
新型コロナウイルス感染拡大のさなかにあった2020年10月、多くの困難を乗り越え白馬岩岳の山頂で開催にこぎ着けた「HAKUBA ヤッホー! FESTIVAL」の音楽ライブ。22年5月の第2回では、最終日のチケットが完売した。多くの集客が期待できる「野外フェス」だが、実は事業として成立させるのは想像以上に難しいという。スキマスイッチの常田真太郎さんを通じて白馬岩岳のフェス立ち上げを任され、着実にプロジェクトを育ててきた元キマグレンのISEKI(井関靖将)さんが明かす、音楽フェス「成功の条件」とは。
新型コロナウイルス禍の困難を乗り越えて
岩岳リゾート(長野県白馬村)の和田寛社長が、スキマスイッチの常田真太郎さんと知り合ったのは2019年の初めごろ。実は「幼い頃から白馬と深い縁があった」と言う常田さんは、和田社長に勝るとも劣らぬほどの「白馬愛」に満ちあふれていた。18年10月に「HAKUBA MOUNTAIN HARBOR(白馬マウンテンハーバー)」をオープンさせるなど、グリーンシーズンの強化を急ぐ和田社長は、「白馬の山頂で音楽フェスを開きたい」と常田さんに訴えた。それに対して常田さんは、「イベントをやるノウハウが自分にはないので」と、ある人物を紹介した。それが音楽フェスのイベントプロデュースなどを得意とする、元キマグレンのISEKIさんだった。
第1回の音楽ライブ「HAKUBA ヤッホー! FESTIVAL ~白馬ノ音~」は20年10月3~4日に岩岳山頂で行われた。当初20年5月開催だったが、緊急事態宣言により延期となり、その後も新型コロナ禍は収束せず、開催自体が危ぶまれた。しかし「第2波」と「第3波」の谷間という“ここしかない”タイミングで決行。山頂に集まった来場者、アーティスト、岩岳リゾート社員を中心とする実行委員会の結束を固める機会になったという。
22年5月21~29日には、第2回となる「HAKUBA ヤッホー! FESTIVAL 2022」を開催。目玉はやはりラスト2日間の音楽ライブで、スキマスイッチや矢井田瞳さんなど、合計13組のアーティストの歌声が岩岳山頂に響いた。最終的に開催期間中、イベントの舞台となった「白馬岩岳マウンテンリゾート」への来場者数は約8000人に達し、音楽ライブには合計約1800人が参加した。
中でも注目は、最終5月29日のチケットが完売したことだ。山頂の音楽フェス継続に弾みをつけた。早くも23年5月に第3回の開催を決め、準備に向けて動き出しているという。「HAKUBA ヤッホー! FESTIVAL(以下、ヤッホー! FESTIVAL)」の誕生秘話、そして白馬の地で切磋琢磨(せっさたくま)することで培われた「音楽フェス成功の条件」をISEKIさんに聞いた。
「採算度外視でもやりたい」
――ISEKIさんは、ヒット曲「LIFE」で知られるキマグレンで始まる音楽アーティスト業と、「音霊OTODAMA SEA STUDIO(以下、音霊)」のような音楽イベントのプロデュース業という“二足のわらじ”で活動を続けられています。そんなISEKIさんが、岩岳リゾートの和田社長の依頼を受け、白馬で音楽フェスをプロデュースしてもいいと思ったのはなぜでしょうか。
ISEKIさん(以下、ISEKI) 友人や仲間から相談が来たら、それに対して「フェスってこういうものだと思う」と話しながら進めるのが僕の基本的なやり方です。今回は旧友であるスキマスイッチの常田から、「こんな人(和田社長)がいる」と電話をもらったのがきっかけです。ただ正直なところ、東京から交通費を払い、4時間くらいかけて行くとなると、音楽フェスをやっても白馬では勝ち目がないだろうと思いました。
キマグレンでKUREI(クレイ勇輝)と「音霊」をやってうまくいくようになったのは4、5年目。地元の(神奈川県)逗子以外では、宮崎や東京・八王子で過去に音楽フェスを開催しましたが、初めから大きくやろうとするとうまくいきません。ですから「最初の1年で元を取ろう」といった考え方の人とは基本的には組まないようにしています。和田社長は白馬で大きく打ち出そうとしていたので、「やるなら5年、10年の長期スパンでやりたい」と伝えました。
――最初はあまり乗り気ではなかったのですか。
ISEKI 和田社長には「フェスって結構難しいですよ」とはっきり伝えました。しかし、ちょうどテレビ番組で和田社長や白馬での活動が取り上げられていた頃で、「すごい人たちなんだよ」という話を耳にしていました。さらに調べると、既に白馬村内の別の場所で一度、音楽フェスをやろうとして頓挫していたことも分かりました。厳しいかなと思いつつも、和田社長から「実際に来てみませんか」と誘われていたので、舞台製作のスタッフと一緒に19年4月に初めて白馬へ足を運びました。
ところが山頂からあの北アルプスの景色を見ると、「とにかく最高!」「採算度外視でもやりたい」と気持ちは一変(笑)。「この景色を音楽ファンやアーティストにも見てもらい、同じ気分を味わってほしい」と思ったのです。即決でしたね。
――さすがにあの絶景を目の当たりにすれば、心を動かされてしまいますね。
ISEKI 実はやろうと決めたのは、景観以外の要素も大きかった。和田社長や岩岳チームの方々と会って話したときに、彼らから温かさを感じました。さらにビジネスとしてしっかり数字を見ているバランス感覚もあった。「ここでは大きなフェスは難しい」と伝えた際にも、「分かりました」と返事が来て、そこから中身のあるディスカッションができました。
今では、プライベートでも白馬に通うようになりましたね。行けば行くほど白馬のことが好きになる。もちろん音楽フェスのプロデュースはビジネスですが、それを抜きにしても「行きたい」と思える場所です。
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