
JR東日本が2022年5月、自社に蓄積されたデータの“外販”に乗り出した。交通系ICカード「Suica(スイカ)」の乗降利用データを社内で統計処理し、定型リポート「駅カルテ」の形で、自治体や企業向けに販売を始めたのだ。13年にもSuicaのデータ活用を試みながら、「個人情報保護への配慮が足りない」と利用客などの大きな反発を招き、事業を中止してから9年──。ようやくデータの“外販”にこぎ着けた格好だ。その狙いや、個人情報にどう配慮したかなどを追いかけた。
JR東日本が2022年5月から社外に販売を始めた定型リポート「駅カルテ」は、首都圏を中心とする1都10県のSuica利用の多い約600駅を対象に、1駅当たりの1カ月の利用状況を1つのリポートにまとめて提供するものだ。
JR東日本はグループ内で、今回のリポートに収録されたものと同様のデータを利用して、その効果を検証してきた。加えて、20年12月に神奈川県藤沢市に対して試験的にデータを提供したところ、好反応だったことから、「こうしたデータのニーズは、多くの企業や自治体の間で確実に存在する」(JR東日本MaaS・Suica推進本部データマーケティング部門次長の小野由樹子氏)と考え、販売に踏み切った。
リポートに収録されるのは、当該駅の乗降客数や、時間帯別や平日・休日別の利用状況、利用者(無記名利用者を除く)のSuica発行時の性別や年代といったデータだ。
当該駅の利用目的をタイプ別で表示
駅カルテならではの特徴は2つある。1つは、当該駅がどんな目的で利用されているかを、乗降客の利用動向から分析し、5つの指標を使ってタイプ表示していることだ。例えば、土日の乗降客利用が多ければ「商業施設利用」、夜間に降りる客が多ければ「住宅利用」、平日朝に降りる客が多く同夕方に乗る客が多ければ「オフィス利用」といった具合に分析し、それぞれを5段階で表示する。ある駅の周囲に出店を検討する小売業や、駅周辺の物件を扱う不動産業にとっては有益な情報だろう。
もう1つは、乗降客が当該駅と行き来することが多い駅を地図上に図示したり、ランキング形式で示したりしていることだ。乗降客のSuica利用を追っているので、行き来がある駅については、JRの駅はもちろん地下鉄や私鉄の駅も対象になる。こちらは当該駅に拠点を持つ商業施設がマーケティングを考える際に役立ちそうだ。
販売に際して、リポート数を選択するタイプと利用期間を選択するタイプの2タイプを用意した。前者は、例えば5つのリポートを50万円(税別)で提供。後者は、例えば3カ月でリポート400本まで利用できて240万円(同)で提供、といった具合だ。JR東日本MaaS・Suica推進本部データマーケティング部門副課長の石田雄一氏は、「目的に応じて、ユーザーが購入しやすいように設定した」と語る。当面は、観光地を抱える自治体や交通機関の混雑という課題を抱える自治体、商業施設を運営する企業や小売業、不動産業などを販売先に想定しているという。
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