書籍『ファンをつくる力』を出版した、プロバスケットボールリーグB.LEAGUEの川崎ブレイブサンダースでマーケティング領域を統括する藤掛直人氏による本連載。今回のテーマは「TikTok(TikTok)」。川崎ブレイブサンダースのTikTokアカウントは、日本のプロスポーツチームで読売ジャイアンツに次ぐ2番目となる11万人強(2022年11月現在)のフォロワーを誇ります。どんな層を意識して、どのように制作・運用をしているのかを語ります。

TikTokは新規ファンを獲得する上で、効果的なプラットフォーム
TikTokは多くの企業にとって、新規ファンを獲得するために有用なプラットフォームです。フォローしたアカウントの動画を見るよりも、アルゴリズムにより「おすすめ」として流れてきた動画を見ることがメインの設計になっているため、視聴者と動画の新たな出合いが創出されやすいプラットフォームであり、各動画も拡散されやすいのです。
また、企業によるTikTok運用はTwitterやInstagramほどメジャーな手法になっていません。これはチャンスと捉えるべきで、業界内で先んじてTikTok運用での成功事例をつくることは、アライアンスやメディア露出の面で大きなメリットを享受できます。
川崎ブレイブサンダースも、スポーツ界において先行して本格的に取り組むことで、読売ジャイアンツに次ぐ国内プロスポーツクラブで2位のフォロワー数まで到達しました。Bリーグのクラブの売り上げ規模は、プロ野球チームの約10分の17、Jリーグの約5分の1といわれているため、このフォロワー数は驚きをもって見られることがほとんどで、クラブが注目してもらえる一要素となっています。
そしてTikTokでの取り組みは、観客動員にも好影響を与えています。10代の新規来場者のうち、実に40%がTikTokを見てからチケットを購入しているのです。それだけではなく、これまで接点を持てていなかった新規ファン層にアプローチできていることが明らかになりました。川崎ブレイブサンダースの試合に来場している方へのアンケートで、各SNS(交流サイト)のフォロー率を調べると、Twitter、 Instagram、YouTubeが軒並み60%を超えているのに対して、TikTokは23%と極端に低くなっています。一方でフォロワー数・登録者数でいうとTikTokはYouTubeに次ぐ2番目に多いのです(2022年11月現在ではYouTube登録者数14万7000人、TikTok11万6400人)。つまり、TikTokのフォロワーの中には、普段川崎ブレイブサンダースの試合を観戦していない方が多数含まれており、今まで接点を持てていなかった層にアプローチできていると言えます。
このように、新規ファン開拓において効果的なTikTokですが、企業が運用する際に陥りがちな落とし穴があります。
プラットフォームの特性に合わせて運用しなければ成功はない
TikTokに限らずSNSなどのプラットフォーム上で成功するために、まず避けなければならないのは、全プラットフォームで同じコンテンツを無思考に横展開することです。
運用工数など様々な問題により、ついつい陥ってしまう落とし穴ですが、プラットフォームの特性を無視して運用しても成功しません。運用する目的や各プラットフォームの特性に合わせて、それぞれで最適な形に自らのコンテンツを昇華させる必要があります。
自分たちがやりたいことを各プラットフォームで同じように展開しても、見た人の心には刺さりません。なぜなら、YouTube、TikTok、Instagram、Twitter、交通広告、あるいはプロスポーツでは会場内のビジョンに至るまで。それぞれのプラットフォームや媒体ごとに、動画を見る人も異なれば、見る環境や状況も異なります。つまり、それぞれで求められているコンテンツ、受け入れられるコンテンツも全く異なるのです。
ゆえに、それぞれのプラットフォームの特性を理解し、それぞれに最適化させたコンテンツを投下することが重要になります。
そのためには、各担当者はもちろん、現場リーダー自らインプットする努力が必要です。現場リーダーがプラットフォームを正しく理解していなければ、メンバーの提案を正しく判断することなどできないからです。
そして、どのプラットフォームも特性や流行を把握するためには、一定以上の一次情報に触れることが重要です。なぜなら言語化が難しいものも多く、二次情報からだと正しく理解できないケースが少なくないためです。特にTikTokは流行の変遷が速く、常に直接キャッチアップし続けることが重要です。逆に流行を正しく追えていれば、TikTokで成功する確度は明確に上がります。
TikTok成功に不可欠な、プラットフォーム理解をするための小ワザ
TikTokの特性や流行の把握において、重要なのが「正しく」というポイントです。なぜならTikTokのアルゴリズムによるわなが存在するためです。
TikTokは各ユーザーの行動を分析して、その人が好むであろう動画を優先的に表示します。再生時間が他よりも長かったり、「いいね」をつけたりしている動画を学習し、それらと近い動画を「おすすめ」として表示するのです。つまり、TikTokを見てみたが、いつも若い女の子が踊っている動画ばかりじゃないか!と言う上司はそういうことです(笑)。
「おすすめ」としてパーソナライズされること自体は、ユーザーと動画の出合いが最適化されるという意味で、ユーザーにとっても投稿者にとってもありがたい機能です。ただ、プラットフォーム理解をする上ではくせ者です。なぜなら、どうしても自分のアカウントに流れてくる動画はジャンルが偏ってしまい、TikTok上の流行を網羅的に把握することが難しくなってしまうからです。

そこでおすすめの方法が、閲覧用に複数アカウントを使い分けるということ。実はTikTokは異なるメールアドレスさえあれば、アカウントを複数所持することができます。複数用意したアカウントそれぞれにおいて、ターゲットとするユーザー像になりきって閲覧することで、TikTokのアルゴリズムがターゲットの属性ごとの流行を教えてくれます。さらに、複数アカウントで分析することで、TikTok全体に共通する流行も見極めることができます。
まずはプラットフォームの特性と流行を知ることがアカウント運用の一歩目です。複数アカウントによる閲覧でインプットした情報をもとに、投稿内容を最適化させていくことがTikTok運用成功への王道だと私は考えています。
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