
白馬村に赴任した岩岳リゾート(長野県白馬村)の和田寛社長は、社員との結束を深めながら「白馬の挑戦」を着実に進めてきた。その過程で、社員らは和田社長の飽くなき探究心や行動力、粘り強さ、気さくな人柄、そして「熱い涙」を目の当たりにしてきた。そんな和田社長を社員たちはどう受け止めているのか。
「白馬には勢いがある」
「『和田(寛)社長のマウンテンリゾートのつくり方を知りたい』と、全国から観光関係者が岩岳リゾートへ視察に来ている。長野県内でも、『白馬には勢いがある』『白馬を見習おう』と言われるようになった。県の観光機構のアドバイザーにも就任するなど、確実に注目度が上がっている」――。
和田社長と共に、数多くのプロジェクトを推進してきた日本スキー場開発(長野県白馬村)営業本部営業部長の太田悟氏は、ここ数年の変化についてこう語る。評判はスキー場事業者や観光業界内にとどまらない。和田社長が農林水産省の官僚だった時代の同僚など、幅広い人たちに知れ渡った。その活躍は当時の官房長官だった菅義偉元首相にも伝わり、19年5月には首相官邸で開催していた観光戦略実行推進会議にも招かれた。
官邸にまでその存在を認知されるようになった和田社長だが、岩岳リゾート社内では決して“遠い存在”ではない。むしろ“近過ぎる”といっていいくらいだ。和田社長は社員一人ひとりを名字ではなく、名前や愛称で呼ぶことが多い。ちなみに太田氏は「悟さん」、共に活躍してきた同社副総支配人の山崎健司氏は「健司さん」と呼ばれている。
太田氏、山崎氏は和田社長と年齢が近い。さらに和田社長のほうが少し年下だったのも、兄貴肌で遠慮のない2人にとっては、かえって打ち解けやすかったようだ。学生時代からスポーツ好きで“体育会系”の和田社長のフランクで気さくな性格と、地元出身で村の人たちにも顔が利く2人との距離は一気に縮まり、和田社長はどんどん会社に、村に、白馬に溶け込んでいった。
「俺はこうだ、などと主張する人は白馬を去っていくが、和田社長はそうではなく、社員や地元の人の話にもよく耳を傾ける」(太田氏)
和田社長の役割は「天才」であること
山崎氏は「太田と私は、村で悪いことはできないですよ」と笑う。約9000人が暮らす白馬村では、必然的に地域との関わりが深くなる。両氏は幼なじみで、共に白馬で働いてきた30年来の同僚でもある。スキー場運営に汗を流す傍ら、「どうすれば白馬にある素材を生かせるのだろう……」と、景観の価値を伝えることの難しさを痛感してきた。白馬を愛する地元の人間であれば、その景観の素晴らしさはよく分かっている。しかし“スキーバブル”が弾けてから投資は困難に。やる気や思いはあっても、景観が持つ価値を掘り起こし、外へ発信し、マネタイズできる人材がいなかった。
そこに突然現れた和田社長。太田氏と山崎氏は、冗談交じりに「東大か?」「東大だよ」と掛け合いながら当時を振り返る。「知識が豊富な人や勉強が得意な人はいる。でも『天才ってこういう人なんだ』と感じた」と太田氏。今でも2人は和田社長の役割を「天才」と表現する。前回紹介した、岩岳山頂の絶景ブランコ「ヤッホー!スウィング presented by にゃんこ大戦争」のエピソード。社員の猛反対を押し切り有料化にかじを切った和田社長だったが、結果は大ヒット。「やっぱり東大だったね」(太田氏)と社内は盛り上がったという。
ビジネスパートナーになってほしい相手には、とにかく一度白馬へ足を運んでもらいたい。その際、事業内容を理解してもらうべく収支計画を準備し、脇をしっかり固めているのは言うまでもない。それでも「実際に白馬三山を目にし、和田社長に会ってその熱意に触れたからこそ納得してもらえることがある」と山崎氏。それも“天才”のなせるわざか。
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