
リアル店舗の対面接客を“接客1.0”とするならば、“接客2.0”と呼べるオンライン接客が台頭している。オンライン接客で売り上げを伸ばしているのは、実は店舗スタッフたちだ。リアル接客の隙間時間を活用したり、予約制を取り対面に引けを取らない良質な接客を提供したりと、オンライン接客により従来接点のなかった新規顧客を開拓する動きも出ている。業種・業界を問わず主要な販売手段として存在感を示し始めたオンライン接客。その最前線で行われている取り組みとは。
接客が進化を遂げている――。店頭で販売する従来のリアル接客に加え、近年はSNSや専用ツールなどを駆使したオンライン接客が、企業の売り上げに大きな影響を及ぼしている。こうした新たな動きの渦中にいるのが、従来店頭で接客を行ってきた店舗スタッフだ。彼らは持ち前の高い接客力を生かし、オンライン接客でも活躍。中には、月に1億円超を売り上げるスタープレーヤーも誕生している。
ツールの進化も著しい。化粧品業界では、AI(人工知能)やAR(拡張現実)を搭載したバーチャルメイクサービスにより、「実際に試せないデメリット」が、「むしろ短時間でより多くのバリエーションを試せるメリット」へと変化している。多く試せる分だけ購入率が高まるという効果もあるようだ。バーチャルメイクサービス「YouCam メイク(ユーカム メイク)」提供元のパーフェクト(東京・港)によると、サービスを利用したユーザーの商品購入率は、非利用者と比較すると2~6倍になるという(YouCam メイクのコスメオンライン接客事例は、第7回で紹介する)。
本特集ではツールの活用と共に、リアル接客とオンライン接客、双方で成果を出しながら相乗効果を図る秘訣を探る。ECサイトに商品をただ並べているだけの時代はもう終わった。令和のECの勝ち筋は、店舗スタッフの発信力でいかにオンラインでの顧客接点機会を広げ、ファンを増やし、長期的な関係を構築できるかにある。第1回は、用途や目的別にオンライン接客を4象限に分け、令和の「接客最新トレンド」を整理する。
家電量販店やスポーツ用品店も コロナ禍が後押ししたオンライン接客
オンライン接客を改めて一言で説明すると、SNSや専用ツールを活用し店舗スタッフや本部スタッフなどがオンラインで接客を行うこと。リアル接客は、実際に客が店頭に来店しないと実現しないが、オンライン接客であれば、客は自宅から出ることなく接客を受けられる。接客の種類によっては、店舗スタッフも自宅から対応できる。
オンライン接客は新型コロナウイルス感染症拡大で浮上した「非対面・非接触」ニーズとも相性が良く、2020年以降、アパレル、コスメ、家具・家電、不動産、保険など、ジャンルを問わず急速に浸透した。
バニッシュ・スタンダード(東京・渋谷)が提供する、店舗スタッフがSNSに投稿したコーディネート写真などがどのくらい自社EC売り上げに貢献したかを可視化するスマホアプリ「STAFF START(スタッフスタート)」は、主力だったアパレルに加え、ヤマダデンキ、ニトリ、資生堂、アルペンなどさまざまな業種に導入が広がり、流通総額は1380億円(21年1月~12月)を突破している。
オンライン接客に注目が集まる理由は2つある。1つは、顧客接点の拡大。リアル接客の場合は、客との接点が「リアル店舗」に限られる。しかしオンライン接客であれば、その範囲が“オンライン”へと無限に広がるため、北海道の客が沖縄の店舗スタッフの接客を受けるといったことも可能になる。場合によっては、商圏を海外に広げることもできるだろう。
高島屋が22年4月29日に新宿高島屋(東京・渋谷)に1号店をオープンしたショールーミングストア「Meetz STORE(ミーツストア)」では、6月中に、遠方在住などの客に向けたオンライン接客を始める予定だ。当面は新宿高島屋から日本語での接客対応を行うが、将来的には海外にもオンライン接客拠点を持ち現地スタッフに商品を送るなどして、海外での英語や中国語による接客のリモート対応も検討するという。
オンライン接客が注目を集めるもう1つの理由が、ファン化の促進。スタッフスタートを利用する全国1700ブランド、11万人の店舗スタッフのうち31%のスタッフは、ロイヤルカスタマー(公式ECサイトで購入する商品の半数以上を、そのスタッフの投稿経由で購入する客)を少なくとも1人以上抱えているという。こうした人気スタッフの中には、1投稿で8000万円を売り上げたり、1カ月で1億3000万円を売り上げたりする人もいる。また利用ブランド全体では、自社ECサイト売り上げの46.7%がスタッフスタート経由となっているといい、店舗スタッフによるオンライン接客の効果がうかがえる。
バニッシュ・スタンダードが21年8月に実施した、企業対抗オンライン接客大会「STAFF OF THE YEAR」で1位、2位を独占したのがバロックジャパンリミテッド。同社はライブコマースを強化しており、閉店後に店内から行う僅か30分の配信で、同日の店頭売り上げを上回ることもあるという(同社のオンライン接客活用例については、第4回で紹介予定)。
オンライン接客に取り組むのは大手企業だけではない。個人経営者や中小企業であっても実施できるのがメリットだ。例えばバターコーヒーなどのダイエット商材をEC で販売する「ミウラタクヤ商店」は、運営元のモノリス(京都市)の三浦卓也代表が1 人でEC サイト運営からオンライン接客まで行っている。1人運営ながら、年商は19 年~21 年までの3 年連続で1億円を達成している。
その秘訣は、LINE公式アカウントを通じて行われる細やかな接客対応とコミュニティー作りにある。LINEでは主に顧客とテキストでやり取りを行っているが、その数は、1 日に40~50 回(21 年8 月時点)にもなる。こうした親身な対応がファン化につながり、1カ月の売り上げの62%(同)が、リピーターの注文により作られているという。
4象限で見るオンライン接客パターン
一口にオンライン接客といってもさまざまな種類が存在するため、自社の用途や目的に応じて使い分ける必要がある。
メガネ・コンタクトレンズなどの販売店チェーン「メガネスーパー」を展開するビジョナリーホールディングスのCDO(最高デジタル責任者)であり、ECの専門家としても活動する川添隆氏によると、オンライン接客は次の4象限に分けることができる。
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