※日経エンタテインメント! 2022年5月号(4月4日発売)の記事を再構成

『日経エンタテインメント!』5月号で表紙になったテレビアニメ『SPY×FAMILY』の原作(遠藤達哉)をはじめ、注目度急上昇中の『ダンダダン』(龍幸伸)、第2部が控えアニメ化が決まっている『チェンソーマン』(藤本タツキ)など、『少年ジャンプ+』の人気をけん引する大ヒット作を担当するのが、編集の林士平氏だ。ヒットを生み出す編集者に聞く、今の時代のマンガの作り方とは。

 『ダンダダン』の龍幸伸さんは、8年前『ジャンプSQ.』の持ち込みで担当に。2作の読み切りの後、連載企画がなかなか通らずスランプになった際、「1回物語の構成のルールや連載作りのコツを忘れて自由に描いてみましょう」というところから生まれたのが『ダンダダン』。『ジャンプ+』に回したら、「こんなに絵がうまいならやってみていいんじゃない」となって、連載がスタートしました。

 画力の高さは同業者からも注目を集めていて、龍さんしか描けないアクションバトルがふんだんに入っています。開始1話目から100万閲覧超えのスーパーヒットとなり、「次にくるマンガ大賞」など多くの賞にノミネートいただけました。僕は読者の反応を追いかけるタイプの編集ですが、見ていると年齢・性別に偏りがない。昭和レトロな部分が多く、30代40代以上の反応に加え、独特の歪みや違和感から「検索してみた」など若い読者も楽しんでくれているようです。

 (『チェンソーマン』の)藤本タツキさんの『ルックバック』は、予想よりたくさんの方に届いて、これもありがたいです。藤本さんは10年以上の付き合いですが、ずっと「面白いものを描き続けたい」「いろんなものを描きたい」という情熱が強く、週刊連載なので、睡眠時間を満足に確保できないのはつらそうですが、内容の打ち合わせも作画も基本は楽しそう。“変わろうとし続けて、それを楽しんでやれる人”は強いなと、横で見ていて思います。

マンガ家・藤本タツキをデビュー時から担当
『チェンソーマン』『ルックバック』で時代を代表する作家に
『17-21』『22-26』『ルックバック』と、昨年10月から3カ月連続で短編集が刊行された。「本人は出す気はなかったのですが、注目作家の原点&足跡を形に残す必要があると考え、お願いし倒して出しました。若い作家さんに、描き続ければこうなれるという希望を持ってほしい。そんな願いも込めています」(林氏)
藤本タツキ短編集『17-21』 (C)藤本タツキ/集英社
藤本タツキ短編集『17-21』 (C)藤本タツキ/集英社
藤本タツキ短編集『22-26』(C)藤本タツキ/集英社
藤本タツキ短編集『22-26』 (C)藤本タツキ/集英社
『チェンソーマン』第2部は夏頃を予定。「中身に関しては言えないですが、藤本さんも非常にテンション高く制作に向き合っており、丁寧に準備を進めているところです」。今年放送予定のアニメに関しては、「脚本打ち合わせは終わり、絵コンテなど途中段階を藤本さんと僕でチェックしているんですが、申し分ない出来栄えで、日本だけでなく世界でも広がりそうだと今からワクワクしています。MAPPAさんがこんなに愛を持って取り組んでくれて、ありがたい限りです」(林氏)
チェンソーマン (C)藤本タツキ/集英社
チェンソーマン (C)藤本タツキ/集英社
SNSも積極活用
編集目線の宣伝ほか新人作家の発掘も
「若い作家さんのタイトルは、企業やビジネスのにおいがする公式チャンネルでの発信より、作家さん本人や僕からのほうが熱量が伝わるようで、宣伝媒体としてとっても大事にしています」(林氏)。さらにはツイッターを通して新しい作家との出会いも。

今の世界の“面白い”を追求

――作家の1番近くで作品を支える存在。林氏はマンガ編集者として何を大切にし、動いているのか。

 いくつかありますが、マンガ家は朝から晩まで描かなくてはならず、締め切りに毎週追われていくので、なるべく作家さんが描きたいものの範疇、またはそこを広げたりして、少しでも楽しい瞬間を作れれば、というのが1つ。もちろん、作品が売れなければいけないので、世の中や今のエンタテインメントの状況から「読者が興味を持ってくれるのでは」というもくろみや企てがちゃんとあること。この2つをつなげて、作家の描きたいものとお客さんの読みたいものがうまくマッチングするものを探したいなと思いながら、日々打ち合わせをしています。

 そのために自分がやっていることは、若者文化とか売れているものに「ちゃんと目を通す」ということでしょうか。あと、現状の自分の感性は“既に老いてる”という危機感を常に持っていて、油断するとすぐおじさんの感性になってしまうので、「今の世界で“面白い”ってなんだろう?」と、作家とお互い注意し合いながら、映画、小説、ドラマ、アニメ、ニュースやドキュメンタリーなど様々な作品を通して話をしてます。

 僕はマンガ家でなくマンガ編集者なので、なるべく多くの作家さんにポジティブな影響を与えられるような丁寧な打ち合わせを積み重ねていけば、ちゃんと面白い作品にたどり着けるんじゃないかと。

受け継ぐ『ジャンプ』のDNA

――自ら希望して『少年ジャンプ+』に異動。他の部署にいつつ自身が手掛けた『地獄楽』『ファイアパンチ』が世の中に刺さっているのを見て可能性を感じ、次のステージにトライしたいと思ったのがその理由だ。『少年ジャンプ+』の強さの理由を聞くと、作家の努力、そして集英社の体制にもあると言う。

 マンガアプリ自体は「マンガを読者に届ける」というシンプルな機能があれば成立するサービスです。『ジャンプ+』が好調な理由は、作家の力はもちろん、サポートする弊社の編集者・販売・広告・ライツ、集英社チームは、「マンガを広げる」ことがうまい、かなり強力なメンバーがそろっています。

 『DRAGON BALL』や『ONE PIECE』『鬼滅の刃』が国民的タイトルに成長していったときの綿々とした軌跡を経験やデータとして持っていて、それを次の世代に伝えるコミュニティーができている。みんな売れてきた作品を客観的に分析しているから、新人のネームをチェックしたときのリターンとか、すぐに適切なコメントが返ってくるんです。『ジャンプ』というブランドの今までの経験値が、しっかりデジタルのほうにもDNAとして残っていて、それは強みだと思います。

――現在、前出の3作以外にも『神のまにまに』『全部ぶっ壊す』『彼岸此岸のものどもよ』『アンテン様の腹の中』が連載中。今後発表のものを含め、10作品以上を動かす。

 これからのものは、一昨年『宇宙の卵』で「連載グランプリ」を取られた程野力丸さんの連載が今年。去年の『ジャンプ+』とYouTubeの企画で優勝した藤田直樹君の『BEAT&MOTION』はアニメ化が決まっていて連載準備中。あとギャグマンガの新連載、それと休載中の『HEART GEAR』も含めれば12作で、半分以上が初連載の方です。

 (これからどんなマンガがヒットするかは)分からないです(笑)。コロナなどで社会の形も変容し続けており、ずっと探していこう、考え続けようと思っています。ただ、ジャンルなどにこだわりはありません。例えば韓国の『イカゲーム』はレトロなデスゲームものでマンガだとやり尽くされていますが、世界的に売れたのであれば、デスゲームというジャンル自体が廃れたわけではなく、デザインや演出の工夫で売れるということなのかと。だから描き方や作り方こそ問われるべきだなという気はしてます。ヒットした瞬間、もう時代は移り変わっているし、1回売れたものと同じ手法は数年は使えないので、ヒットの法則が「分かった」などと早合点せず、劣化コピーを作り始める危険を避けるよう、常に気をつけようと思ってます。

 今までもこれからもずっと「世界にちゃんと届いて世界に残るものを作れたら幸せだな」と思っていて、一過性のブームでなく読み継がれていくものを手掛けられたらと思いますが、それを作家に強要はしません。「私、日本の17歳に売れればそれでいいんで」とエグいものだけ描いてきても、それも面白いと思うので乗っかると思います(笑)。作家さんが描きたいものが重要なので、そこに寄り添う気持ちだけは、忘れないように持ち続けたいなと思っています。

『SPY×FAMILY』『ダンダダン』に続く林氏担当の主な作品
『アンテン様の腹の中』
夜諏河樹の初連載作品。ダークホラー。「願いのために何かを捧げなければならない、言うなれば『笑ゥせぇるすまん』系。3話まで読んでくれればこの作家の力量は伝わると思います」(林氏)。隔週日曜更新。4月4日に1巻発売。
アンテン様の腹の中 (C)夜諏河樹/集英社
(C)夜諏河樹/集英社

『全部ぶっ壊す』
破壊神が転生した現代でどう生きるかを描く。「原作のへじていとさんのデビュー作。そんな破壊! という見たことのないネームがどんどん出てくる。理系寄りの発想から生まれるパズルのような構成もすごく面白い」(林氏)。作画は『ムーンランド』の山岸菜。毎週日曜更新。5月2日に2巻発売。
全部ぶっ壊す (C)へじていと・山岸菜/集英社
(C)へじていと・山岸菜/集英社
『神のまにまに』
猗笠怜司による和風バトルファンタジー。「初連載作。5本の読み切りが全部ベクトルの違う作品でバズったのは『その後のサキュバスさん』。熟年の恋の悩みをよく『ジャンプ+』に載せたな! と」(林氏)。毎週木曜更新。既刊3巻。
神のまにまに (C)猗笠怜司/集英社
(C)猗笠怜司/集英社
『彼岸此岸のものどもよ』
新浜けいすけの初連載作品で、昨年12月より短期集中連載中。口寄せの巫女として成仏できない死者の声を伝える少女・美月と、その姉の陽香里の切なく儚い物語。デジタルオンリーでコミックス全2巻を出す予定。
彼岸此岸のものどもよ (C)新浜けいすけ/集英社
(C)新浜けいすけ/集英社
林士平(りん・しへい)
『少年ジャンプ+』編集部
1982年生まれ、東京都出身。2006年集英社に入社。『ジャンプSQ.』を経て、18年『少年ジャンプ+』へ。文中以外の主な担当作は『青の祓魔師(エクソシスト)』『この音とまれ!』など
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