世界で注目を集めている海藻を巡る新ビジネスのトップランナーとして、日本のスタートアップが躍動している。2016年に設立された合同会社シーベジタブル(高知県安芸市)だ。養殖による海藻の生産・販売に特化したユニークなモデルを有する。連載第2回では、世界を変え得る彼らの挑戦に迫る。

シーベジタブルが陸上養殖しているスジアオノリ(写真/Lyie Nitta)
シーベジタブルが陸上養殖しているスジアオノリ(写真/Lyie Nitta)

 合同会社シーベジタブルは、2016年に蜂谷潤氏(34歳)と友廣裕一氏(37歳)によって設立された。2人の出会いは09年に遡る。

 この年、高知大学農学部栽培漁業学科(現在の農林海洋科学部)で学んでいた蜂谷氏は、学生向けのビジネスプランコンテストである「キャンパスベンチャーグランプリ(CVG)」に「海洋深層水を活用したアワビ類及び海藻類の複合養殖」を提案し、文部科学大臣賞・テクノロジー部門大賞を受賞。その後、蜂谷氏は大学院に進み、このプランの実現に向けた研究に励む一方、一般社団法人うみ路を立ち上げ、地域資源を活用した加工品開発や地域内外の交流イベント企画を始める。

 このうみ路の活動を共にしたのが友廣氏だった。同氏は、全国の農山漁村を回る旅をする中で09年に蜂谷氏と出会っていた。その後、友廣氏は東日本大震災後の宮城県石巻市で、漁師の夫人たちの「何か仕事をつくりたい」という思いに応えるべく、鹿の角で作るアクセサリー「OCICA(オシカ)」のビジネスを立ち上げたが、その経験が蜂谷氏の琴線に触れた。思いはあるけれど形にできない――。そういう「誰かの思いを形にする仕事をしたい」と思っていたからだ。

シーベジタブルの蜂谷潤氏(写真左)と友廣裕一氏(写真/筆者撮影)
シーベジタブルの蜂谷潤氏(写真左)と友廣裕一氏(写真/筆者撮影)

 蜂谷氏がCVGで提案したアワビ類と海藻の複合養殖のアイデアは、高知県室戸市で行われていた海洋深層水を使ったスジアオノリの養殖からヒントを得たものだ。スジアオノリの養殖は、蜂谷氏の指導教官である高知大学の平岡雅規准教授が開発した技術を使って、室戸の漁業協同組合が進めていた。当時、海藻の陸上養殖は、沖縄の海ぶどうと室戸のスジアオノリしか成功例がないというユニークなものだった。

 だが、この養殖では毎日大量の海洋深層水が排水として捨てられる。「この排水を何かに使えないか」と平岡准教授に相談されたことがきっかけで、蜂谷氏はアワビ類の養殖を思いついた。アワビ類を養殖すれば、窒素や有機物が溶け出した栄養に富んだ排水が出る。この栄養豊富な排水をスジアオノリの養殖に使えば、排水浄化に役立つうえ、スジアオノリの成長促進にもなる。

 こうして作られたスジアオノリはアワビの餌になり、低温の排水は海水温の上昇で減少していた藻場の再生に寄与する。蜂谷氏の考案したアワビ類と海藻の複合養殖は、海洋深層水を無駄なく利用し、海の生態系の回復にも役立つ一石二鳥のビジネスプランだった。

地下海水を活用した養殖モデルを確立

 その後、アワビ類の養殖成功に期待する地元の声に励まされながら試行錯誤を続けたが、種苗生産から生育させるまでの技術は確立できたものの、残念ながら事業としては軌道に乗らなかった。アワビ類の成長は遅く、致死率も高いから、とてもビジネスにはならなかった。

 一方、スジアオノリの生産量の激減で、アワビ類の餌にすべく養殖をしていたスジアオノリ自体に引き合いが来るようになった。相手は、お好み焼きやポテトチップス用のアオノリを生産しているメーカーだ。

 アワビ類は難しいが、スジアオノリならビジネスにできる。そう思った蜂谷氏と友廣氏は、海藻養殖の事業化にかじを切り、合同会社シーベジタブルを16年に設立。生産量の激減でアオノリの価格が高騰していたことも好都合だった。

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