※日経エンタテインメント! 2022年4月号の記事を再構成
誰もがもっと自由にイマジネーションを形にできる――そんな時代に先駆けてオープンした日本初のスタジオで、音楽コンテンツ第1号としてSixTONES(ストーンズ)がパフォーマンス動画を撮影。新時代ジャニーズが体感した新時代の映像技術とは。
背景がカメラの動きに“付いてくる!”
2月1日、ソニーはグループ会社・ソニーPCLの新たなクリエーティブ拠点として「清澄白河BASE」を東京都江東区にオープンした。同所には、日本初の“常設バーチャルプロダクション設備”をはじめとする最先端の映像制作機能が備わっており、エンタメ界からも大きな注目を集めている。
そこで撮影される音楽映像第1弾に選ばれたのは、ソニー・ミュージックレーベルズ所属アーティストであるSixTONES。3月2日リリースのシングル『共鳴』、およびカップリング曲『Gum Tape』(通常盤に収録)のパフォーマンス動画(※)撮影の様子を取材した。
『共鳴』では、あたかも氷の惑星に立っているような6人が、砂漠にも似た白い特設ステージでパフォーマンス。あたりには隕石や廃物のようなオブジェが転がっている。そして彼らの背後には、曲面状の巨大LEDウオール(壁)に映し出された3D空間が。宇宙の星々だったり、抽象的なグラフィックアートだったり――変幻自在に姿を変えながら広がるそれは、背景というより鏡の向こうに実在する世界のよう。息をのまずにいられない彩度と輝度は、ソニー製の「Crystal LED」というパネルで再現される。
そもそも“バーチャルプロダクション”とは、コンピューターによって一瞬一瞬ごとにリアルタイムでバーチャル空間を作成していくテクノロジーの総称。主にゲーム業界で使われてきた3DCGの技術を取り入れ、高度なCG背景やVFX(視覚効果)を大型LEDディスプレーに映し、その前に立った人物や物体をカメラで撮影することで、まさにバーチャル空間の中にいるような映像が撮れる。
以前から存在しているLEDマッピングとの決定的な違いは、その3次元感と細密さにある。撮影に使用するカメラ(今回はソニー製デジタルシネマカメラ「VENICE」)の位置がセンサーでリアルタイムエンジンと連動しているため、カメラが右側に移動すれば自動的に映像も右から見たアングルになり、カメラが上から俯瞰すれば映像の中も俯瞰した画となって大地が広がる。しかも、このLEDウオールは解像度が非常に高いため、カメラがディスプレーに相当接近してもそれが映像と分からないほどリアルだ。
合成がその場で完成する
こうした技術の強みを大いにフィーチャーすべく、『共鳴』の映像は、基本ワンカメショーの要領で進んだ。クレーンに設置されたカメラが縦横無尽にSixTONESの姿を追い、寄ったり引いたり、ひざまずく彼らを足元から見上げたり…。バーチャルプロダクションによるMVなどは他にもあるが、ここまでの速さ・なめらかさはソニーPCLの最新技術だからこそなせる業と言えそう。
たった1台のカメラによる動きでどれほどの映像体験ができるのか――これをうまく例えたのが、メンバー・髙地優吾の「テーマパークのアトラクションみたい」という言葉だろう。「セットの中にいる僕らの距離からでも映像がかなりリアルに見えるので、たまに平衡感覚がおかしくなってフワフワするというか(笑)、映像の世界に取り込まれそうになる。グリーンバックで想像力を働かせながらの撮影とは全くの別物」(髙地)。京本大我も「すごく奥行きがあるように感じるのに、実際のスクリーンは思ったより近いのでびっくり。CGなのに、撮ってるその場で(画が)完成するってとんでもないこと!」と感嘆。
CG背景との合成といえば、現在もクロマキー合成、いわゆるグリーンバックでの撮影が一般的だ。しかし、これだと完成図が監督の頭の中にしかないため、監督からスタッフ・演者たちへのイメージ伝達にも限界がある。その点、バーチャルプロダクションなら、現場で目に見えているものがそのまま作品になるので、スタッフ間のイメージの共有が正確でスムーズな上、演者もテーマに没入しやすい。しかも、クロマキー撮影の弱点として知られる照明条件も気にしなくて済む。
今回の2作品を手掛けた大河臣(おおかわしん)監督は、「今回はLEDの輝度をだいぶ落として撮影しているが、そこを“選べる”というのがこのスタジオの大きなポイント。MAXスペックのパワーでLEDの機能をばっちり生かした演出もいけるし、(輝度を)落としつつ、手前の人物は手前でライティングをきっちりする演出もできる。画を見ながらそれらを決めていけるのはすごい利点」と語る。
こうしたバーチャルプロダクションシステムがより一般に普及することによって、エンタメ界にもたらされるであろう変革は、少なくとも2つ挙げられる。
外ロケ同等の理想の画が
まずは前述の通り、撮影しながらCG合成があらかた完了するため、撮影後の編集・補整作業を大幅にカットでき、撮影から一般公開までのタイムラグを縮められる点。このリアルタイム性はイベントの生配信などにも最適だろう。
そしてもう1つは、ロケに出ずして屋外ロケと同等の画が撮れる点。映画やドラマやCF撮影において、ロケをスタジオ内に置き代えられることのメリットは劇的と言える。屋外に付きものの天候、気温、採光(夕陽のショットなどは時間との戦いだ)、人払い、望ましくない物の映り込みや反射…などの問題が一気に解決する。したがって、撮影シフトの遅延が軽減され、多忙なタレントのスケジュールも押さえやすくなるというわけだ。
実際にストーリーものの作品に大型ディスプレーが使用された例は、日本でも少なくない。が、従来のそれらは映像に合わせて演者が動くパターンだった。撮影カメラと連動して映像が立体的に動く、つまり映像がカメラに“付いてくる”ようになったのは、アメリカの配信ドラマ『マンダロリアン』(19年)が初。あまりにも有名な『スター・ウォーズ』シリーズの初ドラマ化だが、この作品では予算節約のため、実に50%以上のシーンの背景がバーチャル映像によって賄われている。
現在、バーチャルプロダクションに対応したスタジオは全世界で100カ所以上と言われている。「清澄白河BASE」内の常設スタジオの誕生は、日本でも多分野の映像クリエーターにとってバーチャルプロダクションをぐっと身近なものにするに違いない。コロナ禍で国内外への移動も簡単でない今、こうしたテクノロジーに熱い視線が注がれるのは自明だろう。
撮影後、メンバーのジェシーは「キレイすぎて、見た人、(背景が)映像だって分かんないかもね」と笑っていたが、実際それは過言ではない。『共鳴』のようにSF風のグラフィックならばCGだと誰でも分かるが、『Gum Tape』に登場する背景は、モニター画面で見ると、実写とまるで見分けがつかなかった。その驚異の映像美はぜひ完成した動画(SixTONES公式YouTubeチャンネル)にて確認してほしい。
生歌で収録される「PLAYLIST」シリーズ
監督の「もう1回いいですか」の声に、誰よりも元気に「何度でもやらせてください!」と返事をしていたのは森本慎太郎。6人とも本番とモニターチェック中はいつになく無口&真剣で、パフォーマンスに懸ける厳しい姿勢を垣間見た。されど、合間の時間はいつもの冗談好きを発動。小休憩に入るや否や「近いからちょっとスカイツリー行こう!」と脱走を図ったり(笑)、再入場するたび「おはようございま…おぉ!すげえ!」と朝のテンションを何度もリプレイしたりと、場を和ませていた。