つくればつくるほど、売れれば売れるほど、新しい生態系が再生して環境が良くなり、豊かで幸せな社会が実現されることを「リジェネラティブ(再生する、生まれ変わる)」という。そんなビジネスに取り組む仕事人たちを追いかける本連載の4~6回目は、日本酒業界を取り上げる。まずは、なぜ日本酒業界は衰退してしまったのか、その背景と新たに生まれつつある一筋の光明について解説する。
日本人にとって、日本酒はもはやマイナーな存在だ。
いきなりの過激な発言に驚かれるかもしれないが、事実、データが語っている。日本酒の課税移出数量(=出荷量)は、1973年度の176万6000キロリットルをピークに下降の一途をたどり、2020年には41万4000キロリットルと、実に76.6%減、4分の1以下になっているのだ。
この間、全酒類における国内出荷量(課税数量ベース)のシェアもピーク時の30%弱から5.1%にまで激減。人口減や高齢化、若者のアルコール離れでアルコール飲料全体の出荷量は減少傾向だが、日本酒の落ち込み具合はそれとは次元を異にするものだ。
だが、もう少し細かくデータを見ると、右肩下がりの日本酒の中で、むしろ出荷数量を伸ばしているカテゴリーも存在することが分かる。醸造用アルコールを添加せずに、米と米麹(こうじ)と水だけでつくられる酒、すなわち「純米酒」である。
実際にどのくらい出荷数量が伸びているのか見てみよう。1990年度には純米酒4万2000キロリットル、精米歩合が60%以下の「純米吟醸酒」は1万3000キロリットルと、合わせて5万5000キロリットルだった。それが、2020年度には純米酒5万4000キロリットル、純米吟醸酒4万4000キロリットル、合計で9万8000キロリットルと、この30年で2倍近くに増えている。
この間、日本酒の出荷量全体に占める純米酒と純米吟醸酒の割合は、4%から23%へと大きく伸びた。消費者の日本酒離れが進み、消費量が右肩下がりで減り続ける中、純米酒と純米吟醸酒はむしろ出荷量を増やし、着実に存在感を増してきたのである。アルコール添加の日本酒(アル添酒)は大きく消費量を減らし、純米の酒は消費量を伸ばした。それが過去30年間に日本酒市場で起きたことである。
アルコール添加が当たり前になった背景とは?
今ではすっかり嫌われている感のあるアル添酒だが、そもそもなぜ、日本酒に醸造用アルコールを添加することが当たり前のように行われることになったのだろうか。
日本酒の歴史は古い。澄み通った清水のような清酒の製法が確立されたのは、中世から近世にかけてといわれるが、清酒以前の濁り酒であれば、もっとずっと古くから飲まれてきた。当然、アルコールを添加するようなことはなく、今で言えば純米酒を造っていた。
日本酒が大きく変質したのは、明治時代になり近代国家が成立して以後のことだ。酒税収入は、富国強兵を進めたい明治政府にとって貴重な収入源だったから、醸造業は国家による管理下に置かれた。政府は酒造を免許制にして税金逃れを防止する一方、醸造試験所を設立して、より効率的・効果的に日本酒が造れる手法の研究・開発に着手したのである。
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