※日経エンタテインメント! 2022年12月号の記事を再構成

この秋に55周年を迎えた『オールナイトニッポン』が大きな飛躍を遂げている。放送時間が深夜のため“受験生のためのラジオ”とのイメージも強かったが、後から番組を聴けるradikoのタイムフリー機能などによって視聴者層を大幅に拡大。今では20代以上がメーンのリスナーとなった。さらに、ポッドキャストなどのデジタルメディアにも積極的に対応し、生放送の番組が後から何度でも楽しめる“ストック型”のコンテンツに変貌。その結果、広告の増加、イベントやグッズなどの放送外収入拡大と、ビジネス面でも大きな成果を上げている。

現在は全8ブランド、30番組を有する「オールナイトニッポン」。テレビや音楽などで活躍する人気タレントが多数レギュラーを持つ。上写真の9組は『日経エンタテインメント!』2022年12月号にインタビューで登場。上段左から山田裕貴、白岩瑠姫(JO1)、アンガールズ、中段左からCreepy Nuts、星野源、久保史緒里(乃木坂46)、下段左からフワちゃん、佐久間宣行、マヂカルラブリー
現在は全8ブランド、30番組を有する「オールナイトニッポン」。テレビや音楽などで活躍する人気タレントが多数レギュラーを持つ。上写真の9組は『日経エンタテインメント!』2022年12月号にインタビューで登場。上段左から山田裕貴、白岩瑠姫(JO1)、アンガールズ、中段左からCreepy Nuts、星野源、久保史緒里(乃木坂46)、下段左からフワちゃん、佐久間宣行、マヂカルラブリー

「オールナイトニッポン」の冠は8ブランドに拡大、動画付きの番組も

 今年55周年を迎えた「オールナイトニッポン」(以下、ANN)が、21世紀最大の盛り上がりを見せている。聴取率は好調で、今年6月の「首都圏ラジオ聴取率調査」において、25時から放送の『ANN』(月~土平均)、27時から放送の『ANN0(ZERO)』(月~土平均)、そして昨年4月にスタートした24時から放送の『ANN X(クロス)』(月~金平均)の3ブランド全てで首位を獲得した(ビデオリサーチ調べ)。現在「ANN」の冠が付く番組は、他にも『ANN MUSIC10』や『ANN GOLD』『ANN Premium』など8ブランドにまで増えた。

 好調のきっかけは、ラジオをスマホ・PCで聴けるアプリ「radiko」の存在だ。2010年にリリースされ、16年度より1週間前までさかのぼって聴ける「タイムフリー機能」を搭載。深夜番組でも楽しみやすい環境が生まれているのだ。

 ラジオ業界がデジタルシフトを急速に進めるなかでも「ANN」の強さが際立つ理由には、まず55年積み重ねてきたブランド力の強さが挙げられる。タモリ、ビートたけし、中島みゆき、とんねるず、福山雅治、小栗旬…などなど、歴代パーソナリティーの豪華さには目を見張るものがあり、20代~60代の男女1万人に行った「ANN」の認知度調査でも94.6%という圧倒的な数字が出ている(22年4月楽天インサイト調べ)。

 デジタル対応への早さも強みの1つだ。生放送を盛り上げる施策として、16年度より全ての番組ごとにTwitterのアカウントとハッシュタグを作成。ANNの番組プロデューサーの冨山雄一氏は、「もともとラジオは1人で楽しむのが主流でしたが、Twitter上でみんなで感想を言い合い、リアルタイムで共感し合う流れを生み出せました」と語る。さらに、動画で番組の同時生配信も展開。現在、『ANN X』は「smash.」で、『ANN0』も10月から「HAKUNA Live」を通じて、視覚的にも楽しめるようになっている。

 ここ数年、世界的な盛り上がりを見せているポッドキャストにも進出。再編集した番組をポッドキャストにして各プラットフォームで配信することにより、地上波とは異なる新たなリスナー層の発掘にも成功している。冨山氏はこれらの戦略について、「参考にしているのは、デジタル化にいち早く成功した『少年ジャンプ+』です。若いディレクターに聞くと、ジャンプと言えば紙の週刊誌よりもアプリの『少年ジャンプ+』のことなんですよね。地上波に加え、デジタルでも『ANN』のコンテンツを楽しむことができる環境づくりを意識しています」と語る。

深夜3時台の『オールナイトニッポン0(ZERO)』の広告も激増

 こうした積極的なデジタル戦略によって「ANN」に様々な追い風が吹いている。なんと言っても大きいのは、リスナー層が広がったことだろう。「深夜番組のため、もともとのメーンリスナー層は中高生でした。しかし、radikoやポッドキャストでの配信視聴が増え、今は20代がメーン層となり、さらに30代、40代といった社会人にまで幅広くリスナー層が広がっています」(冨山氏)。

 また、配信視聴の増加で1部の『ANN』と2部の『ANN0』の環境に差がなくなったことも大きな変化だ。「radikoのタイムフリーの聴取数ランキングでは、上位に『ANN0』の各番組もランクインしています。こうした好影響は地上波にも波及して、『ANN0』のネット局は4年前の11局から現在は31局に急増、『ANN』の36局に迫ります。深夜3時台のため、広告がなかなか入らなかったのですが、タイアップ企画など広告も激増しています」(冨山氏)。

 その結果、旬の人気者が集まってくるという好循環も生まれている。ここ1、2年で就任したパーソナリティーを見ても、久保史緒里(乃木坂46)、マヂカルラブリー、フワちゃん、ぺこぱ、EXIT、白岩瑠姫(JO1)、山田裕貴、長屋晴子(緑黄色社会)といった具合だ。冨山氏も「少し前の『ANN』では、このラインアップは実現できなかったと思います」と明かす。

ポッドキャスト専門の「オールナイトニッポン PODCAST」を含めて、「オールナイト~」の冠は全8ブランド。週替わりの枠も含めると番組数は30を数える。様々なメディアへの配信、イベントや書籍・グッズなど、その展開は多方面へと広がっている
ポッドキャスト専門の「オールナイトニッポン PODCAST」を含めて、「オールナイト~」の冠は全8ブランド。週替わりの枠も含めると番組数は30を数える。様々なメディアへの配信、イベントや書籍・グッズなど、その展開は多方面へと広がっている

生放送のラジオをいつでも楽しめる「ストック型」コンテンツに

 この好調ぶりを受けて、「ANN」のブランド多角展開はますます加速している。ポッドキャストでは、昨年10月から「ANN PODCAST」という新ブランドがスタート。アンガールズ、蛙亭などのお笑い芸人が、日替わりで番組を配信している。今年5月からはSpotifyとタッグを組み、現在7番組のトーク部分をすべて配信。Spotifyジャパン音声コンテンツ事業統括の西ちえこ氏は、「これまでラジオを聴いていなかったSpotifyの若いユーザー層が、星野源さんやナインティナインさんなどのポッドキャストの番組を新たに聴き始めるようになっています」と語る。

 また、6月には有料サブスクサービス『ANN JAM』も始まり、過去のパーソナリティーの番組も聴けるようになった。番組はその場で流れて終わりではなく「フロー型からストック型へのシフトが進んでいる」(冨山氏)のだ。

 さらに、「ANN」のブランド力を生かしたイベントも、大規模会場で開催されるなど好調だ。そしてグッズや書籍など、番組外へのブランドの広がりも加速している。

 今や「ANNユニバース」時代に突入したと言えるほどの広がりりを見せている「ANN」。今後については、「ラジオ文化を続けていくために、『ANN』と組めば何か面白いことが生まれる、そう思ってもらえるような取り組みを行っていきたい」(冨山氏)と考えているそうだ。

日経エンタテインメント! 2022年12月号
特集:オールナイトニッポンが広げるラジオの可能性
表紙:松村北斗(SixTONES)


 『日経エンタテインメント!』2022年12月号のメイン特集は「オールナイトニッポンが広げるラジオの可能性」。radiko、ポッドキャストなどのデジタルメディアを活用し、リスナー層やビジネス規模を拡大する「オールナイトニッポン」の現状を解説します。スタッフへの取材のほか、Creepy Nuts、星野源、久保史緒里(乃木坂46)、山田裕貴、白岩瑠姫(JO1)、フワちゃん、佐久間宣行、マヂカルラブリー、アンガールズと人気パーソナリティ9組がインタビューに登場、全30ページを超える大型特集です。

 表紙は3年ぶりの新海誠作品『すずめの戸締まり』で初の声優に挑戦する、SixTONESの松村北斗。グループはもうすぐCDデビュー3年を迎え、個人では俳優として着々とステップアップを果たすなか、どんな思いで活動しているのかに迫りました。グループで担当する『SixTONESのオールナイトニッポンサタデースペシャル』の話も聞いています。

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