
東急はスーパーマーケット「東急ストア」のスマートフォンアプリを2022年7月末に終了する方針。これまでデジタルを活用した顧客との継続的なコミュニケーションに「LINE公式アカウント」とアプリを並行して運用してきた。だが、LINE公式アカウントは開設1年でアプリ利用者の2倍以上の登録者が集まった。メッセージの開封率はメールの3倍以上と規模、反応率ともに大幅に効果が出ている。このことからアプリの終了を決め、LINE公式アカウントを軸に据えた新たなCRM(顧客関係管理)戦略へとかじを切った。
「東急ストアのスマホアプリは、7年間で9万人の利用者しか集まらなかった。一方、LINE公式アカウントには開設1年で20万人の登録者が集まった。アプリはよほどロイヤルティーが高い顧客しか使わない。そのため一旦終了することを決めた」
こう打ち明けるのは東急デジタルプラットフォームマーケティンググループマーケティング担当の乗松康行課長だ。東急はLINE公式アカウントの登録者獲得で何か奇策を講じたわけではない。東急沿線を中心に90店舗(22年4月時点)を展開する東急ストアでの買い物をきっかけに登録する仕組みをつくり、店舗を軸に地道に獲得していった。
「当社は東急線沿線で事業を展開する地場の会社。やみくもに登録者を募るより、既存顧客とつながって、売り上げ増加を目指したほうがコスト効率はいい」(乗松氏)と考えたのがその理由。にもかからわず、アプリと比較して目覚ましいスピードで登録者は増えた。日ごろから家族や友人との連絡手段に使っているLINEで登録者を獲得するのに比べ、新たにアプリをダウンロードしてもらうことの難しさが浮き彫りになった格好だ。22年5月時点では約30万人が登録している。
普段から店舗を利用する顧客を集められているため、メッセージに対する反応率も高い。東急グループのメルマガの開封率は平均16%、掲載するURLのCTR(クリック率)は3.9%だ。メールマーケティングの効果が低下する現代においては、決して低い数字ではない。だが、東急ストアのLINE公式アカウントのメッセージ開封率はその3倍超の63.2%。CTRも4倍超の16%だ。ブロック(配信停止)率も20%前後と非常に低かった。顧客接点のツールとして、LINEの優先順位が高まるのもうなずける。
もっとも、単に「LINEのほうが顧客とつながりやすかったから」という理由だけで高い効果を維持できているわけではない。LINE公式アカウントの開設直後は手痛い失敗も味わった。創意工夫をしながら、顧客に好まれるメッセージ配信のノウハウを蓄積した結晶だ。
「LINE Pay」ユーザーを東急のアカウントに誘導
東急がLINE公式アカウントを設けたのは19年9月のこと。きっかけはQRコード決済「LINE Pay」の導入だ。新たな決済手段として、コード決済の利用が拡大する中、東急ストアでも顧客の利便性向上のために導入を検討していた。ただ、単にコード決済を導入しただけでは決済手段が多様化するだけで東急にとってのメリットは少ない。そこでLINE公式アカウントに目を付けた。
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