「LINEのマーケティング活用」新常識 第5回

イスラエル発の美容品ブランド「SABON(サボン)」を展開するSABON Japan(東京・渋谷)は、「LINE公式アカウント」がECサイトの売り上げの3割をたたき出す。若年層にとって、LINEは家族や友人とのコミュニケーションの中心的な存在だ。20~30代の女性を顧客の中心に持つSABON Japanは、店舗とECサイトを連係した会員基盤をLINE利用を前提とした仕組みに振り切る判断をした。顧客データを基にした15個のシナリオ配信を4つのKPI(重要業績評価指標)で管理することで、売り上げ増加につなげている。

SABON Japan(東京・渋谷)のECサイトは、売り上げの3割が「LINE公式アカウント」経由だ
SABON Japan(東京・渋谷)のECサイトは、売り上げの3割が「LINE公式アカウント」経由だ

 ミネラル豊富な死海の塩とオイルを独自配合し、香り付けした肌の洗浄料「ボディスクラブ」をはじめとしたSABONの美容商品は、化粧品の口コミサイト「@cosme(アットコスメ)」が毎年発表するアワードを多数受賞するなど、女性から強い人気を誇る。商品そのものの人気も高いが、それだけでなくデジタルを活用した顧客との関係性構築にも長けている。CRM(顧客関係管理)戦略の中心に据えるチャネルが、LINE公式アカウントだ。

 SABON Japanは、2018年からLINE公式アカウントを活用したCRMに注力し始めた。SABONは専門店を展開するSPA(製造小売業)だ。「小売業では顧客データが欠かせない。ブランドは成熟するほど、顧客のロイヤルティーも高まってくるため、よりCRMが重要になる。ところが、以前はECサイト以外の顧客データをほとんど持てていなかった」(EC&デジタルマーケティングマネージャーの西裕美子氏)と危機感を抱いていたのがCRM強化のきっかけだ。

SABON Japanは2019年4月から「LINE公式アカウント」を活用して、CRM(顧客関係管理)の強化を始めた
SABON Japanは2019年4月から「LINE公式アカウント」を活用して、CRM(顧客関係管理)の強化を始めた

 従来オフラインの店舗で得られるデータは、美容部員が接客の中で顧客情報を紙に書き取り、それをあとからシステムに入力していた程度。属人的な方法ではデータの質にばらつきが出るうえに、接客効率も悪い。そこで、デジタルを軸にOMO(オンラインとオフラインの融合)型で、顧客接点の構築を目指した。その候補はLINEとアプリだ。「SABONの顧客層は20~30代の女性が中心。普段のコミュニケーションにメールを使うことが減っている層だ。必然的にLINEとアプリのいずれかという選択になった」(西氏)。

 アプリはデザインも含めて、ブランドの世界観を表現しやすいといった利点がある反面、個々にダウンロードしてもらう必要があるため、それが利用者獲得の高いハードルになる。さらに、スマートフォンのロックを解除した最初の画面にアプリを並べてもらわないと、日ごろの利用は見込みにくい。SNS、コード決済、地図、音楽配信アプリなど“競合”が多く、一企業のアプリがその地位を勝ち取るのは至難の業だ。

 一方、LINEはどうか。利用者数が9200万人を超え、日ごろのコミュニケーション手段として用いられるため、ロック解除後のトップ画面にアイコンを並べている人は多いはずだ。その“一等地”を利用して情報を届けられるのが強み。「毎日、何らかの理由で起動するLINEは高頻度で接点を持てるのではないか」と西氏は考えた。

 LINE公式アカウントは高機能化も進んでいる。自社ECサイトのIDなどとLINEのユーザーIDを連係し、POS(販売時点情報管理)システムと連携した会員証をLINE上で発行することで、店舗、すなわちオフラインの購買データなども統合的に蓄積できる仕組みの実現も可能だ。こうした理由から、西氏はLINE公式アカウントを顧客接点の中心に据えることを決めた。

SABONはLINE登録者を3層に分類

 活用開始当初、SABONはLINE公式アカウントの登録者を3つの層に分けていた。1つ目がSABONを認知しているものの購入頻度などは低い「友だち」。次にLINE上でユーザーIDの連係ボタンを押し、店舗で提示すればポイントがたまるバーコード付き会員証を持つ「仮会員」。そしてECサイトのIDとLINEのユーザーIDを連係した「本会員」となる。

SABONのLINE公式アカウントは開設当初、登録者を3つの層で分類していた
SABONのLINE公式アカウントは開設当初、登録者を3つの層で分類していた

 SABONのLINE公式アカウントに登録しただけでは、購買情報などは取得できない。この状態が友だちだ。とはいえ、いきなりECサイトとLINEのIDを連係をさせるのは手間がかかり、ハードルが高い。そこで、その中間として仮会員という仕組みを用意した。この仮会員段階では、SABON側にLINEのユーザーIDしか送られない。

 そのIDにひも付く形で、LINEのメッセージの開封の有無、メッセージ上のURLのクリックの有無といった反応データを蓄積する。また、仮会員の段階で、バーコード付きの会員証がLINE上に発行される。店頭での買い物のときに会員証を提示してくれれば、店舗での購買データも蓄積できる。ただし、仮会員が会員証を提示するメリットは購買データに基づいてパーソナライズされたメッセージを受け取れる程度のため、特典を得たい場合は本会員化が必須になる。会員登録はしていないため、氏名などは分からない“顔が見えない”顧客だが、LINE上での行動や購買データに基づくメッセージの出し分けには十分だ。

 本会員には誕生日の限定クーポンや買い物でたまるポイントプログラムといった特別なサービスを用意している。SABON Japan側は本会員化が進むことで、ECサイトでの行動や購買データも店舗での購買データを統合的に蓄積できるようになり、より高度なメッセージの出し分けが可能になる。この3層の会員組織は、LINE利用者であることを前提としている仕組みに驚きがある。若年層が顧客の中心であるSABONゆえの思い切った判断と言えよう。

 LINE経由で得たデータを基に配信するメッセージは大きく2つに分けられる。1つはSABON主導で配信する一般的なメッセージだ。例えば、友だち登録時には送料が無料になるクーポンを一律で配信して、購入を促進する。ただし、一斉配信の頻度は低い。過去のメッセージの開封やクリックの有無で、商品を既に認知していると判断した場合は、同じ商品を告知する場合に配信対象から省くなど、繰り返し同じような情報が届かないように配慮している。

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