急増した人口を収容し、経済を発展させるために大規模な自然破壊が行われてきた20世紀。人口減少時代に入った21世紀は、自然や風景をいかに回復・再生させるかが重要になる――。「リジェネラティブ(再生する、生まれ変わる)」の時代だ。そんな時代を象徴する新しいビジネスや、そこで奮闘する仕事人の思いに迫る本連載。第1回では海藻を巡る新ビジネスが注目を集める背景を見ていく。

日本人になじみ深い海藻を巡るビジネスが今、世界で注目を集めている(写真/Shutterstock)
日本人になじみ深い海藻を巡るビジネスが今、世界で注目を集めている(写真/Shutterstock)

 近年、欧米で注目キーワードとして挙がっているのが、「リジェネラティブ(Regenerative)」だ。Re-generateは「再生する」「生まれ変わる」という意味で、大地や自然を再生させる方向に作用するのがRegenerativeである。

 「持続可能」と訳される「サステナブル(Sustainable)」は「現状維持」の意味合いが強い。一方でリジェネラティブには、より積極的に環境を再生させようというニュアンスが含まれている。サステナブルが目指してきたのは、環境へのダメージを最小限にし、将来世代の選択肢を奪わないようにすることで、いわばマイナスをゼロに戻す取り組みだ。そこからもう一歩踏み込んで、人間が壊してきた生態系を回復・再生させる、プラスを目指そうではないか――。そういう思いを込めてリジェネラティブという言葉が使われるようになっている。

 これをビジネスの文脈に置き換えると、これまでのビジネスは成長に伴って環境負荷を増大させるのが常だった。その負荷を極小化することをサステナブルは目指してきたわけだが、リジェネラティブが目指すのは企業の成長が自然環境の回復・再生を促すようなビジネスの在り方である。環境だけではない。そこで働く人や社会も、ビジネスの成長に伴って健全なものへと回復・再生してゆく。そういうビジネスが求められるようになっている。

 本連載では、こうしたリジェネラティブな流れを生み出す新ビジネスを取り上げ、そこで奮闘する「仕事人」たちの思いに迫っていく。連載第1回と第2回では世界で注目を集める海藻ビジネスに焦点を当てる。

 実は、日本のスタートアップが、養殖による海藻の生産・販売に特化したビジネスでトップランナーとなっている。2016年に設立された合同会社シーベジタブル(高知県安芸市)だ。同社の歩みを紹介する前に、まずは、なぜ今、海藻ビジネスが脚光を浴びているのか。その背景から解説していこう。

海藻ビジネスが注目される意外なワケ

 四方を海に囲まれた日本列島に暮らす人にとって、海藻はなじみ深い存在だ。だが、海藻が何かを正確に言える人は、一体どれくらいいるだろうか。

 のり(アサクサノリ、スサビノリなどの総称)、アオノリ(スジアオノリ、ウスバアオノリなどの総称)、アオサ、昆布、ワカメ、ヒジキ、モズク、テングサ(寒天の原料)、海ぶどう(正式名称はクビレヅタ)などは、いずれも海藻だ。植物同様に光合成を行うが(従って二酸化炭素を吸収する)、近年は植物とは別の「藻類」に分類されている。光合成を行う生物のうち、コケ植物、シダ植物、種子植物を除いたものが藻類である。

海藻は身近な存在だが、深く知っている人は少ない(写真/Shutterstock)
海藻は身近な存在だが、深く知っている人は少ない(写真/Shutterstock)

 地球上で最初に誕生した生命は、シアノバクテリア(ラン藻)と呼ばれる藻類だったと考えられている。シアノバクテリアは単細胞の藻類だ。微細藻類と総称される単細胞の藻類の中には、タンパク質やミネラル、脂質などを豊富に含むものがあり、近年、機能性食品やエネルギー源としての利用に注目が集まっている。ユーグレナの成功で話題となったミドリムシも微細藻類である。

 一方、海藻は、多細胞の藻類を指す総称である。「海藻」と「海草」は別物で、海草は、海中を住処(すみか)とする種子植物のことを言う(区別するために海草は「ウミクサ」と呼ばれることが多い。英語ではSeagrass)。これに対して海藻(英語ではSeaweed)は、一般に、根・茎・葉の区別が曖昧で、胞子で増える。食用に供されてきたのはもっぱら海藻のほうで、このうち、のりやワカメ、昆布など我々にとってなじみ深いものは、その採取や養殖が古くから業として行われてきた。食品のほかに、化粧品や肥料の原料にも用いられるなど、海藻の用途は案外幅広い。

 このように、微細藻類に比べて圧倒的になじみがある海藻だが、微細藻類ビジネスに比べて新規性が乏しいと思われるようで、これまで不思議と注目を集めることは少なかった。

 だが、ここにきて状況は変わりつつある。世界的に海藻への関心が高まり、海藻ベンチャーや企業の参入が相次ぎ、国内外で急速に注目を集めているのである。

 その第1の理由は、ブルーカーボンへの注目だ。ブルーカーボンとは、国連環境計画(UNEP)が09年に発行した報告書『Blue Carbon』の中で初めて定義されたもので、海洋生物の作用により、大気中から海洋中へ吸収される炭素のことを指す。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書(14年)によれば、大気中に排出される炭素の約4割(38.6%)が海洋に吸収されている。吸収源となっているのは、マングローブ林や塩基性湿地、海草藻場(海草・海草が生い茂る場)などの沿岸海域の生態系、いわば「海の森」である。

(出所:NTT宇宙環境エネルギー研究所「Beyond Our Planet」)
(出所:NTT宇宙環境エネルギー研究所「Beyond Our Planet」)

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