
データを外部に販売する前に、ファーストパーティーデータの充実に力を注ぐ企業もある。これまで主に飛行機に搭乗すると顧客に付与されていた「マイル」を利活用できる場を増やし、得られたデータを使って顧客の満足度のさらなる向上を狙う全日本空輸(ANA)は、その1社だ。マイルの価値を高める同社の狙いと施策を追った。
ANAはこれまで飛行機で旅客や貨物を運ぶ「航空」と「旅行」という、“移動”に関わる2つの事業を主力としてきた。しかし、このまま移動だけに特化したビジネスを続けていては、新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、大きな成長が見込みにくい。
そこで、「マイルで生活できる世界」と銘打ち、マイルを移動の場以外でも活用することを考えた。マイルを使えたり、ためたりできる場を広く増やすことで、ANAと顧客の接点を広げつつ、マイルの価値を高めようというのだ。マイルの使い勝手が良くなれば、新規顧客をANAマイレージクラブ会員として獲得できる上に、マイレージクラブ会員をANAカード(クレジットカード)を持つカード会員へと育成できる。「ANAカード会員になると、ANAグループが提供するサービスの利用数や利用額(客単価)が一般の利用客を上回るので、よりANAとの関係が密接になる」(ANA X経営戦略部経営企画チーム リーダーの金子和晴氏)という。マイルをてこにしたANAカード会員の増加は、ANAにとってロイヤルティーの向上と収益増につながる可能性が高まるわけだ。
もちろん、マイルを利活用できる場が広がれば、ANAはこれまで得られていた移動に関わる顧客の行動履歴に加え、顧客のそれ以外の行動履歴も得られる。このデータを分析すれば、最適な顧客に、最適なタイミングでリコメンドし、行動変容を促して、さらなる満足度向上につなげられる。
3つの新しいサービスを21年度に提供
こうしたANAのマイル活用策を担うのが、2016年に設立したANAのグループ会社であるANA X(東京・中央)だ。21年度中に、マイルの利活用の場を広げる3つのサービスを開始した。
1つ目が、21年7月に開始した「ANAでんき(エイエヌエーでんき)」である。公共料金の一つ、電気料金をANAカードで決済した場合は毎月300マイル、マイレージクラブ会員の場合は同200マイルが付与されるというサービスだ。
サービス提供前は、利用する顧客の内訳をANAカード会員7割、マイレージクラブ会員3割と想定していたが、ふたを開けてみたら「ANAカード会員の割合が想定より高くなった」(ANA Xライフサービス事業推進部事業企画チームの折口良子氏)。「ANAへのロイヤルティーが高い顧客の満足度向上に、ANAでんきは貢献している」(折口氏)と受け止めているという。
2つ目が、21年12月にサービスを開始した「ANA Pocket(エイエヌエーポケット)」だ。スマートフォン利用者を対象に、これまでANAが提供してきた航空移動だけでなく、徒歩・電車・自転車・自動車での全ての移動に対してマイルに交換できるポイントがたまる、新しいモバイルアプリサービスである。日常生活を送りながら自然にマイルを得られる仕組みをつくることで、新規を含む多くの顧客に、ANAのマイルをためようという気持ちになってもらうことを目指す。
こちらもサービス開始から3カ月で、アプリを自分のスマホにダウンロードして日々利用しているデイリーアクティブユーザー数(DAU)が10万人を突破した。「想定していたよりも良い出足」(折口氏)だという。
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