価格を実現した。

 一方で、今回のカヌレは小ぶりな形状で、値段も129円と従来の商品よりも割高。原材料費やトレー代、人件費の高騰を受け、上記の必勝パターンに持ち込めなかったためだ。「(ボリュームと低価格)どちらにも当てはまらない商品の成功体験はなく、挑戦的な意味合いが強かった」と明かす。

 新たな挑戦で狙ったのは、若い女性の“目的買い”。競合が多い市場においても、「話題の商品がこの価格で」と思わせる付加価値があれば、ユーザー自らがSNSに投稿する口コミ、すなわち「UGC(ユーザー生成コンテンツ)」が増加し、ローソンストア100を知らない人の認知度も高まると踏んだ。

 その狙いは的中した。Instagramでは「まさかのこれ」「驚きカヌレ」などと紹介される口コミが拡散し、中には5000件近い「いいね!」が付いた投稿もあった。ローソンストア100の公式アカウント(フォロワー約2万4000)の投稿に付いた「いいね!」は約600件。明らかにローソンストア100を知らない層へのアプローチにも成功したという。

 カヌレの購入状況からもその傾向は見て取れた。「これまでのヒット商品の購入者の割合は男女半々だったが、カヌレは7割が女性。ここまで偏る商品は前例がなく、想像以上に新規顧客にアプローチできていた」と手応えを語る。

 もちろんSNSだけではなく、店頭での販促効果もヒットを後押しした。商品の近くにはカヌレブーム到来を伝えるポップを掲示したり、小さなカヌレが大きなスイーツより映えるよう、複数個まとめて棚に並べ、存在感を高める工夫をしたりした。

店舗の商品棚の前には、カヌレブーム到来を知らせるポップを配置。小ぶりな商品を目立たせるため、必ず複数個まとめて陳列するようにした(写真提供/ローソンストア100)
店舗の商品棚の前には、カヌレブーム到来を知らせるポップを配置。小ぶりな商品を目立たせるため、必ず複数個まとめて陳列するようにした(写真提供/ローソンストア100)

 カヌレを食べたいけど、専門店まで行くのは大変だし、価格も高いとためらう人にとって、ローソンストア100のカヌレは選択肢の一つとなる。大ヒット中のウインナー弁当やミートボール弁当は216円。これにペットボトルのお茶、カヌレを買い合わせても500円のワンコインで収まる。こうした組み合わせやすさも、同社のカヌレの魅力と言える。

 実際にパッケージを開封して手に持つと、想像以上に小ぶりな印象だ。親指と人さし指でつかむと外側がへこむほど柔らかい生地でつくられている。全体的にもっちりとした食感で、中に入ったカスタードクリームとの相性もいい。3口ほどで食べられる量なので、1個では物足りないと感じる人もいるだろう。

中央にはカスタードクリームが充填。山崎製パンのスケールメリットを生かし、製造コストを圧縮する
中央にはカスタードクリームが充填。山崎製パンのスケールメリットを生かし、製造コストを圧縮する

 今回のカヌレの好調を受け、ローソンストア100では第2弾を22年8月に発売する予定だ。今回のカヌレは、SNSをうまく活用して新規顧客を取り込み、「ボリューム感があって安いスイーツしか売れない」という固定観念を覆した好例だ。カヌレで得た新規顧客をつなぎ留められるか、次の施策がカギになりそうだ。

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