※日経エンタテインメント! 2022年5月号(4月4日発売)の記事を再構成
大ヒット『SPY×FAMILY』をはじめ、各種マンガ賞を受賞しコミックスの売り上げも好調な『怪獣8号』『ダンダダン』、さらに昨年12月~3月の短期連載『タコピーの原罪』が連載作品初の1日250万閲覧を突破するなど、マンガ界の話題を独占。圧倒的物量のオリジナル新作や、新人作家の発掘にも力を入れる『少年ジャンプ+』。その強さの秘密と最新注目作を解説する。
年間300本以上の「読み切り」
細野修平編集長が『ジャンプ+』の最大の特徴として挙げるのが、「読み切り作品の多さ」だ。昨年は、藤本タツキの新作読み切り『ルックバック』が1日で250万閲覧を突破するなど、SNSを中心に大きな盛り上がりを見せたが、その数は年間300本以上で、サービス開始直後から力を入れてきた。
「読み切りは『ジャンプ+』の1番の売りでもあるし、チャレンジできている部分かなと思います。商業的な面でいうと、1話しかないので商品(単行本化)にして売るのは難しく、それもあって他の媒体ではあまりやってないのかなと。我々はかなり頑張って臨んでいて、年に300本以上、毎日1本くらいは新作を載せています。
読み切りから話題となる作品は定期的に出てきていましたが、『ルックバック』があそこまで大反響になったのは、僕らとしても意外でした。143というページ数であれほど読まれたのはすごいことだと思います。コミックスで読むような分量をみんなが一気に読んでくれて一気に広がり、新たな可能性を感じました」
読み切り作品に力を入れる理由は、「新しいヒット作を作るため」。特に新人や若手の育成の場として、読み切りは有効だと言う。「いきなり連載を作ってもうまくいかない人もいるし、読み切りを作ることでマンガ力を上げられます。そういう意味では新人さんたちの練習の場として、自分の力を磨く場所として、読み切りを載せるのはすごく重要だと思います」。
さらに、ベテランや連載経験者にも利点はあるのだという。
「連載を考えていて読み切りで試したかったり、そもそも続きものになるような話でなくてもマンガ家なら描きたいものってあると思うんです。それが作家さんたちに響いているようで、他の部署の編集者からも、こういう作品を載せられないかという問い合わせも多いです。紙だと物理的な限界がありますし、雑誌だとテイストに合わないことも。でも『ジャンプ+』は、いわゆる少年マンガ的なものしかやらないぞ! みたいなことはなく、面白ければ何でもあり。今では編集者、そして読者の間でも、『ジャンプ+』はなんでも載せられてなんでも読めるというのが共通認識としてあります」
自由にマンガを作れる
これは、「ジャンプルーキー!」や「インディーズ連載」といった新人発掘の場にもなっている投稿サービスにも好影響があるという。
「この才能はうちには向かないな、という判断をしなくていいのが『ジャンプ+』のいいところ。例えば『ジャンプルーキー!』は、誰でもオリジナルマンガを投稿でき、連載を目指す連載グランプリも行っていて、自分が好きに描いて連載できる『インディーズ連載』というのものもあります。本当にいろいろな作品が投稿されますし、編集者も才能があると感じたら、テイストやカラーに関係なく即連絡します。『タコピーの原罪』のタイザン5先生も『ジャンプルーキー!』に読み切りを投稿してその月の編集部期待賞を受賞し、今回の短期連載からブレイクされました。枠を取っ払い自由に幅広くが、功を奏していると思います」
システム的にも『ジャンプ+』ならではの強みがあると言う。連載作品は、最初の3話と直近の3話は常に無料で読めるようになっているが、例えば『SPY×FAMILY』が人気だと聞いてきた読者がアプリをダウンロードすれば、初回は全話を無料で読むことができる。「話題作を読みに来て待たないといけないとか課金が必要になると、読者が離れてしまう気がして。連載のいいところは最新話を一緒に盛り上がれるところで、『ジャンプ+』の仕組みはそれに応えられている。『タコピーの原罪』のヒットも、そこがうまく機能したのかなと」。また、コメント機能も重要な役割を果たしている。「反応の中身より、反応の量を見ています。賛否両論あっても、コメントが何千と付く作品だと盛り上がってるなと分かります」。
創刊から7年半。ヒット作の傾向は常に変わり続けている。『SPY×FAMILY』『怪獣8号』が出てきた頃は、読んで気持ちが上がる明るい作品が強く、『ダンダダン』もその流れでのヒット。その傾向に加えキーワードとなりそうなのが“連載を追う楽しさ”だ。
「『ジャンプ+』に来ると何か圧倒的なものが見られるんじゃないか、もっと驚けるんじゃないかと思っていただけている気がしていて。『タコピーの原罪』もそういう読者に発見してもらえたのかなと。もしかしたら、数年前の『ジャンプ+』だったら載ってもヒットはしなかったかもしれない。読者も懐が深くなってるというか、媒体への理解、期待感が高まっているのも感じています。さらに『タコピーの原罪』の場合、SNSで一緒に盛り上がったり考察したり、連載の最新話をみんなで追っていく楽しみ方をしてもらえているのかなと。連載を追ってもらうのが僕らの理想なので、うれしいですね」
昨年には新たなマンガ投稿・公開ツール「マンガノ」、今年2月にはマンガ賞「少年ジャンプ+漫画賞」もスタート。また、絵が描けなくてもスマートフォン上でマンガが描けるアプリ「WorldMaker」など、『ジャンプ+』のマンガを核にした次世代への取り組みは大きく広がり続けている。
「作品の質を上げる、作品の量を増やすのがヒットを出すために最も大事なので、未来につながるマンガとテクノロジーについては、常に考えています。
また、海外展開は大きな課題の1つです。アニメ化がリーチの大きな鍵だとは思うのですが、19年1月に、日中韓を除く全世界同時にマンガを配信する『MANGA Plus by SHUEISHA』を始めました。日本の編集部で運営していて、その反響をダイレクトに受け取っています。WEBTOON(※)のヒットの大きさは分かっていますが、『ジャンプ+』は今の形でいくつもりです」
“マンガアプリの次”を見据え、進化し続ける『少年ジャンプ+』の動向はますます注目されそうだ。
[文中の数字は2022年3月時点]
『少年ジャンプ+』ヒット作を生む3つのチャレンジ
■Challenge1
圧倒的に多い「読み切り」でとにかく試す
創刊当初から読み切りには力を入れており、新人作家のチャレンジの場にもなっている。編集部員は運営スタッフも入れて約20人。連載作品は60~70作品で、さらに読み切りは年間300本超を発表。作品数の多さも『ジャンプ+』の魅力になっている。
■Challenge2
「うちには向かない」を取っ払った自由な作品
“ジャンプ”と名がつくものの、作品のテイストやカラーをあえて限定せず、様々な作品を掲載しているのも特徴。王道アクションバトル、ファミリーコメディ、ラブコメ、ハートフルなものからちょっと痛い作品まで実に幅が広い。表現に関しても自由度は高く、アプリやウェブであることが強みになっている。
■Challenge3
才能を集めるための、多彩な入り口を用意
「ジャンプルーキー!」や「インディーズ連載」など投稿サービスが充実。「『ジャンプルーキー!』は投稿者、投稿される話数とも増え続けています。編集部が直接見ていることが、投稿者の方にも評価されてるのかなと。レベルが高くなっているのは感じますし、僕ら編集部としても非常に大事な新人を発掘できる場だと思っています」(細野編集長)。
次の課題は「海外」とマンガアプリの「未来」
「MANGA Plus by SHUEISHA」が拡大
2019年1月にスタートした、モバイル向けのオンラインマンガプラットフォーム。日本、中国、韓国を除く全世界で提供。英語をはじめ数カ国語に対応し、『週刊少年ジャンプ』『少年ジャンプ+』の発売や公開と同タイミングで、40~50作品を無料で配信する。MAUは500万に達し、『ONE PIECE』『DRAGON BALL超』『SPY×FAMILY』『怪獣8号』など人気作は100万を超えるものも。各国の出版社や配信サービスなどライツ関係者からの注目度も高まっている。
「マンガテック2020」で『少年ジャンプ+』のデジタル事業を次々実現
「集英社 スタートアップアクセラレータープログラムマンガテック2020」は、斬新なアイデアを持つスタートアップと共に事業を立ち上げる目的で20年に始動。昨年春にはマンガで英語を学ぶ「Langaku」のテストがスタートした。「いろいろなことを始める理由は、短期的にはマンガをヒットさせる、読者や描き手を集めるなどありますが、マンガとテクノロジーを掛け合わせていくことが、最終的にはマンガの未来にメリットがあると考えています。なので、直接的にすぐにマンガに結びつかなくても、新しいことをどんどんやっていければ。マンガアプリも始まって約10年ですが、次の10年でガラッと変わることも、常に考えていきたいと思っています」(細野編集長)。