※日経エンタテインメント! 2022年5月号の記事を再構成

シリーズ10周年を迎える舞台『弱虫ペダル』。1作目より作品を担う西田シャトナーと、手嶋純太を約4年演じ最新作で演出を務める鯨井康介に、『ペダステ』の軌跡とこれからについて聞いた。

西田シャトナー(総監督・脚本)×鯨井康介(演出)

10周年を迎える舞台『弱虫ペダル』。上写真は初演時のもの。(C)渡辺航(秋田書店)2008/舞台『弱虫ペダル』製作委員会 
10周年を迎える舞台『弱虫ペダル』。上写真は初演時のもの。(C)渡辺航(秋田書店)2008/舞台『弱虫ペダル』製作委員会 
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シリーズ10周年を記念した新作公演は総監督を西田シャトナー、演出を鯨井康介が務める。主人公の小野田坂道を島村龍乃介、今泉俊輔を砂川脩弥、鳴子章吉を北乃颯希とキャストも一新。アニメが大好きな高校生・小野田が自転車競技部で奮闘する姿を描く。7月5~10日東京・シアター1010、7月16~18日大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールで上演 (C)渡辺航(秋田書店)2008/舞台『弱虫ペダル』製作委員会 
【最新作】舞台『弱虫ペダル』The Cadence !
シリーズ10周年を記念した新作公演は総監督を西田シャトナー、演出を鯨井康介が務める。主人公の小野田坂道を島村龍乃介、今泉俊輔を砂川脩弥、鳴子章吉を北乃颯希とキャストも一新。アニメが大好きな高校生・小野田が自転車競技部で奮闘する姿を描く。7月5~10日東京・シアター1010、7月16~18日大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールで上演 (C)渡辺航(秋田書店)2008/舞台『弱虫ペダル』製作委員会 
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舞台『弱虫ペダル』は渡辺航によるマンガが原作(既刊76巻)で、2012年に初舞台化。西田シャトナーによる画期的な演出で度肝を抜き、『ペダステ』の愛称で親しまれ、15作もの作品が制作されてきた。西田と、夏公演予定の舞台『「弱虫ペダル」The Cadence!』の演出を任された俳優の鯨井康介が語る、『ペダステ』舞台裏と最新作とは。

――『ペダステ』といえば、ハンドル1つと役者のパントマイムでロードレースを表現する“パズルライドシステム”が話題ですね。

西田 演出にお声掛けいただいたとき、“妥協せずに芝居をつくろう”と決めていました。ハンドルだけで走ったのは、自転車が見えなくても良いと考えたのではなく、そのほうが自転車で走る肉体やレース状況を切実にクローズアップできると考えたからです。当時のキャストたちには「お客様に本当に伝わるのか」と一抹の不安もあったかもしれませんね。でも僕には迷いは一切ありませんでした。観客には演劇を見る力があると知っていましたから。

鯨井 僕が『ペダステ』に参加したのは『総北新世代、始動』(16年)からですが、役者仲間が出演していたので当時の話は聞いていて。僕の周りの俳優たちも不思議がっていました。何かが違うぞ、と。

西田 「当時の他の2.5次元舞台との違い」について聞かれることもありますが、ただひたすら自分の芝居作りをしていただけなんです。俳優の肉体にこだわるやり方は、20年前の「懐かしい」演劇に見えるでしょうね。実際は何百年も前の、演劇初期の作り方を続けています。我々は原初演劇をまだ掘り尽くしていないので。舞台『弱虫ペダル』で毎公演同じ形の舞台装置を使うのも、同じ理由です。

鯨井 『新インターハイ篇~箱根学園王者復格(ザ・キングダム)~』(18年)では、足を動かさず語りと芝居で走りを表現しましたよね。

西田 大事なのは自転車ではなく、乗っている人間だから。レースを表現するには、ハンドルすら邪魔になるときもあるんです。

俳優の経験を生かす

――新作公演は、西田さんが総監督・脚本で、鯨井さんが演出を務める新体制へ。

鯨井 演出という立場で作品に関わらせていただきます。キャストが一新するので、役者同士のコミュニケーションの取り方や、どこまで本気の汗を流した芝居ができるかは、俳優としての経験を生かして教えられることがあると思っています。

西田 鯨井さんは俳優の枠を越えて作品への理解も深く、僕も託せると思いました。未来への希望を感じずにはいられません。僕にも、いつかフランスで上演をしたいという夢があります。「Japan Expo 2017」にデモンストレーション参加させていただいたとき、現地の人たちがすごく盛り上がり、レース表現もまねて楽しんでくれて。演劇の原点をやり続ける『ペダステ』は、言葉を越えて伝わると信じています。

西田シャトナー
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西田シャトナー(にしだ・しゃとなー)
1965年生まれ、大阪府出身。作家、演出家、折り紙作家、俳優として活躍。近年の演出作品に舞台『灼熱カバディ』
鯨井康介
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鯨井康介(くじらい・こうすけ)
1987年生まれ、埼玉県出身。ミュージカル『テニスの王子様』で舞台デビュー。以降、多数の舞台で主演を務め、近年は舞台の脚本・プロデュースも手掛ける

ネクストヒットは“リアル系”から

舞台化不可能と言われてきた原作を、次々と成功へ導く2.5次元界。次のヒットとして注目されるのが、リアルな世界の舞台化だ。

ミュージカル『四月は君の嘘』 原作は新川直司(講談社『月刊少年マガジン』)。小関裕太/木村達成&生田絵梨花主演。全国公演(兵庫公演6月16日~18日、富山公演6月25日~26日、福岡公演7月1日~3日)上演中。※東京・群馬・愛知公演は上演終了。 製作:東宝/フジテレビジョン
ミュージカル『四月は君の嘘』
原作は新川直司(講談社『月刊少年マガジン』)。小関裕太/木村達成&生田絵梨花主演。全国公演(兵庫公演6月16日~18日、富山公演6月25日~26日、福岡公演7月1日~3日)上演中。※東京・群馬・愛知公演は上演終了。 製作:東宝/フジテレビジョン
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 日常生活には実在し得ない世界観やキャラクターを体現し、「実現不可能」といわれた様々な原作の舞台化に成功してきた2.5次元舞台。キャラクターのビジュアルにとどまらず、必殺技や魔法など可視化できないものをプロジェクションマッピングなどの技術を用いて、舞台空間に存在させてきた。海外でも人気となったライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」や舞台「鬼滅の刃」、『ワールドトリガー the Stage』などが成功例だ。

 一方、昨年~今年にかけて、現実の生きる世界に近い日常を描く作品が多く舞台化され、人気&注目を集めている。ミュージカル『四月は君の嘘』はピアニストとヴァイオリニストの高校生の成長を、「ブルーピリオド」The Stageは成績優秀だが不良の主人公が美術大学を目指す姿を描く物語。舞台「東京リベンジャーズ」では、主人公がタイムスリップはするものの描かれる世界は日常と変わらず、敵と戦う際は拳を使う。

銀河劇場プロデュース「ブルーピリオド」The Stage 原作は山口つばさのマンガ(講談社『月刊アフタヌーン』)。美術大学受験に奮闘する高校生を通し、美術の世界を描く。主人公・矢口八虎役を岡宮来夢。Blu-ray11⽉11⽇発売。(C)山口つばさ・講談社/「ブルーピリオド」The Stage 製作委員会
銀河劇場プロデュース「ブルーピリオド」The Stage
原作は山口つばさのマンガ(講談社『月刊アフタヌーン』)。美術大学受験に奮闘する高校生を通し、美術の世界を描く。主人公・矢口八虎役を岡宮来夢。Blu-ray11⽉11⽇発売。(C)山口つばさ・講談社/「ブルーピリオド」The Stage 製作委員会
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舞台「東京リベンジャーズ―血のハロウィン編―」 和久井健のマンガ『東京卍リベンジャーズ』(講談社『週刊少年マガジン』)を舞台化した第2弾。主人公・花垣武道を木津つばさが続投、松野千冬役を植田圭輔が演じる。Blu-ray&DVD10月5日発売。(C)和久井健・講談社/舞台「東京リベンジャーズ」製作委員会
舞台「東京リベンジャーズ―血のハロウィン編―」
和久井健のマンガ『東京卍リベンジャーズ』(講談社『週刊少年マガジン』)を舞台化した第2弾。主人公・花垣武道を木津つばさが続投、松野千冬役を植田圭輔が演じる。Blu-ray&DVD10月5日発売。(C)和久井健・講談社/舞台「東京リベンジャーズ」製作委員会
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 いずれも原作コミックスからアニメ化され、大ヒットとなった作品。例えば、『四月は君の嘘』(脚本・坂口理子、演出・上田一豪)では、ブロードウェイミュージカル『ジキル&ハイド』などで知られるフランク・ワイルドホーンが全曲を書き下ろし、主要キャストが熱唱する。リアルな世界観を舞台へどのように落とし込むかが、腕の見せどころとなりそうだ。

(文/小林 揚、松木智恵)