※日経エンタテインメント! 2022年5月号の記事を再構成

2008年に舞台『最遊記歌劇伝』で主演。どのキャラクターも圧倒的な存在感、アクションで演劇&原作両方のファンを魅了。2.5次元人気を築き上げてきた鈴木拡樹に、改めて思いを聞いた。

鈴木拡樹(すずき・ひろき)
1985年6月4日生まれ、大阪府出身。近作に荒牧慶彦との主演舞台『バクマン。』THE STAGEなど。MCを務めるWOWOWの『2.5次元男子推しTVシーズン5』が今春よりスタート

――『最遊記歌劇伝』、舞台『弱虫ペダル』、舞台『刀剣乱舞』の初演から主要キャストとして出演、今も2.5次元界の先頭を走り続けている鈴木拡樹。彼にとっての2.5次元作品とは。

 僕は08年からの『最遊記歌劇伝』シリーズで2.5次元作品に出させてもらっていますが、このジャンルの1番大きな出来事といえば、やっぱりミュージカル『テニスの王子様』の誕生(03年)だと思います。マンガやアニメを原作とした舞台・ミュージカルが浸透していなかった頃に、しかもシリーズで続けていくこと自体が難しい時代で。実際に大変苦労されたというお話も聞いています。『最遊記歌劇伝』も原作ファンの方に「舞台化して良かった」と思ってもらえるものを提供し続けていくために、最初の頃はひたすらトライ&エラーを繰り返していました。

 舞台『弱虫ペダル』が始まった12年は、少しずつ舞台での原作キャラクターが愛されるようになった頃。当時はビジュアルを寄せることが重視されていましたし、内容も「ここを見たいよね」というところをピックアップして2時間半ほどにまとめるのがセオリーになりつつありましたが、舞台『弱虫ペダル』はそういったものからかなり外れた作り方をしていたんです。ビジュアル面は寄せつつも、物語の肝になる自転車が舞台上にハンドルしかない。プロジェクションマッピングを使う演出も多くなっていた頃でしたが、それもなくて。むしろ(演出の)西田シャトナーさんは「体1つで伝える」という演劇の原点に立ち返る手法を取られた。僕たち役者は「面白い」という確信を持っていましたが、お客さんがついてきてくれるかは正直怖くて。でも公演を重ねるごとに話題を呼んでいったことで「あぁ届いた」と、うれしさがありましたね。

 実は僕、デビューしてからけっこう長い間「ミュージカル『テニスの王子様』に出てみたい」と言っていたんです。理由は、原点になるものから作って、その熱意をまた次の世代へつなげていくという流れを自分も感じてみたかったから。「一体どういう思いが息づいているんだろう」と考えていたんです。僕にその答えをくれたのが舞台『弱虫ペダル』でした。

 次に原点から作っていったのが舞台『刀剣乱舞』。この作品で難しかったのは、原案ゲームで描かれている情報がすごく限られていて、自身と他の刀剣男士との絡みがほとんど分からなかったこと。背景などについてはプロデューサーから細かく教えていただきましたけど、どうしてもやっぱり会話したことがないキャラ同士となると、お客さんの中でも認識がバラけてしまいやすくて。役者の意識統一やお客さんへの浸透についてはとても慎重になりました。初演の頃はみんなで刀の年代などを調べて「こっちのほうが古いから…」なんて(笑)。でも同時にこの“お客さんがストーリーを知らない”というのは、『刀剣乱舞』というコンテンツの強さでもあったと思います。想像を膨らませてワクワクできると言いますか。それとメディアミックスやコラボレーションの仕方も上手だなと感じました。JR東日本など「そんなところともコラボできるんだ!」という展開もあり、常に発想が面白いですよね。

2.5次元を「文化」にしたい

――舞台『刀剣乱舞』が大ヒットシリーズとなり、鈴木の活動の幅も広がるように。ドラマや映画、洋画の吹替えやアニメで主演声優も務め、その活躍は多くの2.5次元俳優の指針にもなっている。

 声優についてはプロの方に対して失礼な気がして正直最初は迷った部分がありましたが、覚悟を決めて臨んでみると、結果、自分の引き出しも増えましたし、新しいお仕事に挑むことへの度胸もついて。僕のベースはあくまでも舞台ですが、1つに固執して全くやらないよりは、飛び込んでみたほうがいい。もし役者仲間の誰かが迷っていたら、経験した今だったらそう言うと思います。

 シリーズの初演から出させていただく機会が多く、僕自身も足場作りからやりたい人間だからか、気づいたら2.5次元界の専門家のような感じで頑張って話している自分がいて(笑)。自分も勉強中の身ですが、やっぱり少しでも2.5次元に興味を持ってもらいたいですし、1つの文化として残していけたらと考えていたので。

 17年からMCを担当している番組『2.5次元男子推しTV』(WOWOW)も、最初は「テレビを見ている視聴者のみなさんに『2.5次元』というワードだけでも耳に残れば」という気持ちで始めました。今春からはシーズン5の放送が始まりますが、4のときに「もう紹介できる人が少ないかも」と思っていたんです。でも最近聞いたら今は2.5次元に出ている俳優が何百人といるらしく、「まだまだいけるじゃん!」と(笑)。「2.5次元をやりたい」と言って役者を目指す子や専門学校もあるそうで、これは先ほど言った「文化にしたい」という思いが少し実現してきているのかなと感じますよね。

 今後も『2.5次元推し~』などでこの世界に興味を持ってもらうお手伝いをしながら、僕自身も荒牧(慶彦)君のように新しい試みに挑む人たちに刺激を受けながら、今まで通り「どういうものを届けたいか」ということを大事にして、1本でも多くの舞台を届けられたらいいなと思っています。

死神遣いの事件帖2 映画と舞台を連動させるプロジェクト「東映ムビ×ステ」で鈴木が主演を務める『死神遣いの事件帖』の第2弾。舞台は6月上演、映画は22年冬公開予定だ
死神遣いの事件帖2
映画と舞台を連動させるプロジェクト「東映ムビ×ステ」で鈴木が主演を務める『死神遣いの事件帖』の第2弾。舞台は6月上演、映画は22年冬公開予定だ。(C) 2020 toei-movie-st
プライベートトーク
Q 影響を受けた俳優は?
A 山本耕史さん。『映画刀剣乱舞』での共演をきっかけに仲良くしていただいていますが、最近はミュージカル『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』を見に来てくださって。「ここ、気づくか…!」というところまでたくさんアドバイスをいただきました。

Q 麺は何派?
A ラーメンです。少しドロドロで凝縮された感じのスープが好きです。

Q 座右の銘は?
A ずっと掲げているのは「日々前進」。1個の現場の中で何か1つでも発見して、また次の日の成長につなげられればと思っています。
衣装協力/ シャツ2万8600円(ato TEL:ato青山店03-5474-1748)。トレンチコート7万1500円、パンツ3万800円(以上CULLNI TEL:Sian PR 03-6662-5525)

(文/松木智恵 写真/藤本和史 スタイリスト/堤 千洋 ヘアメイク/AKI  )

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