オンライン接客 vs リアル接客 第5回

小売業界が苦境の中、パルの業績は好調だ。長引く新型コロナウイルス禍の情勢を鑑みて、EC販売の強化に最注力した結果だという。各社がEC販売に乗り出す中、なぜパルは抜きんでた結果を残せたのか。そこには同社ならではの「個」を重視したオンライン接客術があった。

3COINS(写真/Shutterstock)
3COINS(写真/Shutterstock)

 300円雑貨ショップ「3COINS」などを展開するパルの成長が止まらない。2021年3月から22年2月末までの前年比売上高は、衣料事業で15.3%、雑貨事業で42.8%の増加、EC売り上げは38.4%の増収となった。特に、自社サイトであるパル公式オンラインショップ「パルクローゼット」は、55.2%の増収になった。

3COINSのパルクロLIVEの様子
3COINSのパルクロLIVEの様子

 2010年ごろから始まったパルクローゼット。当初はスタートトゥデイ(現ZOZO)が制作、提供するシステムでECサイトを運営していたが、16年から完全に自社化。現在はパル内の55のブランドが、サイト上にそれぞれのページを有している。パルクローゼットでは商品のスタッフレビューやスタッフブログ、動画配信の「パルクロLIVE」などを見ることができる。アパレルブランドのみならず3COINSなどの雑貨ブランドも、商品を実際に使用する様子をライブで配信したり、ブログで商品紹介をしたりと、積極的な発信を行っている。これらのオンライン接客ツールを活用し増収を達成した裏には、どのようなノウハウが見られるのだろうか。

 パルがオンライン接客を開始したのは、17年ごろからだという。それまでもパルではInstagramなどでの発信を社として推奨しており、スタッフは個人的に顧客とのつながりを築いていた。しかしSNS上のコンテンツはSNS内だけで完結してしまい、自社ECへの導線にはなっていなかった。販売員個人個人が持つ顧客とのつながりを、ブランドにまで還元できるようにならないか。そのためには「スタッフ個人とお客様が共感し合っていけるような仕組みが必要だと思った」とパルのプロモーション推進部WEB事業推進室兼コミュニケーションデザイン室 執行役員の堀田覚氏は語る。

 現在のパルクローゼットにはスタッフごとのページがあり、個人のInstagramアカウントや身長、ボトムスのサイズ、骨格タイプまで、情報が事細かに記されている。ブログなどの文体も統一されておらず、スタッフ個人の雰囲気をリアルに感じ取れる。また、販売商品をスタッフが実際に使用する様子を動画で配信するパルクロLIVEでは、客がリアルタイムでコメントを書き込んで、配信中のスタッフに商品のサイズや質感など、気になることをその場で質問できる。

 その他にもテキストでメッセージのやりとりができるチャット機能などもあり、プラットフォーム全体を通してスタッフと客の距離がとても近いのが特徴だ。また、どのツールも活用方法にルールはなく「コンプライアンスを守り自覚を持った上で、個性を発揮して楽しみながら自由に発信すること」が呼びかけられている。発信内容は完全に個人の裁量に任せられているため、商品紹介を見ることで、紹介するスタッフのキャラクターまでもが見えてくる。客はスタッフに親近感を持ち、ただ商品を見るためだけでなく、応援するスタッフの動向を見るためにサイトを訪れるようになるのだ。

パルクローゼットのページの一部
パルクローゼットのページの一部

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