
岩岳リゾート(長野県白馬村)が運営する「白馬岩岳マウンテンリゾート」では、2021年、春から秋にかけてのグリーンシーズンにおいて過去最高の来場者数を記録した。北アルプス・白馬の山々が織りなす絶景と、そのポテンシャルを最大限に引き出す魅力的な施設の相次ぐ投入による密にならない過ごし方が、新型コロナウイルス禍でも足を運んだ来場者の心を捉えた。仕掛け人は同社の和田寛社長。苦境にあえぐ地方観光業界の風雲児だ。同社長が実践してきた数々の「熱血マーケティング」の手法とはいかなるものか。
コロナ禍でも過去最高の集客を記録
「岩岳の山頂近辺は、まるで新宿駅構内にある商業施設の店内のようだった」――。観光客でごった返す目の前のにぎわいを、岩岳リゾートの和田寛社長は驚きのまなざしで見つめていた。
新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着きを見せ、3年ぶりの“行動制限なし”で迎えた2022年のゴールデンウイーク。5月4日、岩岳リゾートが運営する白馬岩岳マウンテンリゾートに、グリーンシーズンとしては過去最高となる4700人の来場者が押しかけた。ゴールデンウイーク期間中の来場者数1万7600人も過去最高。緊急事態宣言が出されていた前年に比べて2.4倍、コロナ禍前の19年と比較しても1.4倍という人出だ。
白馬岩岳マウンテンリゾートは、大規模な学生スキー大会で知られる標高1289メートルの岩岳の山頂エリアを核とする通年型のリゾートだ。冬場のスキー客に依存する経営からの脱却を進める和田社長は、グリーンシーズンの集客を強化すべく、毎年のように新たな施設を投入してきた。押し寄せてくるような標高3000メートル級の北アルプスの絶景と向き合う展望テラス「HAKUBA MOUNTAIN HARBOR(白馬マウンテンハーバー)」(18年10月開業)、大自然の中でゆったり過ごせるリゾート空間「Iwatake Green Park(イワタケ グリーン パーク)」(19年7月開業)、白馬の山並みに向かってこぐ爽快この上ない大ブランコ「ヤッホー!スウィング presented by にゃんこ大戦争」(20年8月開業)、白馬村の田園風景や森林浴、アート体験、ティータイムなどが楽しめる「白馬ヒトトキノモリ」(21年11月プレオープン、22年4月グランドオープン)などだ。
1990年代以降スキー人口が減り続ける国内スキー場にとって、春、夏、秋のグリーンシーズンの集客は重要課題だ。和田社長が次々に打ち出した施策により、白馬マウンテンハーバーを開業した翌2019年には夏季の来場者が冬季の11万9000人を上回り、13万人を突破。21年も13万4000人と勢いはやまず、記録更新を続ける。ウインターシーズンのスノーリゾートにとどまらず、白馬・岩岳エリアの本格的な通年型マウンテンリゾート化に向けて突き進む。
もちろん、どの施策も和田社長一人の力では実現しない。「チーム和田」を支える、岩岳リゾート社員たちからの厚い信頼あってこそだ。14年から和田社長とともに「白馬の挑戦」に携わってきた同社副総支配人の山崎健司氏は「これだけ日本から注目されるようになったのは、和田社長だからこそ」と明言する。また岩岳リゾートを含めた白馬エリア全体の営業を担当する、日本スキー場開発営業本部営業部長の太田悟氏も「白馬にはいい素材があるが、その素材を生かせる人がいなかった。それを組み立てられる人が和田社長だ」と強調する。
昨今の苦しいスキー場運営のさなかにあって、なぜ、岩岳リゾートではコロナ禍の逆境をものともせずに次々と新たな施策を講じ、これほどまでの成果を上げているのか。
和田社長は「スキー場の売り上げの8~9割を占めていた国内スキー市場は縮小を続けており、厳しい業界だ。しかも苦しい中で時がたち、ゴンドラリフトなどのインフラや施設も老朽化してキャッシュも少なくなった中で、なかなか更新も進まない。だが、白馬の景観や地域の人々が持つポテンシャルを生かせれば化けそうだと思い、オールシーズンで稼げる『世界水準のマウンテンリゾート』に向けて踏み出した。まずグリーンシーズンに注力したのは、今まで活用していなかった期間であり“ギャップ”が大きいから。費用対効果が高い」と話す。
卓越したアイデアと実行力で、白馬エリアの活性化に挑み続ける和田社長だが、注目される理由は実績だけではない。その“経歴”も人々の関心を引きつけるものだった。一体、和田社長とはどんな人物なのか……。
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