
バーチャルメークの進化がすごい。まばたきなど微妙な顔の動きにも対応し、化粧品ごとの色味や質感もリアルに表現されている。先端AR(拡張現実)技術によるこうしたサービスは、一般ユーザーが使用するだけでなく、ルイ・ヴィトンなどの仏LVMH系ブランドや資生堂なども導入し、製品を試せる場として顧客に提供している。美容業界のオンライン接客を支えるツールとして、最注目だ。
パーフェクト(東京・港)をご存じだろうか。コスメのお試しやアクセサリーの試着体験がバーチャル上でできる、 AR(拡張現実)・AI(人工知能)技術を使ったサービスを提供する、台湾発の企業だ。例えばバーチャルメークは、端末に自分の顔を映し、リップやアイメークなど試したい化粧加工を選んでメーク体験ができる。まばたきや顔の向きなど微妙な動きにも対応していて、さながら自分の顔に化粧をしているかのようなリアルさだ。
新型コロナウイルス禍以前の、百貨店の化粧品売り場を思い浮かべてみてほしい。客は美容部員に実際に化粧を施してもらったり、店頭のテスターを自分の肌に乗せてみたりしながら商品を選んでいた。パーフェクト日本法人の代表取締役社長、磯崎順信氏は「EC(電子商取引)やデジタル技術が著しく発展した現代でも、9割以上の人はリアル店舗で化粧品を購入するといわれている」と話す。そうした業界において、リアル店舗での接客がままならなくなったことは致命的だ。少しでも顧客とのタッチポイントを確保したいブランドにとって、オンライン接客を支えるパーフェクトの技術はまさに救世主となっている。新型コロナウイルス感染症の影響が本格化した20年、日本のパーフェクトには前年比約10倍の問い合わせがあったという。
パーフェクトは、一般ユーザー向けにはアプリを、ブランドや小売店向けには主にブラウザーで使用するサービスを提供している。導入したブランドは、色やテクスチャーなどの商品情報をデータベース上に登録することで、接客時にバーチャル上でその商品を顧客に体験してもらうことができる。リアルでは一度の接客で何十種類も商品を試してもらうことは難しいが、バーチャル上ではタップするだけでお試しができる。新型コロナウイルス禍でリアル接客ができない状況に加え、こうした手軽さがより良い顧客体験を生むとして、ルイ・ヴィトンなどを抱える仏LVMHグループや、国内でも資生堂や花王など、大手メーカーの多くが同社のサービスを導入している。2022年3月には、評価額10億ドルでSPAC(特別買収目的会社)と合併し、米国で上場を予定していることを発表。他にも米メタ(旧フェイスブック)との協業や中国のアリババ集団が運営するECサイトとの提携など、ビューティーテック業界の雄としてその地位を確立している。
「エンゲージメントを高めることが、我々のツールの一番のメリットであり目的だ。オンラインでのソリューションだとどうしてもさまざまな要素が薄まってしまうため、おそらくリアル店舗よりも良い体験は作れないと思う。ただ、膨大にエンゲージを作ることはできる。オンラインで体験した人が、じゃあ実際に店舗で見てみようと思ってくれれば、我々の役割としては勝ちだと思う」と語る磯崎氏。近年ますます台頭する接客形態を技術面で支える同社は、その真価をどのように捉えているのか――。
パーフェクトは15年に台湾で創業した。動画編集ソフトなどマルチメディア関連のソフト開発を手掛ける「CyberLink」から分社化した企業だ。単なるビューティー加工ツールとしてでなく、AR技術を用いて日常的なショッピングに対応できるツールであることを目指し、創業当時から一般ユーザー向けとブランド、リテーラー向けの両軸で事業を行ってきた。ブランドが商品を自社コンテンツ内で提供するだけでなく、YouCamアプリ内で試せる化粧品も、ブランドが実際に販売している商品だ。"盛る"だけでなく、実在の商品を試せることでユーザーは買い物の参考にできる。また、ブランド側が使いやすいポータルを提供し、ブランド自身が商品情報を登録できるようにしたことで、商品ラインアップが常にアップデートされている状態ができた。ユーザーからは買い物を便利にするツールとして重宝され、ブランドは商品をいち早く試してもらう場を設けられるとして、パーフェクトのサービスは広がった。
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