※日経エンタテインメント! 2022年11月号の記事を再構成

2022年8月末、「はじめしゃちょー & 川崎ブレイブサンダース presents DREAM GAME 2022 ~クリエイター最強チームがプロバスケチームに挑んでみた~」が開催された。プロ選手と人気動画クリエーターチームがバスケットボールの試合を行い、異例の成功を収めた背景を探る。

 2022年8月30日、日本のプロスポーツ界、そしてエンタテインメント界にとっても記録と記憶に残るイベントが行われた。プロバスケットボールクラブ・川崎ブレイブサンダースと、はじめしゃちょーが率いる人気動画クリエーターチームがバスケットボールの試合を行う「DREAM GAME 2022」(以下、「DREAM GAME」)だ。

 会場となった神奈川県川崎市・とどろきアリーナでは、キャパシティーの上限となる約5000人分のチケットが即完売。さらに、試合の様子はYouTubeで生配信され、同時接続数が32万人を突破するという驚異的な数字を達成した。これは、格闘技を除く国内スポーツ配信では過去最多の記録だ。川崎ブレイブサンダースは、いかにしてこれほどのビッグイベントを企画し、成功裏に終えることができたのだろうか。

8月30日に川崎市のとどろきアリーナで開催された「はじめしゃちょー & 川崎ブレイブサンダース presents DREAM GAME 2022 ~クリエイター最強チームがプロバスケチームに挑んでみた~」。YouTubeでの配信は、格闘技を除く国内スポーツ配信で過去最多の同時接続数を記録した
8月30日に川崎市のとどろきアリーナで開催された「はじめしゃちょー & 川崎ブレイブサンダース presents DREAM GAME 2022 ~クリエイター最強チームがプロバスケチームに挑んでみた~」。YouTubeでの配信は、格闘技を除く国内スポーツ配信で過去最多の同時接続数を記録した

コラボレーションの積み重ねが歴史的なイベントに

 18年7月にDeNAが事業を承継した川崎ブレイブサンダースは、21年、22年と2年連続で天皇杯を制覇。また、DeNAが参入して3年目の20-21シーズンには1試合平均来場者数でBリーグ1位を達成しており、実力、動員力ともにプロバスケットボールリーグ「Bリーグ」でトップクラスのクラブだ。DeNA川崎ブレイブサンダースにて事業戦略マーケティング部の部長を務める藤掛直人氏は、その成功の秘訣を次のように語る。

 「リアルイベントであるプロスポーツ興行は、どうしても商圏という概念が発生します。なかでも、拠点となるアリーナのある地域が基盤です。DeNAでは、まず地域のみなさんに愛され、ともに戦っていく取り組みを行ってきました。加えて、新たなファン層拡大を目的としてYouTubeやTikTokをはじめとするデジタル領域での活動にも積極的に取り組んできました」(藤掛氏、以下同)

 特筆すべきは、デジタル領域での成果だ。19年から本格的な運用を開始したYouTubeは、当時のチャンネル登録者数が4000人足らずだったところから2年半で25倍の10万人を突破するまでに伸長。これはサッカーJリーグとBリーグの所属チームを合わせて1位。また、20年にアカウント開設したTikTokのフォロワー数も10万人を超えており、こちらはプロ野球を含む国内プロスポーツクラブで2位を達成している。

 今回の「DREAM GAME」は、YouTubeで行ってきたコラボレーションの積み重ねによって実現したと藤掛氏は語る。

 「新しい層にアプローチする上で、コラボレーションは大変効果的です。川崎ブレイブサンダースでは、各プラットフォームの有名クリエーターさんと積極的にご一緒してきました。はじめしゃちょーさんが所属するUUUMさんには、YouTubeを本格的に活用し始めた3日後、ダメ元でコラボをご相談しました。まだチャンネル登録者数が1万人にも満たない状況ですから、我ながら無謀な突撃をしたなと思います(笑)。ですが、何度も提案を重ね、ついに、1年後の20年10月に初めてはじめしゃちょーさんらが所属するUUUMバスケ部(当時)とのコラボ動画を公開することができました。

 その後、21年3月にははじめしゃちょーさんの個人チャンネルでもご一緒させていただき、さらにはとどろきアリーナの試合イベントにも出演いただきました。その際に、はじめしゃちょーさんから『プロ選手とクリエーターの対決をやってみたい』と提案をいただき、UUUMさんと共催の形で『DREAM GAME』の実施に至ったんです」

「DREAM GAME」の1部は川崎ブレイブサンダース対クリエーターチームのガチンコ対決(写真左)、2部は両者が混じって戦うという構成。2部では「ダンクシュート」など、クリエーターがプロの手を借りて夢のプレーに挑戦する「ドリームチャレンジ」も実施(右)
「DREAM GAME」の1部は川崎ブレイブサンダース対クリエーターチームのガチンコ対決(写真左)、2部は両者が混じって戦うという構成。2部では「ダンクシュート」など、クリエーターがプロの手を借りて夢のプレーに挑戦する「ドリームチャレンジ」も実施(右)

アーカイブ動画は配信2週間で660万再生を突破

 「DREAM GAME」は、まずプロ選手とクリエーターチームが対決、その後プロとクリエーターの混成チームで戦う2部構成。前半をはじめしゃちょーの個人チャンネル、後半は川崎ブレイブサンダースのチャンネルで生配信したところ、前半の同時接続が32万人、後半も21万人を突破した。

 イベント開催後の波及効果も大きい。まず、川崎ブレイブサンダースのチャンネル登録者数は、なんと1日で3万人以上増加。アーカイブ動画が翌日には急上昇ランキング1位・2位を独占し、配信2週間で前後編合わせて660万再生を突破している。さらには、試合中に行われた、クリエーターがやってみたい夢のプレーに挑戦する「ドリームチャレンジ」という企画の様子をTikTokやYouTubeショートで配信するなど、コンテンツの有効活用も図っている。

 「これまでリアルな場とデジタル上でそれぞれ施策を取り組んできましたが、YouTubeなどでクラブを知っていただいた方に実際に試合を見ていただいてこそ、感じてもらえる価値があります。今回は、初めて試合会場に来場した方が半数以上を超えており、この『DREAM GAME』後、10月からスタートするBリーグの新シーズンのチケット販売が非常に伸びています。これは、このイベントをきっかけにクラブへ関心を持ってくれた方が増えた表れだと思います。コロナでリアルビジネスはどうしても苦戦していますが、非常に良い形でリアルとデジタルを融合することができたと、新しい可能性を感じています」

川崎ブレイブサンダースは1950年に東芝小向事業所のバスケットボールクラブとして設立され、18年7月にDeNAが事業を承継した。3シーズンぶりに東中西3地区制が復活した22-23シーズンは中地区の所属に。マイケル・ヤングジュニア選手と納見悠仁選手が新たに加入した
川崎ブレイブサンダースは1950年に東芝小向事業所のバスケットボールクラブとして設立され、18年7月にDeNAが事業を承継した。3シーズンぶりに東中西3地区制が復活した22-23シーズンは中地区の所属に。マイケル・ヤングジュニア選手と納見悠仁選手が新たに加入した

川崎ブレイブサンダースが飛躍した3つのポイント

【POINT1】
研究を重ねたデジタル戦略、「DREAM GAME」でさらに伸長

 「DREAM GAME」後、川崎ブレイブサンダースのYouTubeチャンネル登録者数は1日で3万人以上増加した。試合後には、「DREAM GAME」の模様をYouTubeやTikTokに投稿。TikTokで配信された、コムドットゆうたが決めたアリウープパスの様子には5万を超える、いいねが付いている。また、試合中にはどちらのチームが勝つかを予想するクイズ企画を、LINEを活用して実施。新たにLINEの「友だち」登録をした人は1万を超えた。なお、あまりのアクセス集中のためにシステム負荷増大によるエラーが出たこと、さらに結果が引き分けだったため、クイズ企画は後日再実施された。

【POINT2】
積極的にコラボレーションを実施し、従来のクラブファンからも支持

 川崎ブレイブサンダースでは、「DREAM GAME」に参加したクリエーターのうち、コムドット以外のメンバーとコラボレーションをすでに行っている。「会場には、川崎ブレイブサンダースのファンのみなさんも多くいらっしゃいました。これまでYouTubeで配信してきた動画を通じて、クリエーターさんがバスケに熱い思いを持ち、互いにリスペクトしていると伝わっているからこそ、両者のファンが一体となって盛り上がることができたのではないかと思っています」(藤掛氏)。

【POINT3】
地元・川崎市と密接な関係を維持、8月には新施設の運営をスタート

 川崎ブレイブサンダースでは、地域と密着した試合イベントを定期的に行うほか、本拠地・とどろきアリーナにほど近い武蔵小杉駅周辺に小学生が無料で利用できるバスケットボールコートを設置するなど、地域に根差した活動を続けてきた。さらに今年8月には、バスケットボールやダンス、eスポーツなどを楽しめる新施設「カワサキ文化会館」の運営をスタートしている。

10月よりBリーグ2022-2023シーズン開幕
川崎ブレイブサンダースのホームゲームは以下の試合がチケット販売中
●10月8日(土)18:05 TIPOFF 広島ドラゴンフライズ戦
●10月9日(日)16:05 TIPOFF 広島ドラゴンフライズ戦
●10月21日(金)19:05 TIPOFF シーホース三河戦
●10月22日(土)16:05 TIPOFF シーホース三河戦
シーズン中のコラボ企画も続々と決定
10月21日にとどろきアリーナで行われるシーホース三河戦には、ハロー!プロジェクトのアイドルグループ「OCHA NORMA(オチャ ノーマ)」が来場し、ハーフタイムにパフォーマンスを披露する。また、12月30日・31日にとどろきアリーナで開催予定の京都ハンナリーズ戦では、結成10周年イヤーを迎えた川崎市出身の4人組バンド「sumika」とのコラボレーションが実現。選手は、この2日間限定のスペシャルユニフォームを着用して試合に臨む。
ファンをつくる力
デジタルで仕組み化できる2年で25倍増の顧客分析マーケティング
Bリーグのプロバスケットボールクラブ「川崎ブレイブサンダース」は、DeNAが運営を継承してから3年で、リーグNo.1の動員数を達成。チケットやグッズ販売といったチーム関連の売り上げも約2倍に拡大した。飛躍の原動力は、YouTubeやTikTokなどを積極的に使ったデジタル戦略にある。YouTube登録者数はBリーグのみならず、Jリーグクラブを含めてもNo.1。TikTokフォロワー数は日本のプロスポーツクラブでは読売ジャイアンツに次ぐ2位と、若年層を中心にプロ野球やJリーグも超えたファンを獲得している。本書では、これまでの歩みを振り返りながら、ファン層を広げてきたその取り組みを余すところなく公開。今やどんな商品、サービスを提供する企業でも求められる「ファンをつくる力」。そのために有益な方法論を、豊富な実例とともに明らかにする。

定価:1760円(10%税込)
発行:日経BP
発売:日経BPマーケティング

Amazonで購入する
1
この記事をいいね!する