6月に11年ぶりの海外ワンマンツアー「EUROPEAN TOUR 2022」で欧州5都市をめぐり、今夏は「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2022」、「SUMMER SONIC 2022」をはじめ多くの夏フェスに出演中のマキシマム ザ ホルモン。さらに、10月放送開始の話題のテレビアニメ『チェンソーマン』の挿入歌・EDテーマも担当することが発表されたばかりと、常に注目を集めるアーティストだ。音楽性はもちろんのこと、そのクリエーティブやプロジェクトのユニークさにも定評が高く、本質を外さずに高いエンタテインメント性を共存させるその手腕はマーケターのファンも多い。
いったい彼らの何がマーケターの注目を集めるのか。今回はマキシマム ザ ホルモンのファンである「腹ペコ」を自認する3人の広告クリエーターに、マキシマム ザ ホルモン(以下、ホルモン)のメンバーでクリエーティブの中心を担うマキシマムザ亮君(りょうくん)のディレクションについて語ってもらった。
Que クリエイティブ・ディレクター/CMプランナー
豪勢スタジオ 映像作家/クリエイティブ・ディレクター
電通 エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター/第5CRプランニング局局長
演出づくりに見たCMクリエーター的なアプローチ
――今回、題材に選んだのは、彼らのライブ映像作品シリーズ「D対D」最新作で22年1月にリリースした『Dhurha Vs Dhurha ~ヅラ対ヅラ~』。DVDとBlu-rayの2枚組の合計で6時間20分に及ぶ超大作だ。広告クリエーターたちはここから何を見いだすのか。
眞鍋亮平氏(以下、真鍋) まずこのクオリティーとこの量(380分)を、この価格(4029円/税別)で出すことがすごいなと。僕ら“腹ペコ”は毎回「ホルモンならここまでやってくれるはず!」と期待していますが、常にそれを圧倒的に凌駕(りょうが)してくる。そこにファンへの愛を感じます。
藤井亮氏(以下、藤井) 僕は映像ディレクターなので、つい手数や工数を見てしまうのですが、カメラの台数、ポイントでしか使わない魚眼レンズでの撮影、編集でのエフェクト……こんな小さいコマにもCGが……とか(苦笑)。そうした細部に至るまでの物量にも引いたし、物理的・予算的にも相当無理しているのが分かる。亮君はこれを全部チェックしてるのかと思うと頭が下がる思いだし、そこから作り直しもあったのかなと思うと血の気も引く……。(笑)
岡部将彦氏(以下、岡部) 実は僕は、亮君の企画の“壁打ち相手”としてアイデアの初期段階で話を聞くことが多く、しばらくたつとそれが形になっていたり。
――例えば、このDVDのメインコンテンツである「全席・顔面指定席ライブ“面面面~フメツノフェイス~”」は、新型コロナウイルス禍で“全席指定”のライブをやらざるを得なかった亮君の「面白いものを提供したい」が凝縮したライブだ。“顔面指定席”とは、ファンが自身の顔面に合うカテゴリーに応募し、選ばれた“面”だけがライブに参加できる。インパクト強め系顔面の「コッテリー組」や会社の偉い役職風ヅラの「上層部」、オカンヅラの「どっぷりオカン」などに分類され、各顔のカテゴリーによって決められた“エモートスキル(鳴り物)”で応援するという極めてユニークなライブだ。
岡部 ホルモンみたいなライブハウスメインのバンドでも、コロナ禍で指定席のライブを行わなければならなかった。亮君は常にドキュメンタリーカメラで自分を撮影しているようなメタ視点がある人なんですが、モッシュも起こらない指定席のライブなんて……という思いがあったんでしょう。指定席に意味を持たせるためにまずアイデアで出たのが「あつまれ どうぶつの森」ならぬ「あつまれ どうぶつヅラの森」。お客さんの顔を“サル”“キリン”など動物に分類してみようとしたんです。ただ、いまいち面白くなかった。
そこから亮君のブレストに付き合って、数日後、今の形になっていたんです。亮君が考えていたのは「客席が映ったときどうすれば、モッシュに代わる強い絵面になるか」。課題の解決策を考えながら、さらに面白さを探して、解像度を上げていく。そうしたアプローチも極めて広告的だと思います。
藤井 自分のアイデアを基にブレストしてから持ち帰って詰めてくるなんて、まさにCMクリエーターと同じ作り方で驚きますね……。
眞鍋 映像を見ると、お客さんが本当に楽しそうでいい顔をしてるんです。僕ら広告業界でもよく「参加型」って言葉を使うんですが、素人の方々なので「参加させられている感を出さない」のってすごく難しいんですよ。だけど会場にいる腹ペコの皆さんは演者を全うしてるんです。あの巻き込む力は驚きでした。
岡部 観客が完全に5番目のメンバーになっていましたね。「どっぷりオカン」など、カテゴリー分けによる役割とエモートスキル(鳴り物)が用意されているから、スイッチが入りやすいんでしょうね。
今の時代に逆張りしているブランドだから“利く”
――「“面面面~フメツノフェイス~”」のライブ開催は4月。DVDに収録されている映像はその後、6月にその模様をオンライン配信した際のものだが、6月の楽屋風の生中継と4月のライブの2つの時間軸を、メンバーがタイムリープするという設定に。時間の齟齬(そご)を埋めるべく練りに練った脚本も用意された。全ては亮君の構想だ。
岡部 メンバー4人がキャラかぶりを一切しないのも強いですよね。広告をつくる際に「ブランドのイメージに合わないことをする」のってすごく恥ずかしいじゃないですか。でもホルモンは4人のキャラの守備範囲が広くて。シリアス、おバカ、エンタメ、アングラなど全部が当てはまる。何をやっても「ホルモンっぽい」になるのは、ブランド論の観点からもめちゃくちゃ強みだと思います。
眞鍋 さらにそのブランドが、いい意味で今の時代に逆張りが利いている。なにかとオーバーコンプライアンスになりがちな時代に、ギリギリのところを攻めていて一見ヤバそう。だけれども深く本質まで潜っているから、結果として人の心を揺さぶる。そういう意味では(ホルモンがCMにも出演した)日清食品の広告にすごく似てる。他がまねできないし、コロナ禍でより強くなるんです。もう1つの逆張りが、コミュニケーションのスピード。SNSに象徴されるよう、伝達する情報のスピードをできるだけ速く、効率よくしようという時代に、ホルモンは理解するのに時間がかかるような方法を取るんですね。映像作品も6時間以上あるとか、ゲームをやらないと隠しコンテンツが見られないとか。(笑)
藤井 僕たち広告に携わる人間は「見ている人に面倒くさいと思われたらヤバい」って常に気にするじゃないですか。たぶん亮君は気にしてないのではなく、すごく考えたうえで、それを無視する。どこで何を見てGOするのか、作り手としてはその判断がすごい気になります。亮君やホルモンの場合、ファンに対する信頼も大きいんでしょう。ちょっとくらい複雑にしてもついてきてくれる。
岡部 その受け手側への自信は、広告屋と全く違うところですね。(笑)
眞鍋 広告は本来邪魔なもので、嫌われていること前提だから、少しでも見ていただけるように……っていうスタンスになるからね。
岡部 そこは一緒に仕事をしていてうらやましいなと思うところですね。
亮君は作業中のコンテンツの状態をトランプの「絵札」に例えるんですよ。例えば「これはまだ6とか7くらいだけど、もう少し手を加えれば『絵札』になりそうだね」と。常に悩みながら本当にいいものを作ろうとしているし、そうやって一つ一つのコンテンツを精査しながら、パッケージ全体としても絵札になっているかと妥協しないんです。
(後編に続く)