日本を代表する動画クリエイターのはじめしゃちょーと、SNS戦略において成功をおさめるプロバスケットボール「Bリーグ」所属チーム「川崎ブレイブサンダース」の事業戦略マーケティング部長である藤掛直人氏が、YouTubeでのコラボレーションの効果について語る対談。前編ではYouTubeなどでのコラボレーションについて、企画立案やそのメリットを語ってもらいました。後編では、コラボレーションの効果をさらに大きくするために必要なこと、注意すべきポイントなどを聞いていきます。

はじめしゃちょー(右) 1993年2月14日生まれ、富山県出身。2012年に友人らとYouTubeへの投稿を開始し、のちに個人チャンネルを開設。マルチクリエーター型YouTuberとして活躍する。15年にはYouTube JapanのテレビCMに出演するなど、代表的な存在に。運用する3つのチャンネルのうち、メインの「はじめしゃちょー」が21年12月に登録者数1000万人を突破した。186cmの高身長で、高校までバスケット部に所属
はじめしゃちょー 1993年2月14日生まれ、富山県出身。2012年に友人らとYouTubeへの投稿を開始し、のちに個人チャンネルを開設。マルチクリエイター型YouTuberとして活躍する。15年にはYouTube JapanのテレビCMに出演するなど、代表的な存在に。運用する3つのチャンネルのうち、メインの「はじめしゃちょー」が21年12月に登録者数1000万人を突破した。186センチメートルの高身長で、高校までバスケット部に所属

自分たちだけでは見せられない、新しい魅力を引き出してもらう

――コラボレーションの相手はどのような基準で選んでいますか?

はじめしゃちょー コラボは慎重にやるべきだと思います。僕は、特徴がないとコラボをしたくないっていう思いがありますね。スポーツ選手は、その種目に特化しているので分かりやすい。クリエイターさんでも、「このクリエイターさんといえば、こういうことをやっている」だとか、何か特徴があったり特色があったりする方とコラボしたいなと思ってます。何を一緒にするのか、想像ができない人は難しいですね。

藤掛直人(以下、藤掛) 確かに、コラボはある意味で両刃の剣だと思います。川崎ブレイブサンダースではYouTubeだけでなく、試合会場でのイベントでもコラボを行っていて、アイドルグループのみなさんや、アニメ作品やお笑い芸人さんなどに出演していただいています。はじめしゃちょーさんにも会場に来ていただきましたよね。でも、すべてのファンがコンテンツ同士の交差を無条件に歓迎しているわけではありません。足を運んだ本来の目的ではない、別のコンテンツをお見せしてしまうのですから当然です。

 我々としては、「何らかの共通項がありつつ、別分野を主戦場とされてる方」というところが大事だと考えています。例えば、はじめしゃちょーさんのようにバスケの経験者ですとか、または川崎市出身の方ですとか。EXILEの松本利夫さんは川崎市出身であるという接点から、1日応援団長としてホームゲームにご出演いただきました。何らかの共通項がある方ですとそこを軸に企画を立てやすいですし、コラボすることにストーリーみたいなものがつくれると思っていまして。YouTubeにしろ、試合会場でのイベントにしろ、視聴者や来場者にそのコラボをポジティブな目線で見ていただける。逆に「なぜこの人とコラボしてるの?」といった印象は、“ビジネス臭”のようなものを感じさせて、冷めてしまうファンの方も多いと思うんです。

はじめしゃちょー ビジネス臭を嫌がる、拒否反応が出る方はいらっしゃると思います。そうならないようにするには、僕は共通項がめっちゃあるか、逆にまったくないかの2択だと思いますね。中途半端にやるのはよくないなと。

――共通点のある相手のコラボレーションは企画を想像しやすいのですが、共通点のない相手との企画はどのように考えているのですか?

はじめしゃちょー 僕は富山県の出身で、J3リーグのサッカーチーム「カターレ富山」とコラボレーションをさせていただいたことがあるんです。どういう動画がいいのか悩んだんですけど、サッカー経験がない僕がプレーするのはおかしいだろうなと。そこで、スキルに関係のない「プロのサッカーの試合にこっそり出たらバレるのか?」というドッキリ企画にしました。試合が始まる前の選手入場シーンで、僕がチームのユニフォームを着て、子どもと手をつなぎながら選手と一緒にピッチに入場するというもので。

 コラボのときは、相手に応じて自分の役割というか、立ち回りをめちゃくちゃ変えていますね。クリエイターとしていくのか、視聴者のみなさんと同じ目線で行くのか、川崎ブレイブサンダースさんとのコラボのときはバスケ経験者としてですし、コラボ相手との関係性は結構気にしてつくってます。

藤掛 我々としてはプロのスポーツ選手であることが一番の特徴であるので、その部分は基本ぶれないような形で、企画を立てたり編集をしたりしています。ただ、やや上から目線の言い方になってしまうかもしれないですが、コラボ相手の方が輝くような、その方の良さを感じていただけるかも意識しますね。コラボ相手のファンの方が見てくださったときに、より楽しんでもらえるかなと思いますので。

自分たちだけでは出せない、新しい魅力が引き出されるのも魅力

――視聴者が「ビジネス臭」に厳しくなっているという話がありましたが、これはYouTubeのサービス開始当初にはなかった話だと思います。YouTubeが日本に上陸して15周年を迎えました。はじめしゃちょーさんもチャンネル開設から10年。YouTubeの視聴者層や視聴傾向は大きく変わりましたよね。

はじめしゃちょー いやもう目まぐるしく変わっているので、僕も正直、今、何が求められているのかもよく分かってないなっていう。テレビでいうと、2チャンネルしかなかったのが今だと何十チャンネルあるんだみたいな状況です。クリエイターさんの分母が増えているので、選択肢が広がった分、視聴者さんも自分の見たいものを見にいける。視聴者さんが選べる場になったなって思います。

――その中で、はじめしゃちょーさんは第一線をずっと走り続けてらっしゃる。「はい」とはお答えにくいかもしれないすけど(笑)。

はじめしゃちょー 何とかやってます。

――その秘訣はどこにあるんでしょうか。

はじめしゃちょー 例えば「カードゲームに特化してます」とか「このゲームに特化してます」っていうチャンネルもあるんですけど、今のところ僕は、「はじめしゃちょーを見にきてもらう」っていう売り出し方ですね。

 ただ、それだけだとやっぱり弱いと思っています。例えば、川崎さんとコラボしてバスケに興味がある方に見にきていただいたりだとか、いろんなプラスアルファでいろんな視聴者さんにも見てもらうっていうので生き残ってるのかなと思います。基本1人で撮ることが多いため、他の人との絡みが新鮮だったりもするので。

藤掛 その視点は我々も同じですね。プロバスケ選手じゃない方とコラボをさせていただき、その新しい目線ですとか、新しい雰囲気の中で撮影することで、普段とは違う選手の魅力が出たらという思いがあります。

 前回、はじめしゃちょーさんとのコラボ動画で「ニック選手が優しい」といったコメントがあったという話が出ましたけれど、自分たちだけで制作しているプロ選手同士での動画ではなかなかそういったコメントは入らないんです。コラボレーションした方との対外的なやりとりの中で生まれる気遣いや優しさというんでしょうか、そういった普段は見られない姿に視聴者のみなさんが反応していただけるのは、コラボならではだなと思いました。

2021年3月にもUUUMと川崎ブレイブサンダースはコラボ企画を開催。川崎の選手とYouTuberの混合チームで対決する動画などを制作している
UUUMと川崎ブレイブサンダースが初のコラボ企画を開催したのは2020年。1回目は床に置かれた輪の中を移動するルールでのバスケ対決だった。

――はじめしゃちょーさんは、川崎ブレイブサンダースのYouTubeチャンネルで公開された動画「【1人で105得点!?】日本一のプロバスケ選手とYouTuberの混合チーム対決が予想以上に本気だった...」では大量得点を決めていましたし、バスケの実力を視聴者のみなさんが再発見するという効果もあったのでは?

はじめしゃちょー いやいや、逆にプロの選手と比較されて大したことないみたいになっちゃったのかなと(笑)。

藤掛 そんなことないですよ。あの企画はクリエイターがシュートを決めると点数が5倍になるルールだったんですが、そもそも21点も取っているのはすごいことですから。

はじめしゃちょー 私、川崎ブレイブサンダースに入れてもらえますかね(笑)。

藤掛 ぜひぜひ。ウエルカムです。

はじめしゃちょー 練習とか混ざってみたいですね。「プロの練習にガチで参加してみた」という企画もよさそうですね。でも体力が持たなそう (笑)。

実際の試合会場でのコラボが実現。バスケの試合の楽しさを伝えたい

――8月30日には、川崎ブレイブサンダースの本拠地である川崎市とどろきアリーナで、はじめしゃちょー率いるYouTuberチームと川崎ブレイブサンダースが対決するコラボレーション企画が開催されるんですよね? 5000人もの観客の前で試合をするというのは、はじめしゃちょーさんにとっても大きな経験になりそうですね。

はじめしゃちょー 2021年に川崎ブレイブサンダースさんの試合内で行われた、3ポイントシュートに挑戦するという企画に出たことがあるんですが、そのときに「ぜひ試合をしたい」と選手のみなさんにお話ししていたのが実現したんです。YouTuberが有観客で、プロ選手とバスケの試合をするなんてことは恐らく史上初だと思います。

 間違いなく本気でやって勝てる相手ではないので(笑)、あとはそこをどうするか、我々クリエイター側に求められる部分だと思っています。ちょっと審判を買収したり…はないですけど(笑)。プレーは本当に真剣にやりますけれども、それ以外はどうなるかちょっとお楽しみにって感じでございます。

 今回、カンタ(水溜りボンド)、ともやん(Lazy Lie Crazy【レイクレ】)、サワとヤン(SAWAYAN GAMES)、ゆうたとうらた(コムドット)というYouTuberのドリームチームをつくり、定期的に練習会を開いています。どうせ見られるのであれば、やっぱりかっこいいシュートを決めたいなと思ってます。

――迎え撃つ川崎ブレイブサンダースは対策とかあるんでしょうか?

藤掛 プロバスケ選手同士じゃない対決で、しかも有観客のイベントなので、選手も我々スタッフもドキドキしています。今回のクリエイターチームのみなさんは、バスケを真剣にやられてるうまい方ばかりなんですよね。これは、真剣にやらなければという雰囲気が漂っています。

 YouTuberのみなさんとは、これまでも動画でコラボレーションさせていただいてきましたが、実際に試合をするのは、クリエイターのファンのみなさんにバスケの魅力を伝えられるチャンスだと考えています。プロのカッコいいプレーはもちろんですし、会場での演出もふんだんに取り入れることで、来場者や視聴者のみなさんに存分に楽しんでいただきたいです。バスケの試合がエンタテインメントとして面白いということをぜひ伝えることができればと思っています。

はじめしゃちょー 見てくれた方が楽しいとか面白いと思えるイベントにしたいですよね。

8月30日開催
はじめしゃちょー & 川崎ブレイブサンダース presents 「DREAM GAME 2022」
~クリエイター最強チームがプロバスケチームに挑んでみた~
 21年3月にパートナーシップを締結し、これまで様々な取り組みを実施してきたUUUMと川崎ブレイブサンダース。はじめしゃちょーの「プロバスケの会場で、プロバスケクラブと本気の試合をしてみたい」という発案から、ブレイブサンダースのホームである川崎市とどろきアリーナにて「クリエイター最強チーム」がプロバスケ選手に挑む企画が開催される。

 「クリエイター最強チーム」には、発起人であるはじめしゃちょーのほか、水溜りボンド・カンタ、Lazy Lie Crazy【レイクレ】・ともやん、SAWAYAN GAMES・サワ、ヤンに加え、コムドット・ゆうた、うらたの計7人の参加が決定。当日はB.LEAGUEホームゲーム開催時と同じ会場設営を用意、チアやマスコットも出演するなどプロバスケットボールの試合と同等の環境を再現する。

 イベントは8月30日19時スタート予定。会場での観戦チケットはすでに完売しているが、当日の模様ははじめしゃちょーおよび川崎ブレイブサンダースのYouTubeチャンネルで生中継するほか、後日編集した動画をクラブと各クリエイターのチャンネルにて公開する予定。
ファンをつくる力
デジタルで仕組み化できる2年で25倍増の顧客分析マーケティング
Bリーグのプロバスケットボールクラブ「川崎ブレイブサンダース」は、DeNAが運営を継承してから3年で、リーグNo.1の動員数を達成。チケットやグッズ販売といったチーム関連の売り上げも約2倍に拡大した。飛躍の原動力は、YouTubeやTikTokなどを積極的に使ったデジタル戦略にある。YouTube登録者数はBリーグのみならず、Jリーグクラブを含めてもNo.1。TikTokフォロワー数は日本のプロスポーツクラブでは読売ジャイアンツに次ぐ2位と、若年層を中心にプロ野球やJリーグも超えたファンを獲得している。本書では、これまでの歩みを振り返りながら、ファン層を広げてきたその取り組みを余すところなく公開。今やどんな商品、サービスを提供する企業でも求められる「ファンをつくる力」。そのために有益な方法論を、豊富な実例とともに明らかにする。

定価:1760円(10%税込)
発行:日経BP
発売:日経BPマーケティング

Amazonで購入する
1
この記事をいいね!する