白馬の挑戦 元官僚社長の熱血マーケティング 第9回

グリーンシーズンの集客を強化し、世界水準のオールシーズンマウンテンリゾートへの脱却を着々と進める「白馬岩岳マウンテンリゾート」。その立役者である、運営会社・岩岳リゾート(長野県白馬村)の和田寛社長は「日本の“イナカ”を元気にしたい」という長年の思いを実現すべく、官僚や外資系経営コンサルタントというキャリアを捨て、ここ白馬へやって来た。「白馬がダメなら日本の観光業全体が厳しいのではないか」と言い切る和田社長に、白馬の未来と“イナカ”の活性化について語ってもらった。

今回の特集「白馬の挑戦」の主人公である岩岳リゾートの和田寛社長
今回の特集「白馬の挑戦」の主人公である岩岳リゾートの和田寛社長

「ギャップ」が地方観光に光を当てる

 岩岳山頂から望む白馬三山の絶景の魅力は、地元の人たちも認識していた。足りなかったのは、その魅力を効果的に発信し、マネタイズにつなげるマーケティングだった。東京から“よそ者”として白馬に赴任した和田寛社長は、2018年に開業した展望テラス「HAKUBA MOUNTAIN HARBOR(白馬マウンテンハーバー)」の成功で話題を集め、収益を上げることで白馬のポテンシャルを“見える化”してみせた。その後も大小さまざまな施策を打ち続け、新型コロナウイルス禍の影響を受けながらも集客を伸ばし続ける白馬エリアは、今や日本の観光業界でも注目の的と言える。

 「白馬の挑戦」の原動力となっている和田社長の存在を観光庁も聞きつけ、その活躍は内閣官房の耳にも入った。19年、内閣官房長官主催「観光戦略実行推進会議」に出席した和田社長は、当時官房長官を務めていた菅義偉前首相に世界水準のマウンテンリゾート実現に向けた施策をプレゼンした。


和田寛社長(以下、和田) 偶然、観光庁の室長が高校の先輩でした。観光庁から見ると、白馬は“ネクストニセコ”という認識です。「海外資本が流入して開発が進んだニセコは、もはや国の支援をさほど必要とはしていない。国策として次は白馬をどうするかと思っていたところ、『和田がスキー場をやっているらしい』と知った」といったところでしょうか。

 「(官僚である)自分たちの言葉の分かる人間が白馬にいた」と思ったのかもしれません(笑)。「菅官房長官(当時)が主催する『観光戦略実行推進会議』で、今度はスノー(スノーリゾート)が話題になるから」とその室長に会議に呼ばれ、菅元官房長官の前でプレゼンテーションをしました。

 「白馬の魅力に対してお客さんが少な過ぎる。この山の素晴らしさは『夏に数万人来るか来ないか』って次元じゃない」というのが、白馬に来る前の率直な印象でした。日本の多くの山を見てきましたが、こんなにきれいな場所はほとんどありません。近くに人里があるのも大きい。適切な開発を進めることができれば、しっかりとした「リゾート」になり得る素質があるからです。実は圧倒的な大自然だけでは、人は快適に過ごせません。適度な快適さがあってこそ、大自然を味わえるリゾートになるのです。

「白馬岩岳マウンテンリゾート」の山頂付近。キャンプやマウンテンバイクなどの各アクティビティーを受け付けるガイドセンターの前に集まる人々。小さな子供を連れた人の姿も見える
「白馬岩岳マウンテンリゾート」の山頂付近。キャンプやマウンテンバイクなどの各アクティビティーを受け付けるガイドセンターの前に集まる人々。小さな子供を連れた人の姿も見える

 よくいわれる「“イナカ”が元気にならないと、日本は元気にならない」という話は、あながち否定できません。人は都会へ出てくるほど、出生率は下がります。白馬に興味を持ち始めた頃は、観光政策をさほど意識していませんでした。しかし、12年の第2次安倍政権が発足して以来、菅(義偉)前首相が官房長官の頃から地方創生施策の一つとしてインバウンド誘致を進められていますが、地方の観光業の活性化が今後の日本の未来を支える、というのはその通りだと思います。

既に外国人は日本のイナカに目を付けている

和田 人がイナカから都会へ出ていってしまう大きな理由は「就学」と「就労」です。いい大学をイナカにたくさんつくるのは難しいかもしれませんが、就労について言えば、しっかりイナカで吸収できる量を増やさなければなりません。結局、人々のなりわいである「業(industry=産業)」がなければ就労もないのです。その業は、イナカになるほど選択肢が限られる。普通に考えれば、イナカにとって「外貨を稼ぐ」ことのできる付加価値を生む産業となると、農林水産業くらいしか出てきません。今後は、バイオマスや太陽光などのエネルギー産業が出てくるかもしれませんが。

 そうした中、イナカの観光業は外貨を獲得するようになる(都会からの“外貨”というだけではなく、海外からという文字通りの外貨の意味も含めて)可能性の高い、イナカの産業の一つだと考えています。

 これまで観光業でインバウンドといえば、東京や京都、大阪といった都市に目が向いていました。しかし実際に行って楽しいのは、自分たちの暮らしや文化、見慣れた光景に対して“ギャップ”のある場所ではないでしょうか。

 ポテンシャルとギャップの両方ある場所は、光を当てると伸びます。ですからイナカの観光には、どんどんギャップを感じてもらえるようにすればいい。既に外国人は日本のイナカに目を付けています。しかし日本人は、観光客の立場になると、彼らほど目を付けているとは言い切れない。日本のイナカがもたらす都会とのギャップ、そこにしっかり着目し、お金を稼ぎ、ビジネスをする。それをやり続ければ、イナカにもいい意味での喧騒(けんそう)が生まれます。

外国人は日本のイナカに価値を見いだしている。白馬の注目も高まっている
外国人は日本のイナカに価値を見いだしている。白馬の注目も高まっている

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