日清食品は、カップヌードルの8つの定番フレーバーを2つずつ組み合わせた「カップヌードル スーパー合体」シリーズを2021年9月に発売した。カップヌードルの発売50周年を記念した商品だ。実はこの商品は、ソーシャルメディアに投稿された「n=1(たった1人の声)」が開発のきっかけになった。本連載ではこうした企業のマーケティング活動のアイデアとなる、生活者の「ホンネ」を見つけ出す「ソーシャルハンティング」術の活用法を伝えてきた。最終回となる今回は、日清食品などを例に、自社の商品・ブランドについて、生活者が抱いているホンネの探し方を伝える。
ソーシャルメディア上のn=1を探す方法として、筆者が独自開発したフレームワーク「7つの鬱憤 WARPATH(ウォーパス)」が有効であることは本連載でも繰り返しお伝えしてきた。
第3回までは、世の中の関心事や課題意識を見つけ出し、マーケティング活動に生かす方法を解説してきたが、直接的に自社の商品・ブランドについてのホンネの“ハンティング”にも応用できる。自社の商品・ブランドが世の中にどのように思われているのか、あるいは自分たちの商品がどう使われているかを知ることで、新商品の開発などにつなげられる。
鬱憤から見つけた声が、新しい食べ方の提案に
その一例として、筆者が調査した「グラノーラ」の事例を基に具体的に解説していこう。グラノーラとはシリアルの一種で、オーツ麦や玄米などの穀物加工品だ。ナッツなどを入れたり、蜂蜜などの甘味料をかけたりして食べやすく焼き上げたものが市販されている。
このグラノーラという食品に対し、生活者はどのようなホンネを抱いているのかを調べた。
まず筆者は、グラノーラという商品のカテゴリーに、7つの鬱憤を掛け合わせて検索した。すると、同じグラノーラでも多様な着眼点を発掘することができた。
「Want(欲求)」:雨の日に外に買い物に行きたくないから、家にあるグラノーラを食べる
「Anti(反感)」:グラノーラの中にドライフルーツは不要
「Request(要望)」:スナック菓子のような味付けの商品をもっと出してほしい
「Problem(困難)」:お腹が弱いので、冷たい牛乳と一緒に食べられない
「Awful(悲観)」:夜中に食べる罪悪感を、体にいいグラノーラでまぎらわす
「Tired(疲弊)」:夏バテ・食欲が湧かない時にグラノーラを食べる
「Hate(不快)」:食器を洗うのが面倒なので、グラノーラを素手で食べる
SNS上から特定のキーワードを含む声を収集する「ソーシャルリスニングツール」を導入したり、SNSの検索機能で日々検索したりして自社やブランド、商品について積極的に生活者の反応を追いかけるマーケターは多いと考える。しかし、全体的な傾向を掴むだけでは上記のような声には、なかなかたどり着けない。ましてや、元々の発話が多いワードであればあるほど、見つけ出すのは難しくなる。だからこそ、商品名に鬱憤を掛け合わせて検索することで、ユニークなn=1声に到達しやすくなる。
中には、企画者やブランド担当者が意図しなかったような「光るn=1」がある。例えば、Problem(要望)を表すワードを掛け合わせて検索する中で見つかった、「お腹が弱いので冷たい牛乳と一緒に食べられない」はその1つ。他にも、「冬の寒い朝は温かい牛乳をかけて食べる」といった声もあった。こうした声は、コミュニケーションを設計するうえで、グラノーラの新しい食べ方の提案にもつながるアイデアとして活用できる可能性がある。
熱量のある「興奮」から予想外な行動を探す
グラノーラの事例は、鬱憤を掛け合わせて意外な意見や食べ方を発見したものだ。実は、自社ブランドを余すことなくハンティングするためには、鬱憤の反対の意としての「興奮」からもホンネを探すことをおすすめしたい。興奮とは、満足感を超える歓喜や応援、感謝の声だ。具体的には、「商品名」×「応援」、「感謝」、「期待」、「陶酔」などを表す投稿者の熱量を感じるポジティブなワードを掛け合わせて検索する方法だ。
これまでは世の中にある関心や問題を、SNSの鬱憤を糸口に発掘する手法を説明してきた。同様の方法で、企業やブランド、商品に鬱憤を掛け合わせて探すことで何かを欲する、望むなど現状に満足いかない声が見つかる。一方で、企業・ブランド、商品と独自の関係や価値を既に感じている一歩進んだ生活者の声や行動は、「興奮」をヒントに探すことが有効だ。
あるスプレー形式の鎮痛消炎剤の例を挙げよう。本来、こうした商品は自分用に購入して運動の後などに患部に当ててケアする人が多い。しかし、ソーシャルメディアで検索したところ、マラソン大会のときに、沿道でランナーを応援する人たちが持って行く「応援グッズ」として使われていることが分かった。鎮痛消炎剤のスプレーを見ず知らずのランナーに差し出しているのだ。それが「うれしかった」「助かった」というランナー側の声も、複数見つかった。
また、プロスポーツチームのスポンサーを務める清涼飲料ブランドでは、「商品名×勝ち」や「商品名×応援」で検索すると、敵チームのサポーターたちが、「相手を飲みこむ」といった意味の験担ぎを込めて試合前や試合中にスポーツ飲料を一気飲みしている行動が見つかった。
これらは、ブランド担当者が意図していない商品の使われ方を発見できた事例だ。担当者は得てして自分のブランドを誰よりも知っていると考えがちだが、こうして「鬱憤」や「興奮」を表すワードを掛け合わせて検索すると、まだまだ知らない一面を見つけられる。
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