2021年7月にTikTokのアカウントを開設し、1年強でフォロワー数が20万人を突破した全日本空輸(ANA)と、日本のプロスポーツチームで、読売ジャイアンツに次ぐ2番目の数字となる11万人強のフォロワーを擁するプロバスケットボールチーム、川崎ブレイブサンダース。昨今、TikTokをマーケティングに活用し、成果を上げる2社の担当者による鼎談(ていだん)の後編。今回は、TikTok LIVEの活用方法、さらには新型コロナウイルスの影響が収まりつつあるなかで、TikTokに求める役割は変わるのか、といった話を聞いていきます。

槻本裕和氏(中央) ANAホールディングス株式会社 広報・コーポレートブランド推進部 SNS・メディアプランニングチーム 課長/二見良太氏(右) ANAホールディングス株式会社 広報・コーポレートブランド推進部 SNS・メディアプランニングチーム アシスタントマネージャー。2人はANAの広報部にてSNS(Twitter、Instagram、facebook、TikTok)を担当。槻本氏がSNSの統括、二見氏はTikTokをメインとして担当している。藤掛直人氏(左) 株式会社DeNA川崎ブレイブサンダース 事業戦略マーケティング部 部長。DeNAに入社後、スマートフォン向けゲームのプロデューサーを務め、タイトル責任者としてファンコミュニケーションに従事。その後、小中高と親しんだバスケットボールを事業化すべく、スポーツ領域の新規事業開発を担当。バスケ事業の体制構築後は事業戦略マーケティング部 部長として、マーケティング領域を統括する
槻本裕和氏(中央)ANAホールディングスの広報・コーポレートブランド推進部SNS・メディアプランニングチーム課長/二見良太氏(右)同メディアプランニングチームのアシスタントマネージャー。2人はANAの広報部にてSNS(Twitter、Instagram、facebook、TikTok)を担当。槻本氏がSNSの統括、二見氏はTikTokをメインとして担当している。藤掛直人氏(左)DeNA川崎ブレイブサンダース 事業戦略マーケティング部 部長。DeNAに入社後、スマートフォン向けゲームのプロデューサーを務めた後、スポーツ領域の新規事業開発を担当。バスケ事業の体制構築後はマーケティング領域を統括する。
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コアなファンに向けてTikTok LIVEを活用

藤掛直人氏(以下、藤掛) ANAさんは、TikTok LIVEを積極的に活用されていますよね。

二見良太氏(以下、二見) そうですね。LIVEで積極的に配信しているのが、弊社の社員でないと入れない、特別感のある場所をひたすら流すというものです。

槻本裕和氏(以下、槻本) 例えば、飛行機って夜中に人の手で洗っているんですが、その様子を何時間もライブ中継したんです。手洗いでコシゴシコシゴシやっているところを、二見が高所作業車の上に乗って中継するという(笑)。

二見 固定カメラでは落ちたら怖いので、25m上のところでスマートフォン片手に(笑)。

藤掛 高いところが苦手なので、想像しただけで怖いです(笑)。しかし、普段されている業務を切り出すだけでコンテンツになるのはいいですよね。実況みたいなものは入れるんですか?

二見 相互コミュニケーションの観点でお話ししますと、「(特定の人だけ返信をすると)私には返事をくれない」といった印象を与えてしまう可能性があるので、返信や回答はLIVEでもやっていないです。ただ、例えば「ここが見たい」といったコメントをいただいたら、そちらのほうを撮影することはあります。また、コメントで間違った情報が入った場合には、言葉でしっかりと訂正をしています。過度に取ろうとはしていないんですけれども、伝えなければいけない内容は答えるといった形で、コミュニケーションを取っている感じです。

藤掛 ANAさんのTikTok LIVEはコアなファンの方に向けた感じですか?

槻本 そうですね。飛行機ファンの方に向けてやっています。川崎ブレイブサンダースさんは、どうですか?

藤掛 うちはTikTokを新規層との接点を増やすという目的で運用しているので、LIVEでもあまりマニアックなコンテンツはやらないようにしているんですよね。そういったコンテンツは他のプラットフォームを活用しています。一方でTikTok LIVEでは、他クリエーターさんとのコラボを行うことで、その方のファンのみなさんに見ていただき、接点を増やすことに積極的に取り組んでいます。

TikTok LIVEを活用しているANAのアカウント。“手洗い”という航空機洗浄の様子を夜間に生中継し、飛行機ファンから好評を博している
TikTok LIVEを活用しているANAのアカウント。実は“手洗い”という航空機洗浄の様子を夜間に生中継し、飛行機ファンから好評を博している
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アフターコロナでTikTokの役割は変わる?

藤掛 TikTokを始めたきっかけの1つに、新型コロナウイルスの影響を挙げられていましたが、昨今は少し落ち着き始めましたよね。TikTokの活用に期待することが、当初とは変わるのではと思うのですがいかがでしょうか。

槻本 まず、若い世代に向けてという目的が変わり始めています。というのも、我々がTikTokを始めた頃と比べて、TikTokのユーザー層が爆発的に広がっているのを実感していまして。実感としては、Z世代(1990年代半ば以降に生まれたZ世代)だけではなくて、もうほぼ全ての年齢層に広がりつつありますよね。

二見 新型コロナの影響については、おっしゃるようにやや落ち着き、旅行での利用も動き出してきましたので、いよいよご利用促進のフェーズに移っていければ。例えば、各地の魅力などを弊社なりの形でお伝えするといった投稿を考えています。

槻本 また、先日、海外からの訪日制限が緩和され、海外のお客さまが日本に注目され始めるタイミングでもあるので、日本の魅力の発信も意識しています。

藤掛 TikTokは、海外にもリーチできるプラットフォームですよね。

二見 実は先日、TikTokアカウントで弊社の社長が英語のコメントを出したんです。訪日の入国制限が緩和されたので、「海外のみなさん、待っています」と。日本向けに運用してきたアカウントですので、特に反応はないだろうなと思っていたのですが、その投稿に関しては海外の方からも、「いいね!」やコメントが多く寄せられました。

槻本 『鬼滅の刃』とのコラボも、東南アジアなど日本以外の方からコメントをいただきました。TikTokは動画と音楽という、あまり言葉に依存しないプラットフォームですので、海外にも広く届ける手段になるのかなと感じています。

藤掛 川崎ブレイブサンダースでも、なにげなく投稿した動画に突如、海外からのコメントがたくさん付いたことがありました。そこで、まったく日本語を全然使わない「ダンク祭り」という動画を作ってみたんです。

 身長と国籍を、数字と国旗のみで表現した動画なのですが、選手が次々とダンクをしていくなかで、日本人の身長178cmの選手がダンクしてることについて驚きのコメントが世界中からたくさん来たんです。動画自体も、200万回再生を超えるヒットとなりました。

槻本 それは狙って反応があったんですか?

藤掛 それだけは狙って(笑)。

二見 すごい。狙って作成した動画にちゃんと反応が来るのは、勝ちですね(笑)。

藤掛 海外からに限らず、身長などといった、誰もがイメージしやすい要素を入れると反響が良いですね。動画だけではリアルに実感しづらいものでも、例えば170cm台の選手が2m超の選手に競り勝っているだとか、見る人の世界とリンクさせる要素があると一気にリアリティーやすごみが増します。そしてそれは、自分自身にひも付けたコメントを誘発します。実際に「ダンク祭り」の動画でも、「自分も○○cmだけどこんなのできない」や「身の回りで178cmの友達がいたら高身長なのに、コート上だとこんなに小さく見える」といったコメントがありました。身長に限らず、そういった分かりやすさが大事なんだなと思いながら取り組んでいます。

槻本 新型コロナの影響がやや落ち着きはじめたことで、川崎ブレイブサンダースのTikTokの運用も変化はありそうですか?

藤掛 大きくは変わらないかなと思っています。私たちの目的は、新規層との接点を取りたいということですので、引き続きそれを意識していこうと考えています。

 新型コロナの影響は確かに収まってきているんですけど、リアルエンタメはまだお客さんの足が戻りきってないんですよね。入場制限はなくなったんですが、なかなか新型コロナ前のように、初めての方が気軽に来場されるという雰囲気にはなっていないといいますか。そのためにも、TikTokでいろいろな人に知ってもらって、足を運んでいただくきっかけになればと思っています。

 ただし、制限がなくなったことで、SNSをはじめとするデジタルとリアルの融合には可能性を感じています。YouTuberさんとのコラボは、もともとYouTube上でだけだったのが、そこから一段踏み込んで、プロ選手とのバスケ対決を有観客で実現することができました。

 すでに21年に、試合間にTikTokを使ったクイズ問題を出題するイベントも行っており、今後もさらにデジタルとリアルの融合を進めていけたらと考えています。

プレー動画を中心に展開している川崎ブレイブサンダースのTikTokアカウント。選手を国旗と身長だけで表現した「ダンク祭り」は海外でも多く視聴された(左)。8月に開催したYouTuberとの対戦イベントもYouTubeでの生配信後、名場面を編集してTikTokで展開している(右)
プレー動画を中心に展開している川崎ブレイブサンダースのTikTokアカウント。選手を国旗と身長だけで表現した「ダンク祭り」は海外でも多く視聴された(左)。8月に開催したYouTuberとの対戦イベントもYouTubeでの生配信後、名場面を編集してTikTokで展開している(右)
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コラボレーションは新規層との接点づくりに有効

槻本 そのYouTuberさんと選手との試合は話題になっていましたね 連載第10回「イベントのYouTube配信が記録的な視聴数 登録者も1日で3万人増」

藤掛 ありがとうございます。かなり評判が良くて、そのイベントの様子を切り取った動画をTikTokでもどんどん投稿しています(笑)。

槻本 どのようなきっかけで開催に至ったのですか?

藤掛 UUUM(はじめしゃちょーらが所属する芸能事務所)さんとは、21年3月にパートナーシップを組んでおり、はじめしゃちょーさんなどとYouTubeにてコラボさせていただいていたんですね。その流れで、はじめしゃちょーさんには何度か会場のイベントに参加していただいたのですが、その際に「選手のみなさんとガチで勝負してみたい」という話がはじめしゃちょーさんから上がったのがきっかけです。

二見 はじめしゃちょーさんやUUUMさんとのコラボは、バスケを好きな人以外も会場に連れてきてくれる、本当にうまいコラボですよね。

藤掛 コラボはかなり効果が大きいですよね。YouTubeだけでなく、TikTokや実際の試合会場でも様々なコラボをやらせていただいています。ANAさんも、TikTokで様々な方やIP(知的財産)とのコラボをなさっていますよね。

二見 最近、ようやくという形で。フォロワーが少ない頃は、見向きもされずという感じだったんですけども(笑)、最近は社内外とも認知度が出てきたことで、ありがたいことにお声がけいただくようになりました。

槻本 最近でいうと、AKB48さん、セガ(東京・品川)さんのキャラクター「ソニック」、「鬼滅の刃」などとのコラボをやらせていただきましたが、それぞれのファンへの広がりが大きい。ぜひ機会があれば、川崎ブレイブサンダースさんもよろしくお願いします。

藤掛 ぜひぜひ。試合の移動に、ANAさんは使わせていただいていますので(笑)。

ANAではAKB48とのコラボレーションも実施。メンバーが客室乗務員や整備士などの制服に身を包み、機内や空港など様々な場所でダンスを披露した
ANAではAKB48とのコラボレーションも実施。メンバーが客室乗務員や整備士などの制服に身を包み、機内や空港など様々な場所でダンスを披露した
@ana_allnipponairways 2022/6/14(火)25:35〜 #テレビ東京 🤍AKB48、最近聞いた?〜一緒になんかやってみませんか?〜💙にてANAとコラボが実現✈️ぜひご覧ください🕺💙@eriierii1027a @akb48_official_tiktok #千葉恵里 #大盛歩 #allnipponairways #ANA #成田港 #制服 #fyp #CA #客室務員 #飛行 #airplane #空港 #airport #akb48 #AKB48最近聞いた#元カレです #アーャを知ると世界が平和に? #アーャ#アーニャピーナッツが好き #テレ #dance #踊っみた#かわいい#推し ♬ アーニャピーナッツが好き - 僕の鍵🗝

(文/羽田健治、写真/三川ゆき江)

ファンをつくる力
デジタルで仕組み化できる2年で25倍増の顧客分析マーケティング
Bリーグのプロバスケットボールクラブ「川崎ブレイブサンダース」は、DeNAが運営を継承してから3年で、リーグNo.1の動員数を達成。チケットやグッズ販売といったチーム関連の売り上げも約2倍に拡大した。飛躍の原動力は、YouTubeやTikTokなどを積極的に使ったデジタル戦略にある。YouTube登録者数はBリーグのみならず、Jリーグクラブを含めてもNo.1。TikTokフォロワー数は日本のプロスポーツクラブでは読売ジャイアンツに次ぐ2位と、若年層を中心にプロ野球やJリーグも超えたファンを獲得している。本書では、これまでの歩みを振り返りながら、ファン層を広げてきたその取り組みを余すところなく公開。今やどんな商品、サービスを提供する企業でも求められる「ファンをつくる力」。そのために有益な方法論を、豊富な実例とともに明らかにする。

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発行:日経BP
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